第七話 獄炎の魔導士 Ⅶ
じりじりと悪漢たちが距離を詰め、エーは剣を握る力を強める。
どういう悪党であれ、相手は人間だ。むやみに傷つけてはいけないし、殺すなどもってのほか。
であればいままでの戦い方ではダメだ。
「やっちまえ!」
ボスの一言で、次々と弾かれたように悪漢たちがエーに襲いかかった。
エーは降りかかるナイフを横に避け、切り払われる剣を剣で弾く。
(あれ?)
思ったよりも簡単にいなされる悪漢たちの様子に、不思議な感覚を覚えて目を丸くする。
あまりに、そうあまりに、楽なのだ。
どこに刃を突き立てようとしてくるかわかる。だから避けられる。
振るわれる剣が軽い。だから弾き返せる。
自分を四回も殺したあの猪と比べるとあまりにも楽だった。
ならば、恐れる必要はない。
エーは足を開きしっかりと床を踏みしめ、剣を下に構え直す。
そして、それを思いっきり横に振った。
「……っせい!!!」
大剣は悪漢たちの足に向かって振られる。
しかしそれは、"刃"ではない。剣の"腹"の部分だ。
同じく大剣を扱う勇者仲間カリマに教わったのはこうだった。
「そいつは剣じゃねえ、金属の板だ」と。
なに言ってるんだこいつとも思ったが、使い方を聞けばその通りだった。
ようはパンを定規で切るのとおなじだ。
定規に刃などないが、パンに押し付ければパンは切れる。
大剣も似たようなもので、研ぎ澄まされた刃ではなく、剣自体の重みと使用者の力によって叩ききるもの、
言ってしまえば、鈍器と変わらないのだと。
はじめから鈍器だと思ってしまえば、使い方にも幅が出る。
「いってええぇぇぇ!!う、ぐ、あああっ!」
思いっきり足をなぐられた悪漢が悶え転げる。
大怪我ではないはずだが、足を鉄で殴られて痛くないわけがない。
思わずエーも痛いような気がしたが、それはほかの悪漢も同じだった。一人の悲鳴は他を戦かせるのに十分だった。
エーはここぞと一歩踏み出して、きっと周囲を睨み付ける
たじろぐ周囲の雑魚たちに、エーはすこし強くなった気がした。
そんなときだった。
エーの頭を刃が掠める。
いや、実際にはなにも通っていないが、エーの髪をすこし切り落としてなにかが通って、風切り音がしたのだ。
はっとしてボスの方を見れば、
少女がエーの方に手を向けていて、ボスは少女の頬にナイフを当てて、にやりと笑っていた。