第四話 魔王会議 Ⅲ
入り口の近くまで行くと、狩り取る者という魔族が石像の台座のようなところに座ったままこちらに目を向ける。
「………」
三人は何でもないような顔で入り口を通り抜けようとする。
トゥグルが通った時は一瞥しただけで終わり、
レーヴェの場合はすこし鼻を動かして臭いを確認するしぐさをした。
しかしエーが通ろうとしたときだった、
狩り取る者がすんすんと鼻を動かして、台座から飛び降りた。
ヤギのような足が蹄を鳴らし、かつかつとエーの近くへやって来る。
「……!!」
エーはびくりと肩を跳ね上げる。
ーーバレれば、首を跳ねられる。
頭をよぎる最悪の事態に、心臓がばくばくと大きく鼓動し始めた。
すんすんとエーの臭いを確かめるように鼻をならし、周囲を回られる。
「そいつは私の配下だ、議会が見たいと言うのでつれてきたが、問題があるか」
それは先に入ったレーヴェの声だった。
先程までの不機嫌そうな顔はどこにもなく、凛々しい王の顔と声色で狩り取る者にそう告げる。
狩り取る者は何度かレーヴェとエーを交互にみてから、考えるように首を捻る。
そのまま納得してくれ、そうエーが心のなかで願ったときだ、
「ヤアいらっしゃい魔王一行様、入り口で立ち往生してどうしました?」
すこし明るい声が建物の奥から投げられた。
かつりかつりと踵をならしてやって来たのは、白いワイシャツと黒いベストを着た浅黒い肌の男。
見た目の年齢はレーヴェやトゥグルよりももうすこし幼いように見える。
羽も角もないが、この建物の奥から来るということは魔族であろうことを察する。
「……」
狩り取る者がやや不満げに奥から来た男を見た。
すると男は、ああ、と納得したように手を叩いてからうなずく。
「ソレはどう見ても地獄鳥だろう、ちょっと大きさが中途半端だけど、そういうやつもいるさ。それよりあとがつかえてしまうから中にいれてあげなよ」
にこにこと笑う男に、狩り取る者は尚更いらだったように唸りながら鎌を地面にかつかつと打ち付けた。
「からあげ」
狩り取る者が幼い子供の声で、やや発音悪く言った。
(からあげ…?)
状況が状況だけになぞの一言につっこめないエーがそわそわする。
そんなエーを置いて、男はもう一度頷いた。
「わかったよ。サア魔王様方、中へどうぞ」
流れるような動きで奥へと促すように手を向ける。
エーとレーヴェの視線が会う。どうもレーヴェのほうもに予測していない事態であるらしいことが微妙な表情をしているのでわかった。
促されるまま、三人は議会の中へと足を踏み入れる。
議会のなかの空気は庭園と比べると酷く重く感じた。
長い長い廊下が続く。
閉鎖空間特有の息苦しさとは違うようにエーは思う。
「…からあげは盲点だった」
エーの思考が遮られるように、
トゥグルが歩きながら言った。
「どゆこと?」
エーは緊張で鳴り続けていた心臓を落ち着かせながらトゥグルを見上げる。
「狩り取る者の好物はからあげなんだ」
エーの横でレーヴェが言う。
「賄賂を用意しておくべきだったな」
続いてトゥグルが涼しい顔でそう呟いて、
エーは冷や汗をひとつ伝わせる。やはり魔王、考えることが悪どいのである。
「さあ、次の関門だ」
トゥグルがそういって、廊下の先を見据えた。