6:バトル・オブ・サイトーさん
よろしくお願いします。
「なんか【メガロドン】ってのがいますー!」
俺が声を張り上げると、船全体が喧騒に包まれた。バレウスさんとガンジスさんが飛んでくる。
「メガロドン、何処だ!」
俺が指差すとガンジスさんが目を凝らす。
「親父どうだ?」
「後方200。確かにメガロドンじゃ。でかいぞ」
ガンジスさんとバレウスさんは親子らしい。確かに名前の雰囲気が似ている。それより200先って200メートル?
比較対象がないから分かりにくいけど、そんな距離で見えるってかなり大きいんじゃないだろうか。
「背鰭がこっちを向いとる。襲うタイミングを待っとるんじゃな」
「タイミングですか?」
俺が質問するとガンジスさんは空を指差す。そこにはいつの間にか、濃灰色の雲が広がりつつあった。
「雨の中じゃわしらが不利じゃな。こっちから仕掛けるぞ」
「うしっ」
ガンジスさんの言葉にバレウスさんが気を吐いた。
「後方200メガロドン、雨が降る前に仕留めるぞ!ありったけの火槍出せ、網も使うぞ!」
「「「アイサー!」」」
バレウスさんが大声で指示を飛ばすと、皆が勢いよく返事を返する。
「あの距離で良く見つけたのぉお手柄じゃ。前にも見たこと有るんか?」
ガンジスさんがメガロドンから目を離さずに聞いてくる。
「いえ【鑑定】で見ただけでして......凶暴ってありましたが危険な奴なんですか」
「ほぉ、スキル持ちじゃったか。わしの【鷹の目】程ではないが索敵に向いておるのぉ」
「ガンジスさんもスキルをお持ちでしたか」
「んむ。しかしいかんな、あまり自分のスキルをひけらかすもんじゃないぞ。スキル持ちは珍しいもんじゃないが、便利なスキル持ちは狙われるものと相場が決まっとる」
ガンジスはちらりとこっちを見て忠告してくれた。
俺が頷くと視線を戻す。
「さて、ここでお前さんはお役御免じゃ。後はわしらに任せて、船の真ん中で隠れておれ」
否はない。さっき以上に俺は役に立たないだろう。ガンジスさんの言葉もそれを許していない。
俺はガンジスさんを残して船の中程に向かった。
途中でバレウスさんがやって来ると、ロープを渡される。
「それでどっかに体を縛っておきな」
「命綱ですか......戦争でもやるみたいですね」
「ははっちげえねえ。戦争さ戦争!相手はこの船よりデカイ30メートル級だぞ!」
30メートルってクジラより大きいじゃないか!クジラサイズのサメ......そこで俺はようやく思い出した。
恐竜図鑑に載っていた古代鮫。子供の頃のトラウマの一つ。俺はあの図鑑を見てから海水浴恐怖症になったんだよ!
あれが実際に襲ってくる。考えるだけで膝が震えてきた。
俺は慌てて近くの支柱に体を固定した。
でもこれってヤバくなった時、逆に逃げられないんじゃあ......。怖い考えになりそうになったのを、頭を振って散らす。
そうだ、きっとバレウスさんがなんとかしてくれるはずだ。
「取り舵いっぱーい!」
聞こえてくると同時に、慣性で体が右に引っ張られる。俺には見えてはいないが、船首は左へ切り込んで行くはずだ。
「メガロドン目視確認、火槍左舷並べ!続いて網準備!」
太めの棒みたいのを持った男衆が並びその後ろを地引き網を持って並ぶ。
(【鑑定】)
【火槍】火炎魔石製の槍を砲身から打ち出す武器。発動コードは『ファイアー・ジャベリン』。使用者制限無し。再使用不可。
気になって【火槍】を鑑定してみると、想像と違った結果が表示される。
てっきりライフルの類いかと思ったのだがやや趣が違う。
『Booooon!Buooooom!ーーー』
突然ひどい音が響く。濁音の塊、超低音ビブラート、長振動音。それらが全部混ざったひどい音は響き続ける。
「来るぞっ!火槍構えっ!」
音の発信源はメガロドンだろう。音が次第に大きくなってゆく。
「放てぇっ!」
「「「ファイアー・ジャベリン」」」
掛け声に合わせて男衆が【火槍】を投げつける。火槍は海面に向かうとワンテンポ遅れて炸裂する。
『BooooGaaan!BuooGooon!ーーー』
水面が山なりに持ち上がったと思うと、大量のしぶきをあげて巨体が舞う。メガロドンだ。
灰色の体を真っ赤な血が汚している。所々に赤熱状態の魔石の槍が突き刺さったままだった。
指示は聞こえなかったが、男衆がメガロドンに網を放る。
俺には巨体に網を被せることは無謀に思えた。
しかしメガロドンは勝手に暴れて、見る見る間に自ら網にからんでゆく。
暴れるメガロドンが船体にぶつかって何度となく振動が襲う。
俺は震えながら支柱に抱きつくだけだ。
第二波、第三波の【火槍】が命中する度にメガロドンの動きが鈍ってゆく。
このまま勝てるか?
痛恨の失敗。俺は無意識にフラグをたててしまった。メガロドンは一際大きくと嘶くと、海面から飛び出す。
巨体を捻りながら、船の甲板に落ちてくる。
響く爆発音と破砕音は、同時に甲板を覆った波に消される。視界の端で、男衆の何人かが海に流されたのが見えた。
俺を縛り付けていた支柱も、あっさりとへし折れる。
さらに引き波が俺を押し流す。メガロドンの目の前に。
『Boon......Buom!』
メガロドンの首だけが甲板に乗り上げている。ダンプカーのフェイスよりずっとデカイ。
俺は思いっきり漏らした。