第六話 信愛の勇者 Ⅵ
「……あれ?エー様ではありませんか?」
森の奥から現れた修道女が、きょとんと桃色の目を丸くしていた。
「…………」
エーはぽかーんと口を開けたまま声が出ない。
彼女はメイレー。つい先日知り合った勇者だ。
フォーリアが未だに自分の後ろに隠れているということは、
この魔王にこうまでさせる脅威とは目の前のメイレーのことなのだろう。
……わからない、さっぱりわからない!
エーの頭のなかには沢山の疑問符が飛び交う。
実はものすごく強い?であればエーにはどうすることもできない。
「こんなところでエー様に出会えるとは!これも女神様のお導き……」
ぱあっと花のように笑うメイレーは一歩前に踏み出して、
何かに気がついたのかまた目を丸くする。
そして「あぁ!!!」と悲鳴のような声をあげたので、エーは肩を跳ね上げる。
「森様!そこに要らしたのですね!!」
茂みのような髪で本当に茂みのようになっていたが、その擬態も虚しく見つかってしまったフォーリアが小さく舌打ちをした。
やはりフォーリアが恐れているのはメイレーだ。
だが未だにその理由に見当がつかない。
思案しているエーのことなど露知らず、メイレーはエーの目の前まで近づいてきた。
「エー様!森様とお知り合いなのですか!?」
近くなる顔。
やはり同年代の女の子との交流が圧倒的に少ないエーの顔は勝手に赤く染まってしまう。
メイレーは桃色の瞳に真剣な色を足してまっすぐにエーを見つめ、ぎゅっと祈るように両の手を握った。
「なんという幸運!これも女神様の思し召し!エー様、お願いがございます!」
「お、おいエー!熟してる場合か!何のためにお前を呼んだと思ってる!」
前から、後ろから、エーを求める声が投げ掛けられる。
性別不詳のフォーリアを女性と定義するとすれば、エーにはきっとこれ以上のモテ期はないだろう。
その求める声がたとえ、
「森様と仲良くなれる方法を教えてください!!」
「その変人をさっさと聖界に連れ戻してくれ!!」
そう、たとえ、
「それ俺じゃなくてもよくね?」という願いだとしても。
エーにはもうツッコミを入れる精神力は残ってなかった。
「……とりあえず、二人とも離れてくんねえかな……」
散々ドキドキした自分を埋めたくなりながら、
急速に冷めていった心で淡い希望を抱かせた世界を突き放した。