モンスターテイマー学園の落ちこぼれですが、実は最強のモンスターと契約する予定です
この世界にはモンスターと呼ばれる生き物たちが存在する。
動物以上に高い知性を持ち、火を操るなど、まるで奇跡と言っても過言ではない力を有しているものたちだ。
そんなモンスターと人類は共存している。モンスターと深い絆で結ばれた人間は、契約という特殊な儀式を交わすことで、そのモンスターの力を借りることができるのだ。モンスターと契約することで皆の助けとなる者たちを、人々はモンスターテイマーと呼んだ。
◇
ここはモンスターテイマーを夢見る者たちが集まったモンスターテイマー養成学校。十代半ばの若者たちがモンスターテイマーになるため、日夜勉学に励んでいた。
「さあ、ご飯の時間だよ」
「きゅう!」
小柄な少年がエサの入った袋を持って飼育部屋に入ると、モンスターたちが次々と集まって来る。彼らはまだ契約できていない学生の為に、学園が用意したレンタルモンスターたちだ。この辺りに生息しているスライムやゴブリンといった低ランクのモンスターたちで、人間を襲わないように教育が成されている。
「ははは、順番に並んで。ちゃんとみんなの分はあるからね」
そう言いながら少年はエサをスコップで掬い、小皿に分けていく。モンスターたちは出された小皿に集まり仲良く食べ始めた。少年はそれを微笑ましそうに眺めている。
少年の名はティム。モンスターテイマーを夢見て遥か遠くにある故郷から、この学園の門を叩いた十五歳だ。紺色学生服はモンスターたちと関わる機会が多いためか、切り傷だらけで決して立派な物とは言えない。だが本人はそれを気にした様子もなく、むしろ積極的にモンスターと触れ合っていた。
レンタルモンスターの飼育係に志願する者は少ない。いずれ関わることのなくなるレンタルモンスターよりも、自分の生涯の相棒となる契約モンスターを探す者の方が多いからだ。
「こんにちはティムくん」
ティムがモンスターたちと戯れていると、一人の少女が飼育小屋に入って来た。桃色髪を肩ほどそろえ、赤色の制服を着ている。歩く動作はきびきびしており、どこか気品を感じさせる雰囲気だ。
彼女の名はレイカ。ティムの同級生であり、飼育係の一人だ。レイカの後ろからは、立派な一本角を生やした白馬が鼻を鳴らしながら付いて来ている。
「遅れてごめんなさい。やっぱりユニコがここに来るのを嫌がって」
「仕方ないよ、ユニコーンはプライドが高い種族だから、ここみたいな汚れの多い場所は苦手なんだ」
「汚れの多いって……ティムくんが飼育係になってから、ずいぶんきれいになったと思うけど?」
レイカの言う通り、飼育小屋の中はモンスターの糞が多少目立つだけで、丁寧に磨き上げられている。庭も草木が切りそろえられており、草原のような印象を与える程整っていた。
「ユニコーンの生息地には遠く及ばないよ。ごめんねユニコ、いつか君が納得できるくらいもっときれいにしてみせるから」
ユニコは返答代わりにそっぽむく。ティムは苦笑し、レイカは恥ずかしそうに顔を赤くしながら頭を下げた。
◇
モンスターたちの食事も終わり、ティムとレイカは箒を手に取り片づけをしていく。食事に満足したモンスターたちは庭に出て遊んでいた。ユニコも横になり、欠伸をしながらそれを眺めている。来るまではごねるそうだが、来てしまえば大人しくしているのでティムは少し笑ってしまった。
「ユニコもティムくんのことを嫌っているわけではないと思うの。本当に嫌なら容赦なく、後ろ足で蹴り飛ばすから……」
ティムは吹き飛ばされる自分を想像して身震いする。それと同時にユニコともっと仲良くなりたい思いも強くなっていた。
明らかにわくわくした様子のティムを見て、レイカも嬉しそうにしていた。
「ティムくんにはモンスターテイマーの才能があるよ。そこまで純粋にモンスターと向き合えている人はこの学園には少ない。みんな、自分の事ばかり考えている……」
モンスターは実力や契約難易度によって、SからEまでのランク付けがされている。
