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ムゲンWARS  作者: レヌ
第一話 [裏]
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第一話 金色の勇者 Ⅱ [炎]

さて、勇者を折る方法について補足をしておこう。

このような燃え上がる系勇者は、一度では折れない。

二度目がほぼ必ずある。


……というのも、勇者の命には限りがない。

勇者は女神の手によって死しても回収されて蘇る。

魔王側は、圧倒的な力を持ちながらも、消耗戦を強いられる。

だからこそ、もう二度と来ないように心を折る必要があるのだ。


「…またきたのか、己を知らぬ愚かな勇者よ」


同じように魔王らしく振る舞い、勇者らしい前口上をきちんと聞いてやってから、

突き落とす。


「さすがですまおうさま!」


地獄鳥たちの拍手を受けて、レーヴェは大袈裟に礼をしてみせる。

そもそもが魔王に一撃すら与えられない無力感と、罠によって殺される屈辱。これで諦めない勇者はいない。


だから三回目があるとはやや予想外だった。


いや、実際三回目を挑んでくるやつがいないわけでもない。だが数は圧倒的に少なかった。

だから油断して、積んでいたゲームをもうすこし、もうすこしと遊んでいると、例の勇者がやってきた。


「…む、ちょっとまて。……うむ、よし。愚かな勇者よ、よほど火に焼かれるのが好みであるらしいな」


レーヴェはあわててゲーム機を背に隠し、いつものように魔王らしさを演じる。

しかし隠したのを勇者は見逃さなかったらしい、鋭い目でレーヴェを睨み付け、怒りを露にした。


「魔王!いま何を隠した!」


勇者が剣を向ける。


「き、貴様には関係のないことだ」


ついレーヴェは目を背ける。

なにも疚しいことはない。だがどうしてか、責められているきがしてしまうのだ。

その一瞬の隙をついて、勇者が一気に走り込んでくる。

思ったよりも深く入り込まれてしまったことにレーヴェは目を細める。

もちろん剣が届く範囲ではないし、隙を作ってしまったのはたしかに落ち度だ。


「ええい!何度もしつこいなあ!」


一瞬の焦りとともにやや声を荒げて、

レーヴェは玉座のボタンを押した。





はあ、とレーヴェはため息をつく。

勇者は今まで通り穴に落ちて、今ごろは女神のもとで定石の「死んでしまうとは情けない」でも言われている頃だろう。


「あのようすではあいつまたきますよ?」

「ゆゆしきじたいだ」

「こんなにひんぱんにこられたらなにもできない!」

「せんたくものもほしていられない!」


小さな地獄鳥たちがピーピーと騒ぎ立てた。

レーヴェの使う戦法は、民の誰をも傷つけないが、民の誰もが避難しなければならないものだ。故に襲撃が立て続けに起こると、生活が儘ならなくなってしまう。

むう、とレーヴェは唸る。

この調子では状況は変わらないままだろう。しかし全力をもって叩き潰せば、きっと勇者魂に火をつけることになるだろう。


レーヴェは頭のなかで最善を考える。

誰も傷つかず、城を汚さず、力も使わず、英雄思考に取り憑かれた哀れな人間の心を砕き、この世界に平和をもたらすのだ。


背負う炎がばちばちと燃えて、ふと弱まる。

はあと大きく息をはいて、レーヴェは眉をハの字にして告げた。


「プランBでいこう」


地獄鳥たちは一斉に首を、からだ全体を傾けて首をかしげる。


「ぷらんびーとは」


レーヴェはかりかりと頬をかく。


「ねえよそんなもん、と言いたいが、お前たちには通じないだろうなあ……いや、あるにはあるんだ、すごくとてもめちゃくちゃやりたくないプランが……」


そうしてもうひとつため息をついた。




「そんな!!いけませんまおうさま!!」


一羽の地獄鳥が鳴くと、一斉にピーピー言い始めた。


レーヴェの作戦はこうだ。

あの勇者は物語の勇者に取り憑かれている。魔王を相手にして、いつか勝てると夢を抱いている。

だがそれは物語の勇者が対峙する物語の魔王だ。正しい勇者と魔王のあり方だ。

それを突くことでやる気を削ごうというのが今までのものだったが、それでもあの勇者は落ちない。

では、"より強く当たる"しかない。

つまり、レーヴェが魔王の威厳をかなぐり捨てて、惰性と怠惰を貪る様子をさらけ出し、物語の魔王などここにはいないのだということを分からせる、というものだ。


「まおうさまのイメージが!」

「しつむちゅういがいはざんねんまおうなのがばれてしまう!」

