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ムゲンWARS  作者: レヌ
第一話
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第一話 金色の勇者 Ⅱ

再び挑んだ炎の世界。

相も変わらず熱いだけの世界に若干の慣れを感じながら到着した魔王城。


「…またきたのか、己を知らぬ愚かな勇者よ」


炎の魔王が笑う。エーは道中考えた勇者っぽい前口上を叫び斬りかかる。

前回と違う位置にあった落とし穴に落とされる。


再びやってきた炎の世界。

まわりの魔物に、最初に来たときと比べて殺気がない気がする。

エーのあとを白い生き物が隠れながら追いかけているのを見かけながらも、魔王に挑む。


「…む、ちょっとまて。……うむ、よし。愚かな勇者よ、よほど火に焼かれるのが好みであるらしいな」


また炎の魔王に笑われる。

だがそのセリフの前になにかを背に隠したのをエーは見逃さなかった。


「魔王!いま何を隠した!」


エーが剣を向けると、炎の魔王の髪の炎が動揺したように揺らめいた。


「き、貴様には関係のないことだ」


目をそらす魔王をみて、いまがチャンスとばかりにエーは飛びかかる。


「ええい!何度もしつこいなあ!」


炎の魔王が叫び、玉座に取り付けられたボタンを押した。

まるで狙い済ましたかのように、エーの着地地点に穴が開いた。





「おお、勇者よ、死んでしまうなんて大丈夫ですか?気分は悪くありませんか?」


「女神様…もういっそ情けないと言ってください…逆に情けなくなってきます…」


女神の間。

真っ白な壁、真っ白な柱、真っ白な椅子が一脚。

女神様がいるこの部屋に、死んだ勇者は回収され、復活…リスポーンする。

そう、エーは死んでしまったのだ。炎の魔王の罠により溶岩の中に落とされて。

しかしエーにとっては死は初体験ではなかった。

始めこそ死に蝕まれることに恐怖したが、回数がかさめば何てことはない、ただ直前にものすごく痛いだけで気がつけばこの女神の間にいるのだ。

慣れてしまえば、リスポーン後に思うのは自分の無力さだけだった。


「あまり無理をしてはいけませんよ」


優しい声で女神が言った。

エーは、はい、と小さく呟き、礼をして女神の間をでた。


女神の間をでると、同じような白い壁と柱、沢山の扉がある大広間。


女神の間を含めたこの白い場所は、勇者を含めた人間や動物たちが住まう広大な世界…聖界に存在する、特殊な空間。

ここに来ることができるのは女神と、金髪碧眼で背に白い羽の生えた少年少女、そして老若男女の特殊な人間達だけ。


羽の生えた少年少女は、その容姿の通り、まさしく女神様が遣わした天使たちだ。

天使たちは箱やらアイテムやら武器やら防具やらを運び、様々な部屋に入っては再び出てくる。

その天使たちが世話を焼くのがその他大勢の老若男女。

彼らは、そして彼女らは勇者である。


エーが、勇者は案外沢山いる、ということを知ったのは勇者になってから少しあとのことだった。

小さな村で育ったエー。小さな頃はよく、伝説の勇者が身に付けていたという黄金の装備を奉っている村長の家に呼び出され延々と話をされたものだった。

都会から来る冒険者や旅人は少なく、都会に出ていくものはあれど村に里帰りなんてしてこない。

エー自身も勇者になるまで村の外の町のことなんて全く知らなかった。

そのせいか、エーは勝手に"勇者は世界にほんの数人、または一人しかいない"ものだと思い込んでいた。

だから初めて勇者"達"を見たときは唖然とした。


「ああ、あの金色のやつ」


エーの耳に聞きたくもない話し声が届いた。


「また女神様の世話になってる」

「弱いくせによく何度もいろんな魔王に挑むよなあ」

「自分でも倒せる魔王探してんだよ」


くすくすと笑う声、もう聞きあきたとばかりにエーは無言で首を横に振り、歩き出した。



