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ムゲンWARS  作者: レヌ
第一話
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第一話 金色の勇者 Ⅵ

いつも通りの朝がこの街にもやってくる。

夜遅くまで賑わう表の通りも、鶏が声をあげるだけで、まだまだ静寂に包まれている。

領主の館の、交代で夜間から朝方にかけて見張っていた門番は、朝の臭いを嗅いで思わず欠伸をした。


その館に一人、歩み寄るものがいる。


金の髪を風が撫で、朝日にキラキラと輝く黄金の鎧姿。

それを見つけて、門番ははっとして姿勢を正した。


「ゆ、勇者様!おはようございます!」


いつになく緊張した様子で挨拶をしてしまったのは、

欠伸をしていたところを見られたかもしれないから、ではなく、

目の前の勇者がいつになく真剣な顔で、まるで本当に、物語に描かれるような勇者らしい顔でやってきたからだ。

金色の勇者は門番を、きっと睨み付けるように見上げる。


「領主に用がある。ここを通せ」


その表情と声に圧され、勇者よりも体の大きい門番がたじろぐ。


「りょ、領主様は、ただいまおやすみ中で…また時間を改めて…」


もごもごと口ごもる門番に、勇者は追撃のように言う。


「これはこの街の"小飼"としてではない、勇者として、女神様の命を受けてきた。すぐに準備をするように伝えろ」


その名が出たとたん、門番の表情が一層強張る 。


「めっ、女神様!?か、か、畏まりました!」


そう言って門番は、大慌てで館の中へ入っていった。



館の中が騒がしくなるのを遠くで聞きながら、エーは心のなかで大きく息をついた。


(……やっちまったぁぁぁ……)


凛々しい顔で待つ勇者の内心は、どうしようもなく不安で後悔に苛まれていた。


エーが一夜考え尽くして出した答えは、勇者として、悪を許すべきではないということだった。

エーがどうしようもなく不満だったこと、エーがどうしようもないと諦めていたこと、それは、悪を諦めていたこと。

そうして答えを出すと、ふとかつての、もっと子供だったときの事を思い出した。


かつて、村でいやと言うほど聞かされた勇者談。

聞かされ続けた代わり映えの無い物語は、確かに少年だったエーの心に響いていたのだ。

いつか、悪を裁き、弱きを救う、勇者になりたいと、

そう思っていた。

思っていたはずなのに、夢を叶えたはずなのに、

諦めていた自分がそこにいた。


根っからの物語やゲームの中の勇者でありたかったエーは、だからこそ、魔王らしい魔王を求めたのだ。


尤も、その求めた魔王らしい魔王ではなく、その真逆のような魔王に諭され、ここまできてしまったのだが。


(もう、後には引けねえよなあ…女神様の名前まで出しちまったし…怒られるよな、これめっちゃ怒られるよなぁ…)


女神の名を使ったが、実際は女神に命など受けていないし、自分の体験談と周囲の言葉、そして勘だけで、悪事の物的証拠はない。


……


そう、何もないのだ。


(…冤罪とかだったらどうすんだ俺)


急に顔色が悪くなり始めた勇者のもとに、門番が大急ぎで戻ってきた。


「どうぞ勇者様!お通りください!!」




「で?女神様は一体私にどんな大役を遣わしてくれると仰っていたのだ?」


エーの不安とは裏腹に、領主は随分と前向きに捉えてくれていたらしい。

考えていた台詞が一瞬頭から抜け落ちるが、慌てて拾い直して領主に向かう。


「…こほん、その前に、貴方は勇者や旅人からの利益をどのような用途に使用しているのか聞かせてもらおう」


エーの言葉に、領主は一瞬驚いたような顔を見せたがすぐにハッハッハと大笑いした。


「何を言うのかと思ったら!お前さんだって知っているだろう!勇者様の故郷の発展や、皆が豊かに暮らせるようにする資金にしているに決まっているでしょう!そうするとお前さんたち勇者様方々にも伝えてあるはずだ!」


ぺらぺらと出てくる言葉は全くその通りである。


「ふむ、ならばその履歴や帳簿などをここに」


その言葉と共に、部屋の空気が凍りつく。


「…なに?」


険しい顔になる領主。この勇者が女神の使者として自分に伝令に来たのではなく、疑いをかけに来たのだと理解したようだ。


「なにか金銭の動きがあったのなら、なにかしら残っているはずだ。そんな顔をせずとも見せられるだろう?」


表情の指摘をすると、領主は口元を手で覆った。


「それとも、見せられないほど乱雑な字で大切な書類を仕上げているのか」


すると今度は、ぐぬぬ、とよくある感じのうなり声が聴こえる。

やっていてバカらしくなるほどに、この領主は顔に出やすいらしい。つい先程まで悩み続けていた時間がなんと無駄なことだろう。とエーは思った。


「お前…私を疑っているな…」


苦虫を噛み潰したような顔でエーを睨む領主を、エーは(内心がどうあれ)冷ややかに見つめる。


「そうだ。貴方が善を尽くしているという確たる証を女神様は…」


と、予想以上にちょろそうだった領主に対し、女神の名を再び使用して畳み掛けようとしたときだった。


「ならば!私が不正を働いているという証拠を出せ!!」


がたん、と乱暴に立ち上がった領主が吠えた。

唖然とするエーに対し、領主はまだ喚きたてる。


まさかそんな、そこまで子供っぽいキレ方をされるとは思わなかったエーは言葉が続かない。

いや、それよりも、この反応から領主が何らかの見られては困る事情を行っていることは確定したが、それを証明することが自分にはできない。

不味い展開になった。


「どうした!ないのか?!証拠もないのによくも疑えたものだな!ははん、さてはお前さん、自分が成果をあげられないから私に八つ当たりしているな?」


こちらがなにも言わないのを良いことに、領主はベラベラと喋り出す。

非常に喧しい事この上ないが、エーはなにも反論できない。

この口を黙らせなければ、自分の身が危うい。


「勇者の間でも貴方の金の使い道が不透明だという声があがっている。女神様から遣わされたのは貴方が不正を行っていないという確認のためだ。そちらの手にあるはずの証を示せばそれで済む」


「そういって私に疑いを向けて、私の地位を脅かすつもりだな!!そうはいかんぞ!!」

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