そしてこの学園も同じようにランク制度が採用されており、ランクごとに制服の色が変わる。最高ランクが赤のA、最低ランクが紺色のDだ。これによって明確な目標ができ、努力が目に見えるようになっている。
だがその一方でランク格差によるいじめや、実力者による横暴など問題点も増えていた。教員たちは、優秀なモンスターテイマーを育て上げると言う国の方針に従い、現状の改善に取り組もうとしていない。優秀であれば多少の問題は些末なことだと、見て見ぬふりをする始末だ。そのためモンスターをランク上げの道具としか見ていない人が多発する始末。人間とモンスターの絆は年々失われつつあった。
(ティムくんはこんなにモンスターを愛して愛されているのに、Dランクなんて絶対におかしい)
ティムだけでなく、モンスターと契約していない者は全員Dランクにされている。他の生徒たちは契約することに躍起になっている中、ティムはそのようなそぶりを見せないため『落ちこぼれ』と嘲られていた。
「ティムくんは、モンスターと契約しようとは思わないの?」
ティムは困ったように頬を掻く。同じような質問を何度もされてきたようだった。
「――小さいころに約束した子がいるんだ。理由があって今は離れているけど、いつかそのこと再会するまで契約はしないつもりだよ」
「……そう」
決意は固いらしく、それ以上は何も言ってくれなかった。
レイカは約束したモンスターに興味があったが、それ以上は聞かなかった。自分も追及されることは好きではない、再会できた際にいっぱい話してもらおうと、興味を胸の奥にしまった。
「レイカさん、ここにいたのか」
そんな時だった、赤い制服を着た金髪の少年がドアを蹴破って入ってきた。その後ろでは、三つの頭を持つ漆黒の犬が威嚇するように唸り声を上げている。ユニコも立ち上がってレイカを守るように威嚇していた。
「レイカさんが、こんなゴミのような場所を掃除なんてしなくていいよ。こういうのはそこにいる彼みたいな『落ちこぼれ』がするような仕事だ」
「ライルくん、そんな言い方――」
「撤回して。ここはゴミのような場所じゃない、モンスターたちが暮らす大切な場所だ」
ティムがライルに抗議する。だがライルは反省した様子もなく、唾を吐き捨てた。
「落ちこぼれの言葉なんて聞けないね」
ティムを無視し、ライルがレイカの手を強引に掴む。嫌がるレイカを救うためユニコが動こうとするが、漆黒の犬が立ちはだかった。
「離して! 私はここにいたいの!」
「レイカさん、どうして……お前の仕業か……」
レイカはライルの手を振り払い、ティムの横へと逃げる。ライルは呆然としていたが、やがて憤怒の表情でティムを睨み付けた。
「お前がレイカさんに何か吹き込んだんだ。そうでなければなければレイカさんがこんなところにいたがる理由はない。俺はキミに決闘を申し込ませてもらう!」
「ライルくん!?」
決闘は学生の質をあげるため、学園で認めらている私闘の事だ。一人の先生を立会人にすることを条件にモンスター同士を戦わせ、勝者は敗者に一つだけ要求をのませることができる。もちろん強制ではなく、拒否権もあるのだが――
「俺が勝てばキミの退学を要求しよう。怖気づいたら断ってもいいけど……どうする?」
勝てば厄介者を退学にでき、拒否すれば負け犬と声高にあざ笑うことができる。ライルにとってメリットしかない一方的な要求だった。
「ティムくん、決闘なんて断っていいよ。周りには私が説明するから」
レイカはそう言ってくれるがティムの答えは決まっていた。自分のことならいくら侮辱してもいいが、人間の都合でここに暮らしてくれているモンスターたちを侮辱されることは許せなかったのだ。
「いいよ。僕が勝ったらさっきの言葉を撤回してもらう」
レイカは口元を抑え、ライルは目を細める。
「その度胸だけは認めるよ、ならば明日の一時に校庭で待つ。逃げるなよ?」
ライルは踵を返し、その場を後にする。立ち尽くすティムとレイらだけが残された。
ティムの足元に不安そうなモンスターたちが集まってくる。ティムはしゃがみ、一匹ずつ頭を撫でていった。