エーは、とことん運がない。

村を出る前はどんな仕事だってこなしたが、普通過ぎて誉められず、

恋はしたが実らず、友達はいたが親友はいない。

村を出るときに勇者ということで村長から受け取った、女神の加護が宿っていて邪悪を払うらしい黄金の鎧は、邪悪を払うなんて効果実感したことはない。

さらには初陣で向かった魔界は熟練の勇者も避けるような凶悪な魔王のすむ世界。

秒殺されてもめげずに挑んだ先は絶賛種族内抗争中で巻き込まれ死。

そうして負けを繰り返すうちに、いつの間にか他の勇者にこうして影で笑われるようになった。


エーが向かう先には大きな扉。その扉を開けると、大きな白い部屋。

部屋の中央には紋様の彫られた石で作られた枠組みがあり、その横に天使がたっている。


「ようこそゆうしゃさま。きょうはどちらへおでかけですか?」


エーをみつけた天使は小さな子供のような高い声でエーを迎える。


「炎の所に」


エーは短く完結かつ素早く言う。

その言葉に、天使は「あぁ、なるほど」というような顔をして石の枠組みに向かい、空中に浮く光る半透明の沢山のパネルを操作し始める。その操作に呼応するように石の枠組みに彫り込まれた紋様が青く光始める

エーには魔法はよくわからないが、恐らく魔界とこの場所を繋ぐための魔法なのだろう。

勇者は皆、このゲートと呼ばれる扉をくぐり、聖界各地、果ては魔界各地へ向かうのである。

少し待つと、ゲートの光が和らぎ、なにもない枠組みの内側に水面のように美しい青色の膜のようなものができる。


「かんりょうでございますゆうしゃさま。では、4かいめのちょうせん、がんばってください」


にこりと天使が笑っていう。


「数えなくてもいいんだよ!」


恥ずかしくなって、エーは顔を赤くして天使に吠えた。

気を取り直し、ゲートとに向き直る。

青色の膜に手を伸ばす。

手は水に沈んだかのように青色に飲み込まれ、膜は水面のように波打った。

エーは、すぅっと息を吸い、止める。

そしてそのまま、青色の中に飛び込んだ。


目の前は青、上下も左右もわからない空間で流されていく感覚は、まるで川にでも飛び込んだかのような気分だった。

それもつかの間、エーの体は流れから弾き出され、

地に足がついたときにはもう、見慣れてしまった灼熱の世界が広がっていた。


振り替えると、自分が通ったものと同じゲートが、この世界に似つかわしくない色をそのままに佇んでいる。

聖界に帰るときは同じようにこのゲートを通れば良いのだ。

しかし、このゲートを通って帰る勇者は多くはない。

ちなみにエーはゲートを通って帰ったことは一度もない。

今度こそこのゲートを通って帰れることを胸の奥でそっと祈り、エーは気を引き締めて魔王城がある方向を睨み付けた。



「…ん?」


と、視界の隅に白いものが映った。

この世界に似つかわしくない白は即座にエーの集中力を削ぎ落とすには十分だったが、

その正体に、エーは不本意にも顔を緩めてしまう。


そこにいたのは、白くて丸い鶏のような生き物だった。


到底害があるように見えない愛玩動物のようなそれのつぶらな黒い瞳と、エーの青い瞳が会い、お互いに無言の時間が一瞬流れる。

だが、エーが警戒すべきだと思い直すのと、白い生き物が悲鳴をあげるのとでその静寂は意図も簡単に破られた。


「こけーーーー!!???」


鶏のような声を上げて白い生き物が飛び上がる。

そしてそのまま、白い生き物は脱兎のごとく赤い大地を走り出した。


「ちょ…!ま、まて!おい!」


あのまま逃げ回られては他の魔物に自分の存在を悟られかねない。

そう思ったエーは白い生き物を追って走り出す。



追うことに夢中でエーは気づかなかった。

警戒すべき他の魔物がいないことに、


白い生き物が、白亜の城へ向かっていることに。

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