第六話 信愛の勇者 Ⅳ
エーが連れて行かれたのは森の魔王の世界だった。
森の様子は特に変わらない。いくら久しぶりの訪問と言ってもそう変わる物でもないだろう。
ようやく解放されたエーは大きくため息をつく。
今日はいつもの倍以上に振り回されている気がする。
「……そういや、話はできたのか?」
きょろきょろと、自分の世界だというのに挙動不審に周囲をうかがうフォーリアを眺めて不思議に思いながらエーは尋ねる。
『炎の魔王と一度ちゃんと話をする』というのがエーが巨大猪に四度も殺されながら勝ち取った報酬だった。
そのためにフォーリアを炎の世界につれていったし、
炎の魔王が「しつこい」と言っていたということは何度も行っているのだと推測できる。
だがフォーリアはすぐに首を横に振った。
「出来てれば毎日通ってなどいない」
返ってきた言葉にエーは目を丸くした。
あれから何日もたつのに、フォーリアは毎日通っていても話ができていないというのだ。
「あの飛び蹴りが悪いんじゃぁ」
フォーリアはよく飛び蹴りしてくる。
エーの知る限り、フォーリアの登場シーンで飛び蹴りをしてこないシーンがほぼない。
おそらく挨拶代わりなのだと思う。こんにちwarってやつだろう。それで話し合いができるとは到底思えない。
しかしフォーリアはまた首を横に振るのだ。
「歩いていってもダメだった。とりつく島もない、というんだったか、まさにその通りだ。話すことはないの一点張りだぞ、もう殺していいかなあ」
「いやそれはダメだろ」
はあとため息をつくフォーリア。
エーは冷静にツッコミを入れておく。
しかし妙だった。
フォーリアのほうが歩み出たのに炎の魔王はそれを拒絶している。
トゥグルの話ぶりからすれば、森の魔王を引き込めれば良いような印象を勝手に受けていたが……
加えて炎の魔王は理不尽だが話の通じないやつではない。
話をしようと持ちかけて頭から拒絶するような性格ではないはずだ。
……いいや、エーは覚えがあった。
炎の魔王が魔王会議に出るのを渋っていたときのことだ。
随分と仲が良いと思っていたトゥグルの再三の説得にもあの魔王は応じていなかった。
頑なに、炎の魔王には受け入れたくない何かがあるのだ。
しかしそれがなにかはエーにはわからない。
恐らくトゥグルは知っているだろうが、それを勇者である自分が聞いて良いものかもわからないし、聞くべきではないような気もする。
随分と複雑な話し合いをあまりに気軽に頼んでしまったらしい。
とりあえずは目の前の、フォーリアに対していうべき言葉があるだろうと、疑問は横に置いておくことにする。
「ありがとうな、約束守ってくれて」
エーがそういうと、今度はフォーリアが目を丸くした。
「急に恥ずかしいセリフを喋りだしてどうした」
「はずっ?!はずかしくねーし?!」
エーは素直に感謝を伝えたつもりだったが、改めて指摘されると存外恥ずかしくなってきて顔を赤くする。
その様子をみながらフォーリアはにまりと笑った。