第四話 魔王会議 Ⅵ
「なにやってんだあいつら…」
エーは下を見下ろしながら、見知った顔の二人がなにやら揉み合いをしているのを眺めて呆れた声を漏らした。
(……しかし、)
エーは改めて会議を見渡す。
皆が皆、わがままで、自分勝手で、やかましく、協調性などあったものではない。
だがその光景は、異形であることを除けば、まるで、
(まるで、人間と変わらないじゃないか)
勇者は奥歯を噛みしめる。
彼にとっては散々壊された魔王像だった。
そして散々立て直された魔王像だった。
だがそれを再認識して、エーが立て直した魔王像は再びひび割れた。
「……なあ、あんた」
勇者は隣に座る胡散臭い男に声だけを投げる。
「なんで俺を、ここに連れてきたんだ」
隣に座る男はまるで悪魔のような黒い尾を揺らした。
「ここに来たイミ、今日という日が訪れたリユウ。それはこれからキミが考えるんだよ」
そうしてにんまりと三日月のように口を歪ませる。
「…………」
エーはもう一度奥歯を噛みしめて、
会議を食い入るように見つめていた。
会議は3、4時間で終了した。
結局エーは途中から専門用語であろう言葉が出てき始めて頭痛により会議の内容はさっぱり頭には入らなかった。
気が付けば胡散臭い男はいなくなっており、エーは魔王たちがある程度いなくなったのを見計らって外にでる。
「おーい」
鶏スーツのフードをしっかりと被って、エーは連れの魔王たちに手を振る。
炎の魔王がエーの姿に目を丸くして、すぐに不機嫌そうに背の炎をばちばちと弾けさせた。
「のたれ死んでいるのかと思ったぞ」
「勝手に殺すな、ちょっと…あー、うん、隠れて見てただけだ」
話して良いことなのかと一瞬戸惑ったエーが、なんとも歯切れの悪い返事をして、
レーヴェの不機嫌はさらに輪をかけた。
「……ふん!もうしらん!私は帰る!!」
そう宣言して顔をそむけたレーヴェはすたすたと歩いて行ってしまった。
エーは追及されなかったことに小さく安堵のため息をつく。
「……エー」
静かにしていたトゥグルが口を開く。
「ん、ああトゥグル、急にいなくなっちまって悪い、」
「すまなかった」
そうエーが言いかけたところで、トゥグルの言葉が割り込んだ。
唐突なことにエーは目を丸くする。
トゥグルがエーに対して謝る理由が、エーにはわからないのだ。
「…えっと、いや、謝るのは俺の方…」
「ちがうんだ、違う…いや、謝らせてくれ、すまなかった」
しまいには頭を下げるトゥグルに、エーはどうしたらいいかわからずに困惑した。
「……今日は、どうだった」
頭を上げたトゥグルが、エーの目をまっすぐ見つめてそう尋ねる。
困惑したままのエーはしばし言いよどんでから、
落ち着くように息を吐いてから、会議室のほうを振り返った。
「まだ、わかんね」
エーはそう答えた。
トゥグルは同じように会議室のほうを見てから、小さく「そうか」と返した。
白い壁と白い床と白い天井の部屋を金色の鎧を身に着けた勇者が歩く。
白い枠組みの前にいる一人の天使が、そんな勇者を見つけてにこやかに笑った。
「いらっしゃいませゆうしゃさま、こんかいもほのおのせかいですね?」
天使の言葉に、勇者は首を横に振る。
「どこでもいい、俺がまだ、行ったところないところへ」
勇者は、その証と同じ色の目でゲートを見つめていた。