第六話 信愛の勇者 Ⅱ
「つまり、愛ですね!!」
「「うわぁ!!」」
急にかけられた大きな声に、悩む少年勇者二人はびくりと肩を跳ね上げて驚きの声をあげて振り返った。
声の主は修道服を着た少女だった。
年はおそらくエーと同じくらいだろうか。
黒いベールの下からは茶金色の艶やかな髪が覗いていて、
キラキラと輝く桃色の瞳と同じ色の宝石がベールの額に当たる部分につけられている。
「げっ……メイレー……」
カリマはこの少女のことを知っていたのか、苦虫を潰したような顔をした。
一方エーは彼女のことは知らない。何者なのかとカリマに視線を向けたが、カリマは苦笑いを返してくるだけだった。
と、メイレーと呼ばれた少女がずい、と前に踏み出す。
「お初にお目にかかります!私はメイレー、信愛の勇者です!」
「おっ、俺はエー、金色の勇者、です……どうも……」
あまりに前のめり、あまりにきらきらと輝く瞳、
そして何より、慣れない同年代の女子というものにたじろぐエー。
しかしそんなエーの感情も露知らず、メイレーはにっこりとわらった。
「エー様!勝手ながらお話はお聞きしました!私大変感動しております!」
「へぇっ?!」
メイレーはエーの手をとってぎゅっと握った。
より近くなる顔に、エーの頭は情報の処理が追い付かず、熱と煙が上がる。
「死すらも受け入れ、誰かのために尽くせること、それすなわち愛です!」
「……あい?」
そうして紡がれた言葉に、
エーは目を点にした。
愛。彼女は愛といったのだ。
誰かのために死ぬのが?
というか魔王に対して?あい?
「メイレーはなんでも愛にこじつけて誰にでも絡んでくるんだよ」
カリマがうんざりした顔でエーに言った。
なるほどたしかに、カリマは愛だの恋なんだのは苦手そうだ。
どちらかと言えば友情努力勝利といったようなタイプだろう。
だがそれはエーにも言えることだ。
愛だのなんだのはエーにはわからない。こうして女の子に手を握られているということだけでもドキドキしているというのに!
だがやはりメイレーはエーの心情など知るわけもなく、
ぱ、と手を離して満足そうに微笑んだ。
「素敵な愛のお話をしていただき感謝いたします!」
「愛の話なんかしてないけどな?」
「私も愛のため精進して参ります!」
「"も"ってなんだよ俺は愛のために精進してねえよって聞いてる?ちょ、おーい!」
手が離れて正常に動き出したエーの頭はメイレーの言葉に逐一ツッコミを入れていくが、
ツッコミの結果はすべてミス表示が浮かぶ幻覚が見えるほどに彼女の耳には届かなかったらしく、
メイレーは一礼するとパタパタと走っていってしまった。
ぽかんと口を開けて唖然とするエーの肩に、カリマの手がぽんと置かれる。
「心配すんな、俺も最初そんなかんじだった」
はあとカリマの重いため息が苦労を物語る。
なるほど、あれが真の変人。つまりエーはあれと同じほどに変人扱いされそうになっているのだ。
エーは心の中で全力で首を横に振った。
そしてもう二度とゾンビアタックなんてしまいと誓った。
「……えーと、話の途中だったな。まあ、なんだ、エーが死ぬのは鍛練不足だろ!俺と稽古つけるぞ!強くなれば死ぬこともない!かっこいい!」
労いと同情で肩におかれたカリマの手に力がこもり、
橙色の瞳に火がついた。
ああ、
こいつも変人だったっけ。
エーは自分の友人関係の運のなさにやや絶望しながら、
結局断りきれず、半ば強制的に、
三日間鍛練の付き合いをさせられることになった。