3:サイトーさんの夕食
よろしくお願いします。
【海水】 海の水。ミネラル豊富だが、塩分が多く飲用には向かない。
岩場の潮溜まりを【鑑定】してみるとこんな結果が視線の先に浮かぶ。
海水は地球と同じで塩辛いようだ。
鑑定結果を触ろうと手を伸ばすと、手は表示されたパネルを突き抜ける。
実際にパネルが現れているわけでは無さそうだ。
AR技術みたいなものな、出力先が直接目なのはちょっと怖いが。
視界の端を黒ものが横切る。一瞬Gかと身体が強ばったけど良く見れば小さな蟹だった。
「【鑑定】」
【安山岩】火山岩の一種。
声には反応したのか、蟹は素早く岩陰に隠れる。対象が居なくなったためか鑑定結果は岩の物になった。
辺りを見ると黒い蟹はそこら中にいる。今度は声に出さず【鑑定】してみた。
(【鑑定】)
【磯蟹】 海棲の蟹。浅瀬に棲む。食用可。魔石を保有しない。
思った通り声を出さなくても【鑑定】は可能みたいだ。
それより気になる文章がある。食用対象が増えたのは喜ばしい。が、魔石とはなんぞ?
適当に集めた枯れ枝を、落ち葉を使って焚き付ける。ほとんど真っ暗だった砂浜が黄色く照らし出された。
日がくれて急に暗くなった時は焦ったが、まあなんとかなったようだ。有り難う100均ライター。
拾った流木を火の様子を見ながら折れ入れる。
火勢が大きくなったのを見計らって、磯蟹を刺した若枝を火であぶり始めた。
蟹が焼ける匂いを嗅ぎながら、椰子の実を剥き始めた。
今夜のメニューは焼き蟹、椰子の実ジュース、椰子の実の果肉。
まずは椰子の実の果肉。でこぼこの石包丁で切るのは大変だったが、苦労の甲斐があった。食感はよくイカの刺身に例えられるけれども、イカの刺身に比べると歯切れは良く、味は淡白。調味料は海水に浸しただけだったがそれなりに美味い。
椰子の実ジュースは塩気の無いスポーツドリンクだが、甘味が強いので新しい味わい。まあ、生温いのと青臭いのは果肉も含めて残念な処。
メインディッシュの焼き蟹はとても香ばしい。すごく香ばしい......いや、蟹の身は甘くて味噌は苦みとコクが有って美味しいんだけど、殻ごと食べたので頭に響く音と、香ばしさしか頭に残ってないんだ。
腹具合が落ち着いてようやく人心地つく。焚き火の近くに椰子の葉を重ね置くとその上に座った。
何となく癖でスマホを出すが、何をする訳でもない。アンテナもwi-fiも反応無しだ。バッテリーの残りも心もとない。
それよりも、時間の方が気になった。20:50。体感でも妥当な時間だけど正確な時間が知りたいわけじゃなかった。この星の自転周期が24時間とは限らないからだ。
知りたかったのは日の入りと日の出の時間だ。
それが分かれば一日の長さが分かるし、日の入りの時間が分かるのは大きい。
取り合えず明日の宿題だと俺は、頭のメモ帳に書き込む。
そして俺は大きく伸びをすると、大の字になって寝転んだ。
チクチク葉先が当たって痛いが、我慢出来る範疇だ。それ以上に、疲れているからもう起き上がりたくない。
色々あった。どう考えても明日以降も色々有るだろう。疲れからか瞼が重い。
目を閉じるとリュブリブスの話を一つ思い出す。
「【神託】」
神様のサポセンに繋がるスキルだったはずだ。
『ただいま留守にしております。発信音が鳴りましたらお名前とご用件をお願いします』
無機質な返答に頭の中が真っ白になる。
そんなことだろうと思ったよ!ったく100均ライターより役に立たねぇ。