第四話 魔王会議 Ⅵ
レーヴェは不機嫌を隠すこともなく席について足を組んで頬杖をついていた。
隣に座るトゥグルはなにか言いかけた口を閉じて、伸ばしかけた手を下ろす。
レーヴェの不機嫌の一端は自分にあることを理解しているからだ。
ここまで無理につれてきたのもそうだが、
無理につれてくる理由たる人物がこの場におらず、探すことをさせなかったのも原因だろう。
これは正しいことだった。トゥグルはそう心のなかで言い聞かせた。
「…ええと、人数が足りないのはいつものことなので、会議を初めたいと思います」
議長のガーエルが眉をハの字にしながら議会の開始を宣言する。
だがそれでこの会議が始まったためしはないのだ。
一人の魔王ががたりと立ち上がり机を叩く。
「おい議長ぉ!!」
「は、はひ?!」
地獄のそこから響く大声に議長の肩が跳ねる。
天を刺す角、毒々しい色の肌、赤く光る目、鋭く伸びた爪、どれをとってもまさしく魔王。それも冒険ファンタジー的魔王。
彼の二つ名はなんだったかとトゥグルが考えていると、再び怒号が響く。
「人数が足りないとはどう言うことだぁ!!貴様また招集をサボったなぁ!?」
「し、招集をかけなかったことは一度もありません!」
「しかも貴様!今日の開始は5分も遅れたぞ!魔王を集めておいて開始が遅れるとは何事だぁ!!」
やや食いぎみに捲し立てる魔王らしい見た目の魔王の言葉に、議長は眉をハの字にして困り果てた様子だ。
周りの魔王たちはというと、その怒号に便乗してヤジを飛ばしたり、そもそも違う話をしていたり、呆れていたりと統一性のある行動は見られない。
"これ"が魔王会議の日常の光景だ。
あの最初に怒号を上げた魔王はなにかと難癖をつける常習犯。まわりの魔王も"いつも通り"なのである。
参加者によっては落ち着いている日はあれど、大半はこうして、会議は勝手に踊り出す。
「そっ、それでは今回の議題を提示します」
議長は収拾がつかないことがわかり、胃の辺りを手で摩りながら強引に進行をはじめるのだった。
ざわつく会議を聞きながら、トゥグルは恐る恐る横目でレーヴェを見た。
変わらず不機嫌そうで、議会など意にも返さないレーヴェに、トゥグルはすこし目を細めた。
と、いうところで、トゥグルは気づく。
レーヴェが不機嫌そうなその表情の下で、
そうまさに机の下で、
こっそり携帯ゲーム端末であそんでいることに。
「…………」
一瞬申し訳なさで謝ろうとした己を恥じながら、
トゥグルはレーヴェの頭へと氷塊の手のチョップを降り下ろした。