第五話 森の魔王 Ⅳ
もう一度、なにも対策なく森の世界に行っても返り討ちに会うのがオチである。
曰く、トゥグルは魔法は得意な方ではないらしいので、
氷の世界で手に入る限りの麻痺対策をする。
と言っても一時的に耐性をつける薬を飲んでおく程度しかできなかった。
そうしてから、エーは大きな荷物を持って、トゥグルとともにゲートを潜る。
トゥグルの作戦は、エーが議会にいたというのがばれているからこそできることだった。
再びやってきた森の世界だが、
そこはエーが最初に出た森のど真ん中と言った場所ではなく、
程よく開けた場所だった。
「俺が始めて来た所と違うぞ?」
「勇者の侵入口と一緒だったら困るだろう」
トゥグルがゲートの火を消しながら答える。
たしかに、とエーは納得して荷物を背負いなおした。
『あら、あらあら、氷の魔王様が人間を連れてきたわ』
老婆のような声がして、声の主のほうを見た。
そこには大きな紫色の花が咲いていて、風に吹かれる他の草花とは別の動きをする。
エーが初めて来たときに会った花もそうだったので、
きっとこの動き喋る花がこの世界の住人なのだろう。
「フォーリアはいるか」
『いま伝達したから、すぐ来ると思うわ』
トゥグルが花に問う。
端から見ると、
花に話しかける男とうのは何ともシュールに見えるものだとしみじみと思う。
「伝達?」
エーは首をかしげた。
花がトゥグル以外と話した素振りは一切なかった。
どこでどう伝達したのかと疑問に思ったのだ。
その言葉に花は蔦を器用に動かし、地面を指し示した。
『わたしたちは根でつながっているから、根を通して声を届けられるの』
「……じゃあ俺が来たときにすぐ森の魔王がきたのも……」
はあ、とエーはため息をつく。炎の世界といい、どうも魔王の部下には見つかりがちで、
そして動向が筒抜けになっているのは、
勇者としてなかなかに屈辱だった。
きっと、炎の世界に行く前の失敗続きだった魔界も同じような状況だったのだろう。
よくよく考えてみれば、いろいろな勇者や魔王に会いに行く前に、
自己鍛錬を強化した方が良いのではないだろうか。
エーは剣術は自己流だし、もともとただの農民だったために特別戦闘に役立つ技能があるわけでもなかった。
森の魔王にあっというまに殺されたこともあれ、
まずは勇者としての自分に磨きをかけるべきなのでは?
そう思考にふけり始めたせいだろうか、
エーは走ってくる足音に気付かなかった。
ガサガサと大きな音がして顔を上げると、そこには森の魔王が今まさに飛びかからんとするところだった。
「人間滅ぼしキーーーック!!!」
スカートが翻ることもお構いなしに飛び蹴りをしてきた森の魔王。
エーは避ける間もなく、
その飛び蹴りを受けることとなった。




