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ムゲンWARS  作者: レヌ
第五話
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第五話 森の魔王 Ⅲ

「……なるほど、森の魔王か」


氷の城の中、氷の魔王トゥグルは無表情のまま温かいお茶を啜る。

とんでもなく違和感のある光景を目の前にしながら、エーは今回が初となるいろんな魔王にあってみる作戦の成果についてため息混じりに説明していた。


もちろん結果は敗北、視界が暗転したとおもったら女神の間にいたエーは久しぶりに死んだ事を理解した。

炎の魔王への連続挑戦以来だったが、勇者は死なずにリスポーンできる、という特典があるのをやや忘れていた。

死んでから気づくのは遅いのだが、随分恐ろしい体験をしたと思い出してエーは身震いをする。


「あいつの体に咲いてる花からは麻痺毒が放出されている。吸うと全身から始まり肺と心臓も麻痺してそのうち死ぬ」

「知り合いなのか?」


自分のリスポーン原因はわかったが、

知った口調であったトゥグルに、エーは疑問を投げ掛ける。

トゥグルの表情は変わらないが、なんとなく言い淀んでいる感じが会話の合間の沈黙から読み取れた。


「……まあ、そうだな。今回は運が悪かったな」


トゥグルはお茶を氷のテーブルに置く。

エーは会話に違和感を感じて首をかしげた。


「運が悪いのは自覚あるけど、知り合いならむしろよかったんじゃねーの?」


あの森の魔王はずいぶんと人間嫌いだったように思う。

ならば、知り合いの名前を出せばすこしは対応が緩和するのではないかと。

だがトゥグルは首を横に振る。


「あいつはレーヴェを嫌っている」


そのひとことにエーは納得した。

森の魔王の、エーから硫黄と鳥の臭いを感じ取った時の反応、

あれはたしかに、エーのことを嫌っただけの反応ではなかった。


「森と炎だもんな」


どうみても相性は悪い。エーは納得してうなずきつつ、

トゥグルが用意したお茶請けの「こおりまんじゅう」に手を伸ばす。

しかしトゥグルは、珍しく眉間に皺を寄せていた。


「……いや…種族や属性の違いのせいだけでは、ないのだが……」

「……?どういうことだ?」


トゥグルは難しい顔で呟いてから、首を横に振る。

エーはパクりと、こおりまんじゅうにかじりつきながら首をかしげる。

こおりまんじゅうという名前が示すように冷たく、

しかし名前が示すような固さはなく、むしろもちもちと柔らかい感触は求肥に包んだ菓子のようで、

中には甘く真っ白な餡が詰まっている。

餡にはしゃりしゃりとした甘い氷の粒が入っていて、食感の違いが楽しめる。

と、エーは心のなかで評価する。

そんな間もじっと黙ったままだったトゥグルが口を開いた。


「エー、頼みがあるのだが……いや、これは、断ってくれても構わない」


妙に遠慮がちなトゥグルの様子に、エーは眉間にシワを寄せながらお茶を啜り、


「……森の魔王との仲を取り持ってくれないか」


続いた言葉を聞いて盛大に吹き出した。


「げっほ、げほ……!!なっ、なにいってんだ!?魔王同士の仲なんか取り持てるか!俺は勇者だぞ!」


エーは咳き込みつつ目を丸くする。

いま話しながらお茶してる相手が魔王であることをすっかりと忘れるほどの驚きを含んだ声だったが、それに対してトゥグルは気分を害するようなこともなく、静かに目を閉じて頷いた 。


「……そうか、いや、断っても構わないといったのは俺だ、忘れてくれ」


まったく物わかりの良いトゥグルの様子にエーの方が申し訳なくなるほどだった。

……だがトゥグルはぼそりと続ける。


「俺がやって双方から一人で激怒されるだけだ。何も問題はない」


エーの胸になんともいえない罪悪感が沸き上がる。

トゥグルの心は冬の朝水溜まりに張ったうすーい氷より壊れやすい。

もうすこし断りかたがあっただろうか、とエーは眉を寄せる……


「俺はたぶん凄く落ち込むだろうが、勇者であるお前には関係のないことだからな」

「なあもしかしてわざと?わざと言ってないか?」


が、どうも同情を引くような発言が続いて、つっこみの心がエーを正気に戻した。


しかし、トゥグルが困っているのは事実なのだろう。

表情が乏しい人物ではあるが、真剣さでいえばいままで会ったどの魔王や勇者より真剣だった。

そしてなにより、困っている人を無下にすることは、エーの中の勇者像が許さないのだ。

頭を掻き乱しながら、半ばやけになったように叫んだ。


「……あーーー!!もう!わかったよ、やればいいんだろー?!」


エーはこおりまんじゅうを引っ付かんで頬張る。


「……いや、本当に、無理にとはいわな……」


目をぱちくりさせるトゥグルが尚も言うが、エーが手を出して制止する。

ごくりとこおりまんじゅうを飲み込んでから、はあと息を吐き出した。


「俺は勇者だぞ、勇者は困ってる人を助けるのも仕事だ。ただし報酬はだしてもらうからな!!」


キッとトゥグルを睨むエー。

トゥグルはまたなんとか瞬きをしてから頷いた。


そうしてここに、炎と森の両魔王の仲を取り持つという奇妙な作戦が発足したのだった。



「……ところで俺は魔王なのだが、勇者的に俺も困ってる人にカウントしても良いのか」

「あぁ、もう、実は空気とか読めない系だなお前……」


トゥグルの言葉に、エーはもう一度深く深く息を吐き出した。

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