第六話 信愛の勇者 Ⅶ
こほん、とメイレーは落ち着きを取り戻して咳払いをした。
「改めまして私はメイレー、信愛の勇者です。愛のため、愛を説き、愛を探す旅をしています」
改めて行われたメイレーの自己紹介はさすがのエーも苦笑いするしかなかった。
何事も話し合いからだ、とまずはメイレーの言い分を聞くことにしたエー。
というより森の魔王に話し合いをするように頼んだ手前、何も聞かずにじゃあつれていきます、は筋が通らない。
「も、もっと具体的に」
「はい!私、魔王にも愛があると証明するため、様々な世界を渡らせて頂いております」
「愛などあるか!帰れ!」
シャーッ!と猫のように威嚇する森の魔王。
「いいえ、森様はとても愛に溢れた御方です!ここの森のお花様方は皆一様に森様に救われたと、森様がいなければ枯れてしまうと仰るのですよ!草花に慈愛を向けられる方に愛がないなど嘘でも口にすることはできません!」
メイレーの主張はたしかに真実だ。
森の魔王フォーリアは花に向ける愛はたしかにある。
具体的に言うと花に向ける愛しかないともいう。
10対0ぐらい花の圧勝だろう。
……いや?そうでもないのか?とエーは自分の知識に疑問を呈する。
その前例こそ、自分である。
フォーリアは気に入った人間には例外としてその慈愛を向ける。
それはよく考えてみれば当然のことだ。好感を受けた相手に態度がよくなるのは当たり前なのだ。
では人間に対する愛が平均であるとするならば、
花に対する愛が溢れんばかりであると踏まえると、相対的にフォーリアの愛は相当なものなのではないか?
「待てエー!お前納得しかけてるだろ!もっとよく考えろ!こいつは急に人の家にやってきて愛だなんだとおかしなことを言うし何度追い返してもやってくる!今日で四日目だぞ!」
エーの表情を見たフォーリアが悲鳴に近い声をあげた。
それもたしかに事実だ。正直メイレーの愛への執着心はドン引きレベルで、
これが家に押し掛けてきたとなれば警察沙汰だろう。
それが四日目ともなるとフォーリアの心労も
……ん?四日目?
エーは一度思考を停止する。
今日で四日目。エーがメイレーに出会ったのは三日前。
それはまさしく森の魔王の世界に行っていたという話をカリマにしていた時のことだ。
たしか彼女はこう言った。
[話は聞かせていただきました] と。
そして彼女はこうも言った。
[精進して参ります] と。
おや?とエーは首をかしげた。
つまり、メイレーが森の世界に来たきっかけは、
「おいエー!聞いてるのか!!僕の絶体絶命のピンチなんだぞ!!」
ぽかんとするエーの肩を揺する。
エーは察した。
(ああ、バレたら殺されるぞこれ)
そして一度深く頷いて、
「大丈夫だ、そんなことよりまず、話し合いといこうじゃないか」
全力で誤魔化すことにした。