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ムゲンWARS  作者: レヌ
第五話
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第五話 森の魔王 Ⅴ

「……で、人間なんてつれてきて何の用だよ」


ぽすぽすとスカートの埃を払いながら森の魔王が氷の魔王に向き直る。

森の魔王か裸足であったおかげか、エーにはあまりダメージは無かったが盛大にふっとばされて、蹴られた頭を擦っていた。


「"肥料"なら間に合って……あれ?見たことあるなこいつ」


森の魔王は首を捻る。

しばらくしてから、はっとしたように大きな声を出した。


「……あ!このまえ死んでったやつ!」

「気づかないで飛び蹴りしてきたのかよ!」


エーを指差し、思い出したように言う森の魔王。

あれからあまり時間は経っていないはずだが、

どうやら本当に忘れていたようだ。

おそらく、そもそも人間の顔を覚える気もないのだろう。

なんたって、あいては魔王なのだ。

エーはそう納得することにする。


「こいつは俺の駒使いでな、いつものやつをもってきた」


トゥグルがエーを指して説明すると、

エーは慌てて背負っていた荷物を降ろして蓋をあける。

中には美しく透き通る氷の塊が入っていた。


これがトゥグルの立てた作戦である。

魔王同士は交易を行っているものがいることは魔王たちの会議に行くときに知った知識だが、氷の魔王と森の魔王のところでもその関係があったのだ。

氷の世界からは氷が送られ、森の世界に住む寒いところでなければ咲けない花のために設置される。

そして森の世界からは氷の世界では到底得ることはないであろう花の蜜を貰っている。

人間嫌いの森の魔王に近づくには、エーがただの人間ではなく、大事な交易品を運ぶためにトゥグルが飼っている人間だということにするのが一番手っ取り早かったのだ。

エーから炎の世界の臭いがすることは、同じく交易を目的として炎の世界へ行ったから、で説明がつけられる。

会議にいたこと、つまり炎の魔王と氷の魔王とともにいたこと自体がその証拠にもなる。

ただ問題と言えば、魔王が勇者を飼っているという図式が通用するのか、という点だが、

実際の例がないのでなんともいえない。


森の魔王はじっと氷を、エーを、そしてトゥグルを見つめる。


「何をたくらんでる?」

「なにも」


訝しげに睨み付ける森の魔王にたいして、相変わらずトゥグルは無表情で返した。

こう言う場においてトゥグルの無表情は非常に有効だった。

しかしそれを勇者エーができるかと言われればそれは確実にNOだ。

トゥグルではだめだと悟った森の魔王がギラリとエーを睨み付けてくるのに、エーはびくりと肩を跳ね上げて顔を背けてしまった。


「なるほど、何かあるな?言ってみろ、働き分位は聞いてやる」


ずい、と森の魔王がエーに迫った。

エーは助けを乞うようにトゥグルへ視線を投げたが、トゥグルは諦めろとばかりに首を横に振っている。

重く、重く息を吐いてから、エーは意を決して森の魔王に向き直る。


「何があったかは知らねーし、たぶん俺がいうべきじゃないと思うけど!炎の魔王と喧嘩とかしてんだったらもう一回話をしてやってくれねーかな!」


エーのやや叫びぎみの主張。

恐る恐る森の魔王の様子を伺うと、森の魔王は慈愛に満ちた優しい笑顔で頷いて言った。


「あぁわかった、では死ね」

「死刑宣告!?」


思わぬ言葉に驚きを隠せないエーと森の魔王の間に、

まるでボクシングのレフェリーのようにトゥグルが割って入った。

実際に死刑が行われてしまわないようにである。

だがそんなトゥグルにさえ、森の魔王は噛みつくように睨み付けた。


「何も知らないところを見るとお前の入れ知恵だなトゥグル。何が目的だ、お前はあいつに肯定的だったと思ったが?」


森の魔王の桃色の瞳が細められる。

しかし、それに対してさえトゥグルは無表情で、何も語らなかった。


気まずい沈黙が流れる。

長い沈黙のあと、いたたまれなくなったエーがついに口を開いた。

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