「なんならしつむちゅうもまじめじゃないのに!」

「余計なことを言わんでいいわ!」


ピーピーと好き放題を言い始めた地獄鳥たちの様子にレーヴェの背の炎がごう、と燃え上がる。


そう、レーヴェは威厳ある魔王を努める一方、

遊びを愛し、新しいゲームを買っては飽きて積み上げる、地獄鳥が言うところの"残念魔王"なのだ。


「……とにかく!そういう作戦でいく!勇者を最高のタイミングで誘導するため、小型のもので最も足が早いものを一人挙げろ!」


地獄鳥の群れがざわざわとし始める。

あるものは走るのは自信がないと落ち込み、あるものは短距離で何秒だったと自慢をし、

そのなかで手を上げてぴょんと群れから飛び上がる一羽が言った。


「しんげんいたしますまおうさま!えいちさんじゅうろくばんがさいてきかとおもわれます!」


一斉に地獄鳥の群れの視線が一羽に向けられる。

『H36番』と呼ばれた地獄鳥はまさか推薦されるとは思わなかったのか黒いつぶらな瞳をまんまるにしてきょろきょろと回りを見た。

地獄鳥たちにはもちろん個別で名前はあるのだが、あまりに数が多く、また入れ替わりも激しいために、部隊毎にわけ、さらに番号で呼びあうこととなっている。

これはレーヴェが定めたルールではなく、地獄鳥たちが決めたルールで、本人……いや本鳥たちもコードネームみたいでかっこいいと好評なよう。

『H』がつくのは城内の清掃や備品の補充など雑務をこなす部隊『家鶏』の頭文字だ。

そんなことを思い出しながら、レーヴェは推薦した地獄鳥を見る。


「プレゼンを許可する」

「はい!おしろまでのおおはしをいっぷんいないにおうふくしたきろくがあります!さらにいざとなったらそくざにみをかくし、えんぎりょくにもたけた、もとえんげきぶであります!」


舌足らずな小地獄鳥のプレゼンを分かりやすくまとめると、

城までにかかる大橋を一分以内に往復する脚力!即座に身を隠せる隠密力!そして誘導のための演技力!そのどれをも兼ね備えているという話だ。

おお、と歓声と拍手が沸き起こる。

だが当のH36番は突然の喝采に慌てふためいているようで、レーヴェはそれをじっと見つめてからびしりと指をさして高らかに宣言する。


「採用!!」

「こけーーー!!??そんなぁまおうさま!!ぼくにはむりですよぉ!!」


ぶんぶんと首を、いや体全体を震わせて、H36番は全力で否定する。

レーヴェは屈んでできうる限り視線を同じくしてから言う。


「褒美はお前が望むものを与えよう、お前の身の安全は私がこの名にかけて必ず保証する、お前ならできると私は確信しているからだ」


そこまでいってから、レーヴェは困ったように眉をハの字にして続ける。


「……だが、お前の自由を侵害するのは私の望むところではない、お前が嫌だというなら、他の者を探そう」


H36番はぶわりと羽を膨らませてまんまるになったあと、諦めたように体を萎ませてレーヴェを見上げた。


「そのいいかたはずるいですよぅまおうさま……」


そう言うと黒いまんまるのつぶらな瞳を伏せて一歩二歩と歩みでて、

嘴をレーヴェの足の甲にこつりと当てた。


「ちょっとはやいなつのボーナスと、コックちょうのしんさくケーキと、あなたのおやくにたてるめいよをくださいまおうさま」


口付けるようなそれの頭に、レーヴェもそっと口付けるように唇で触れる。


それは契約。

目的と利害の一致によって行われる尊い約束。


「頼んだ」


レーヴェがそういうと、H36番は恥ずかしそうにはにかんでから、びしっと足を揃えて敬礼をする。


「いってまいります!!」


声高らかに言って、てけてけと小気味良い音をつれて廊下をかけていった。

それを見送ってから、レーヴェは立ち上がる。


「これより、プランBを開始する!!それにより……」


地獄鳥たちの視線が集まる。

レーヴェは胸の前で腕を組み、足を肩幅に開いて堂々と、


「私は!一切の仕事を放棄する!!!」


怠惰を宣言した。






「こけーーーー!!???」


H36番は金色の鎧を纏った勇者と目があって悲鳴をあげた。

大丈夫、これは演技だ。決して本当に驚いたわけではなく、決してちょっとほんとに怖くてちびったなんてことは全くない。

H36番は脱兎がごとく逃げ出した。


「ちょ…!ま、まて!おい!」


作戦通り、金色の鎧の勇者は追いかけてくる。

あとはただただ、城に向かって走れば良いだけだ。


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