「怖がらせてごめんね。もう大丈夫だから」
「ティムくん、ライル君くんが契約しているケルベロスはAランクの上級モンスターだよ。勝算はあるの?」
「――勝つよ。あの子との約束を果たすため、僕は退学になるわけにはいかない」
立ち上がったティムの言葉は決意にあふれていた。だがそれは、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。
レイカはティムの震えている手を握る。ティムは驚いたように目を見開いた。
「レイカさん⁉」
「私はティムくんが退学するなんて嫌。ここに来てから、初めての友達だから」
「えっ」
ティムは思わず声を漏らしてしまった。レイカは自分とは違ってAランクであり、飼育係もしぶしぶ続けているものだと思っていたからだ。そう言うと、抗議するようにレイカが頬を膨らませる。
「私は自分から飼育係に志願したの。クラスメイトはモンスターを道具のように扱う人ばかりだったから」
レイカが飼育係に志願したのは、このような環境から少しでも離れたいという意味合いがあったのだ。
「私は友達を失いたくない」
俯くレイカの手を今度はティムが力強く握り返す。
「ありがとうレイカさん。友達にそう言ってもらえたら勇気が湧いてきたよ。明日は応援してくれるかな?」
「うん!」
ちなみにティムとレイカが一緒にいると、身長の差もあって姉弟にしか見えないと評判だ。
◇
次の日、校庭には大観衆が集まっていた。
観衆の大半はこれから行われるであろう一方的な蹂躙に期待していた。最高ランクと最低ランクの戦い、結果は目に見えているのでせめてAランクの戦いっぷりとその強さを見る腹積もりだ。
どちらが勝つか賭け事をしている生徒の姿も見えるが、ティムに賭けている学生はいない。賭けが成立せず胴元はつまらなそうにしていた。
老齢の教師が間に立ち、ティムとライルは十メートルほど離れた距離でにらみ合っていた。ライルの後ろではケルベロスが戦いを待ちわびるように唸り声を上げている。対してティムの後ろいるスライムは、震えながらも堂々とケルベロスを見据えていた。
「よく逃げずに来たな。だがそんなモンスターでは勝ち目がないことはわかっているはずだ。この大観衆の前で土下座し、許しを請えば見逃してやるけど?」
周りから笑い声が響く。レイカはただ一人、ティムの勝利を祈っていた。
(ティムくん、頑張って……)
「降参はしない。僕はキミに勝ってみせる」
「……後悔しても遅いからな。先生、お願いします」
教師は頷くと、右手を上げる。
「これよりAクラスのライルとDクラスのティムの決闘を開始する。両者位置について」
ライルのケルベロスが飛び出し、スライムも前に出る。成人男性以上の体高を持つケルベロスに対し、サッカーボールほどの大きさしかないスライム。観衆は気楽な気持ちで、勝負の合図を待っていた。
「それでははじ――」
「ちょっと待つのじゃああああああああ‼」
戦いが始まる瞬間声が響き、天空より一筋の光が校庭に突き刺さる。大地は砕け、風圧で皆が吹き飛ばされそうになった。ティムは吹き飛びかけたスライムを抱え、倒れ込む。何とか吹き飛ばされずに済んだが、顔を少しすりむいてしまった。
老齢な教師は生徒たちに警戒するよう呼びかける。この学園は創立時から結界が張られており、それが破られたことなど一度もなかったからだ。
ようやく風が収まり、目を開けると砂煙の中に動く姿が目に入る。そこにいたのは水色の浴衣を着た美女であった。頭を振るった際にきらめく茶色の髪が揺れ、つややかな唇に、胸元をはだけさせている。ここまで見ればただの人間だが、その頭に伸びる二本の角が、彼女がモンスターであると判断させた。
美女はゆっくりとティムの方へ歩いていく。ティムはスライムを抱えて立ち上がったが、呆然としてその場から動こうとしない。
「ティムくん!」
他の学生たちが動かない中、ティムを守ろうとレイカはユニコに飛び乗り駆けだした。唯一の友を失うまいと全力のスピードで走る。
