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サイトーさんの異世界紀行  作者: しあん
11/11

10:サイトーさんと謀略

よろしくお願いします。

「王都ですか?」


 食堂ではガンジスさん一家と俺が朝食の席に着いていた。

 俺は朝御飯を頬張るのをやめて返事をする。

 メニューはトルティーヤ並みに薄いパンを魚のフライに巻いた物だ。

 少し漬かり過ぎたザワークラウトと卵黄の漁醤漬けが一緒に挟まれ、酢漬けの酸味とフライの香ばしさが良く合う。更に卵黄がねっとりと絡みパンの中で調和を整えるソースの役割を担っていた。

 パンは酵母が特別なのか、薄く焼かれているのに気泡がしっかりとありボリュームと極上の柔らかさを産み出す。

 しかし、ラミカさんの作る飯はいつも美味い。

 このハグロック村に来て、既に半月程が過ぎていた。

 俺は毎日村の仕事を手伝いながら、この世界のことを学んでいる最中だ。


「そうじゃ。倅と一緒に船の受け取りに行って欲しい」


 ガンジスさんは既に食事を終え、食後のお茶を飲みながら

話を続ける。


「それは構いませんが、俺でいいんですか?」


「むしろ頼む。王都沿岸が最近きな臭くてな。お前がいれば対処しやすい」


「船を受けとるのに、あえて海路ですか......」

 

 ガンジスさんが言外に言わんとする事を察する。

 もちろん船の受け取りなのだから海路は外せない。だが、復路だけでなく往路もとなると他の理由が有るのだろう。

 アルサンド王国。大陸東部の小国。小国故に日々外圧にさらされている。

 ハグロック村は王都の東に有り、屯海兵として王国の海防を担っているそうだ。

 その頭領がきな臭いルートを選ぶということは、こちらからその原因に打って出るということだ。


「そうじゃ、王都行きのついでに一仕事じゃな」


「海軍相手か、海賊か分かりませんが、俺はそんなに役に立ちませんよ」


「謙遜すんな。海賊相手なら魔法ばら蒔いてるだけで十分役に立つ」


 バレウスさんはそう言うが、不安は消えない。練習して魔法は使えるようになったが使えるのは【ファイアー・ジャベリン】のひとつだけだ。

 属性の素養があれば魔導書を読むことで魔法を使える様になるらしいのに俺はガンジスさんの蔵書全てを試したが全く成果がない。


「それに、お前は一度は王都に行った方がええ。それはわかってるじゃろう。今回はそのきっかけだと思えばええんじゃ」


 確かに俺は王都に行く理由が出来ていた。正確には王都に有る大聖堂に用事が有った。

 一つはオプション。俺がガチャと断じたスキル追加の『オプション』だ。これは大聖堂に有る聖域と呼ばれる場所で利用できる。

 もう一つは【神託】の使用だ。そもそも何故『オプション』が聖域でしか使えないかと言えば、聖域が神と交神出来る場所だからそうで、留守電だった俺の【神託】もここでなら使えるのではないかというガンジスさんの考えだ。


「サイトー、王都行くの?!お土産期待してるね!」


 バレウスさんの愛娘アミカちゃんが、キラキラとした目をしおねだりしてきた。

 



 村を出発して五日目。船はつつがなく進む。

 片道一週間ほどの行程だが、航路偽装を意識した大回りな海路を進んでいる。

 ちなみに、陸路を馬で進めば半分の時間で済むそうだ。

 乗っている船は村に泊めてあった中では中程度の大きさの船で、俺の見立てでは大型漁船といった大きさだ。

 

「釣れませんねぇ」

 

 横にいるバレウスさんの竿と俺の竿も、仕掛けを流してからピクリとも反応がない。

 船尾で見張りの名目で二人もの大人が、トローリングの真似事をしているのにも理由が有る。暇なのだ。

 船には擬装を除いて、漁の道具を載せていない。なのに乗り込んだ船員は多い。

 結果、力(だけ)自慢のバレウスさんと魔法使い(見習い)の俺は体よくつま弾きにされていた。

 最初はそうでもなかったのだが、バレウスさんが虎の子の山鳥のハムを摘まみ食いしてからは、船内に入ることすら許されていない。

 バレウスさんの食いしん坊にも困ったものだ。

 まあ、あんなに柔らかでジューシーなハムなんだから欲望に負けるのも仕方ない。うん仕方なかったんだ。


「釣れないな。さっさと引っ掛かれってんだ」


 そう言いながら干し肉をブツリと噛みきる。俺の目線に気付いたのか、渋々と一本差し出してきた。仕方なく、仕方なく俺は受けとる。

 干し肉をくわえるとピリリと辛みが舌を刺し続いてゆっくりと獣脂が溶けてくる。あえて噛まず、くわえタバコの要領で干し肉をしゃぶる。


「っち!」


 バレウスさんの竿に当りが来たみたいだが、上げた仕掛けには魚も餌もついていなかった。

 ぶつぶつと文句を言いながら餌をつけ直す。

 俺も竿を上げてみると餌は残っていなかった。こっちは当たりすら見逃していたようだ。

 そのときマスト上部の見張り台から声が上がる。俺は餌をつける手を止めた。


「ーーー前方3つ。海賊旗確認『デーゴン海賊団』」 


 船の舷側に身を乗り出して前方を見ると、進行方向を塞ぐようにマストが三本並んでいるのが見える。張ってある帆の枚数を見ればこちらと同じ規模の船が三隻ということか。

【鑑定】を使ってみるが距離が遠すぎるのか反応はない。


「こっちは逃がしましたが、本命は釣れたみたいですね」


「野良海賊が。分をわきまえろってんだ」


 バレウスさんが犬歯をむき出しにして笑う。本当に嬉しそうだった。


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