第七話 獄炎の魔導士 Ⅲ
「道を開けろ!この小僧の命がどうなってもぶふぉあっ!?」
野次馬たちが取り囲む中、店から出てきた強盗犯の主犯らしき悪漢に金色の塊が投げつけられ、悪漢は勢いよく後ろに吹き飛んだ。
「ボス!」
「ボスー!!」
取り巻きが驚いた表情で吹き飛んだボスに駆け寄った。
金色の塊は金髪で金の鎧を着た少年であることを確認し、
当の金色の少年はくるくると目を回していて、異常事態に理解できないような顔で目を丸くする。
「奇襲とはこうするのだ勇者!前口上など後回しで構わない!とう!!」
そう声高らかに言って屋根から飛び降りる炎の魔王、もとい獄炎の魔導士。
「後から言ったら……前口上じゃないだろ……」
目を回す金色の塊、もとい金色の勇者はそんな状況でもツッコミの心を忘れなかった。
だが強盗達はそうはいかない。勇者と聞いた瞬間に緊張とどよめきが支配し、狼狽え始める。
「い、てえなあクソっ!!なんだてめえ!!」
復活した強盗のボスが凶器となって投げつけられた金色の少年とそれを投げたらしい白フードを睨み付ける。
それを待っていたとばかりに、魔導士はにやりと笑いマントを払ってはためかせた。
「私は獄炎の魔導士!いま勇猛果敢に飛び込んだ金色の勇者と共に旅をする者!そして!!」
大きく広げた両手に、ぼっと音を立てて炎が宿る。
「貴様らを地獄に送る使いである」
魔王的笑みが、炎に照らされもののみごとに演出され、強盗たちの口から思わずひぇっと声が漏れる。人質になっていた男の子すら恐怖で腰を抜かす始末。
もはやどちらが悪役かわからない。
そのまま両の腕を大きく後ろに反らしたのを見て、勇者はあわてて立ち上がった。
「まっ……バカお前!子供いるんだぞ!!」
「何のためにそちら側に貴様がいるのだどうにかしろ」
魔導士のやろうとしていることを察した勇者は、つい魔王と言いそうになるのを堪えて叫ぶも、魔導士はまたにやりと笑うだけだ。
それは瞬間の判断、一瞬の出来事。
慌てて勇者は人質になっていた男の子を覆い被さるように飛び込む。
強盗たちはそれを見てから人質を奪われまいと咄嗟に体を動かすが、
まお……魔導士の行動の方が、勇者が動こうが動くまいが行動している分早かった。
後ろに反らした両腕を前へと、手に宿った炎を投げるように突きだす。
炎は手から離れ、まるで蛇のようにのたうって飛翔し、強盗犯たちをとぐろを巻いて飲み込んだ。