だがそれよりも早く美女の手がティムへと迫り――
「会いたかったぞおおおおティム―!」
美女がティムを全力で抱き締めた。胸に顔を押し付けられ、ティムの顔が炎のように赤くなっていく。
「しばらく見ぬ間に思っている以上にイケメンになったのおおおお。さすが妾の選んだ男じゃああああ!」
美女は叫びながらティムの頭を撫で捲る。動けないティムは目を回しながらなされるがままで、間に挟まれたスライムは白目をむいていた。
「……何これ?」
近くまで来ていたレイカは目を点にし、現状を必死で把握しようとしていた。目の前には自分を遥かに上回る双丘を押し当てられている友人がいる。少しイラッとしたが、今はそんなこと考えている暇ではない。
「ティムくんを離して、このままじゃ窒息しちゃう」
「えっ、わああああ! ティム、しっかりしておくれええええ!」
言われて気づいたのか、美女は急いでティムを胸から離した。スライムがポトリと落ち、ティムも深呼吸を繰り返している。
美女はティムを座らせると、何度も土下座をした。その度に双丘が揺れ、レイカのいらいらが高まっていく。
「すまなんだティム。お主に会えてうれしさの余り暴走してしまったのじゃ」
「いえ、それはいいんですが……貴方は?」
世界が凍った。
美女はこの世が終わったかのように口をあんぐりと開け、崩れ落ちていく。見知らぬ相手だがティムの心が罪悪感に満たされていた。やがて美女はゆっくりと立ち上がるが、その目に光はなく、肌は青白くなっていた。
「こここ、ティ……ティムが妾を覚えていない…………もうダメだ、死のう」
美女はどこからともなく刀を取り出し、己の胸元に突き立てようとする。ティムは大急ぎで飛びかかり、美女を抑え込んだ。
「離せええええ! お主に忘れられた妾に生きる意味などない! 来世でまた会おうぞ!」
「何をわけのわからないことを――――もしかして、リコ?」
再び美女の目に輝きが戻った。髪が大きく揺れる程勢いよく頷き、嬉しさのあまり再びティムに抱き着いた。
「そうじゃ、お主に助けてもらったリコじゃよ! 儀式を終えてようやくここに来れたのじゃ!」
「ずいぶん大きくなったね……く、苦しい……」
繰り返される行動にレイカは頭を抱えた。
「そろそろいいかな?」
レイカはライルの声で我に返った。
いつの間にか学生たちがティムたちを囲う様に集まっている。モンスターたちも並んでおり、いつでも襲い掛かれるよう構えていた。
「ティム、そのモンスターは何者だ? 返答によってはお前たちをこの場で拘束せねばならん」
老齢の教師が油断なくリコを見据えている。嘘は許さん――そう言っているようだった。
ティムは事情を説明しようとするが、それよりも早くリコが声を上げた。
「そういきり立つな、ティムが落ち着いて喋れんではないか――頭が高いぞ?」
その瞬間モンスターたちが一斉に平伏した。スライムを銜えたユニコも、殺気立っていたケルベロスも首を垂れていた。
生徒たちが命令してもモンスターたちはその体勢で動かない。
「い、一体何が起こった⁉ お前ら言うことを聞け!」
「ほうほう、お前がどのようにモンスターを扱っているかよくわかったのじゃ」
教師は怯えながら尻餅を着く。リコはそれをゴミのように見下ろしていた。
「リコ止めて! 皆さん、彼女は僕と契約を約束したモンスターです!」
辺りがざわめく。
レイカは先ほどのやり取りで、あのリコが約束した相手だと薄々察していたが、それでも驚きは大きかった。プライドの高いユニコーンが頭を垂れるモンスターなど見たことも聞いたこともなかったのだ。
「ところでティムよ、そこの学生と戦おうとしておったな。理由を聞かせてはもらえんか?」
ティムはレンタルモンスターたちを馬鹿にされたことに怒り、発言を撤回させるため己の退学を賭けていると説明した。
「こここ! 馬鹿な奴じゃ、相変わらず優しくて安心したぞ。さて――」
嬉しそうな言葉とは裏腹にリコの怒りは当然ライルに向けられる。リコの殺気を受けてライルは意識を失いかけた。
