第六話 信愛の勇者 Ⅷ
話し合いはいつまでたっても平行線だった。
森の魔王に愛があると証明したいそして仲良くなりたいメイレー、
愛などないし迷惑だから早く帰ってくれというフォーリア。
「えーとじゃあ、ほら、文通から始めるのはどうだ」
エーは妥協点を探す。
「文字では愛が伝わりません!」
「人間と文通などするか!」
エーの案は即刻否決される。
はあとため息を吐くが、諦めるわけにはいかない。
これは、本人たちが気づいているかはわからないが、エーが招いた混乱なのだ。
だがどうするか?
週に一回、議論の余地なし。
月に一回、却下だ。
年に一回、メイレーから大批判を喰らう。
まずは友達から、フォーリアが悲鳴をあげた。
では、文通など、結果は見ての通りだった。
どの妥協案も譲歩されず、拒否に拒否を重ねて歩み寄る隙はない。
これはもう、どちらかが折れるしかない問題だ。
ではどちらを折るべきか?
フォーリア、だめだ殺される。なんなら炎の魔王との話も破棄されかねない。
メイレー、なにかものすごく恨まれて背中から刺されそうな気がする。なにより同年代の女の子を裏切るのは心がいたい。
どうにか、後腐れのない折り方はないものか。
そう考えて、はたと思い至った。
「じゃー、あれだ、ゲームで決めよう。勝ったほうの要求で決定しよう?な?」
それはきっとエーの今までの経験から導き出された最低で最適な条件だ。
魔王と鬼ごっこをし、魔王会議でかくれんぼをし、この森の世界で闘技場もどきをしてきた故にでたものだ。
フォーリアはじとりとエーを睨むように見つめ、
「おまえ、知らないでそれが言えるのなら大したものだな」
称賛とも軽蔑とも取れない言葉を吐いた。
「?」
「いいや、なんでもない」
首をかしげるエーにフォーリアは首を横に振る。
なぜだろうか、前にもこういった風に、知らないことになんとも言えない感情を向けられたことがある気がする。
「よい考えだと思いますわエー様!私トランプを持っています!ババ抜きでいかがでしょう!」
そう言ってメイレーはポーチからトランプのケースを取り出してにこりと笑う。
フォーリアは勿論、「だれがおまえなんかと」と否定するだろう。だが先手を打つようにメイレーは続ける。
「きっと私は森様には勝てません……でも!一度挑戦させていただけませんか!」
濡れた上目遣い、相手を不快にさせず、かつ相手を認め持ち上げる。
みごとなコンボだ。
「う、むう……し、仕方ないな……一回だけだぞ、一回だけだからな、僕が勝ったら帰れよ!いいな!!」
「はい!もちろんです!」
エーはメイレーが恐ろしくなり始めていた。
この流れをもし意図的に作っていたのならなんと恐ろしいことか。
それともこれこそ愛の為せる技なのか。
むしろその方が怖い。
と、思考しているとメイレーがトランプのケースをエーに渡してくる。
「さあさエー様、三人分配ってくださいませ」
「さん……え?俺もやるの?」
きょと、とするエーにメイレーは「勿論です」とにこやかに告げる。
拒否は、できないだろう。ゲームで決着と言い出したのはエーなのだから。
エーはひとつため息をついてケースを開けた。
ジョーカーは一枚。よく混ぜて、三人分に配る。
配り終えて、三人は自分の手札をみた。
当然のように、エーの手札にはジョーカーのトランプが道化の笑顔を向けていて、
エーはまたひとつため息を吐くのだった。