だが彼の自尊心は恐怖に打ち勝った。いくら内心で震えていようとも、強がって倒れることはなかった。自分がこんな低ランクのテイマーが契約したモンスターを恐れるわけがないと心を奮い立たせていたのだ。
「思ったよりも根性はあるな。ではライルとやら、改めて決闘を再開しよう。相手はその勇敢なスライムに代わって妾じゃ」
リコに撫でられ、スライムは気持ちよさそうに目を細める。ユニコがそれをうらやましそうにしているのを見てレイカは目を点にした。
「いいだろう、どんなモンスターであろうとDランクのモンスターテイマーに俺が負けるわけがない。受けてやる」
「虚栄心とはいえ大したものよ。そこの犬っころ、相手をせよ」
ケルベロスがリコの命令でゆっくり立ち上がる。その目は敵意と憎悪で染まり切っていた。ティムはそれを見て怯むが、リコに後ろから抱き締められる。先ほどまでと違い、優しく慈愛に満ちており、恐怖心が消えて行った。
「こここ、安心せよ……お主は妾が必ず守る。そこで見ておれ」
リコはティムを離し、スライムのいた場所へ移動する。ライルも同じようにケルベロスを従え向かい合った。
「り、リコ!」
ティムの声にリコが振り向く。ティムは顔を赤くしながらも必死で言葉を紡いだ。
「僕は、リコにとって最高のモンスターテイマーになって見せる! だから、負けないで!」
「馬鹿者……お主はとっくに最高のモンスターテイマーじゃああああ!」
その瞬間二人の体が光に包まれる。心が通じ合い、正式に契約が結ばれた証だ。
(感じる、ティムの想いを……格好悪いところは見せられんな)
リコは返答の代わりに手を振り、教師に試合開始を促した。
「そ、それでは始め!」
「行けケルベロス! そんな奴焼き尽くせ!」
ケルベロスが三つの口を開け、同時に炎を放射する。リコは抵抗せず、炎に包まれた。
「大口叩いた割に、全然大したことないじゃないか!」
ライルは勝ち誇ったように笑みを深める。だがその表情はすぐに驚愕へと変わった。燃え上がる業火が一瞬で消えたのだ。リコを囲むように土が黒く染まっている。
「そのような種火は、ため息だけで消せてしまうぞ」
「嘘だ! ケルベロスの炎は同ランクのモンスターでさえ消すことは困難なんだぞ⁉」
「妾を誰と思っておるのじゃ?」
リコは刀を取り出し、誰もが見惚れる動き一振りした。すると竜巻が起こり、ケルベロスの巨体が宙を舞う。
それを追う様にリコも飛び上がり、ケルベロスの腹部に拳を突き刺した。
リコの一撃で地面に叩き付けられるとケルベロスは目を回しながら気絶した。
「まさか、ケルベロスがこんなに容易く――く、俺の負けだ」
勝負は決した。がっくりと項垂れるライルに、リコと抱き合い喜ぶティム。いつの間にか赤子のように持ち上げられていたが、恥ずかしさより喜びが勝っていたので何も言わなかった。
「約束は約束だ、飼育小屋をゴミのような場所と言って悪かった……次は負けないからな」
ライルは目を覚ましたケルベロスを連れ、校舎に戻っていく。ティムはそれを無言で見送った。
「こここ、威勢だけは一人前じゃったな」
「もー、すぐそういうこと言う。そんなことを言う子とは一緒にいたくないよ」
「わ、妾が悪かった! だから許してほしいのじゃああああ!」
泣きながら許しを請うリコにティムは苦笑する。見た目は大きくなっても中身は少しも変わっていないことに安堵し、再会を心から喜んだ。
「ティムくん勝利おめでとう。退学にならなくてよかった――」
「なんじゃこの女狐は? 妾のティムに近づくでない!」
「黙れデカ乳女」
「レイカさん⁉」
レイカの巨乳に対する憎悪を垣間見た気がしたティムは、深海よりもさらに深い嘆きと絶望を感じ取った。
いつの間にか学生たちが集まってきている。みんなリコに興味津々だった。
「結局そのデカ乳女の種族は何なの?」
「そういえば、あの時もちゃんと聞いてなかったよ」
「言っておらんかったか? 妾はモンスターの頂点『竜姫』じゃよ」
「えっ」
この後、大絶叫が起きたことは言うまでもあるまい。




