強者と弱者
レイジが黒い人影の正体を悪魔と認識したのと悪魔がレイジを獲物として認識したのは同時であった。
脳裏に激しい絶望と恐怖を抱き、レイジは全力で駆け出した。
悪魔に追われて逃げ切った人間などいない。奴らに殺され自分もまた奴らと同じ悪魔になる。
レイジは逃げ切れないとわかっていても全力で走った。
『嫌だ。こんなとこでしにたくねぇ!』
彼の『生きたい』という生存本能が彼の足を動かしていた。
しかし、どれだけ走ろうとも悪魔とレイジの距離は縮んでいく。
「はぁ…はぁ……くそ……ったれぇ…」
息も絶え絶えのレイジが精一杯の悪態をつく、悪魔はすでにレイジの背中のすぐ後ろまで迫っていた。
そして、悪魔が腕を大きく振りかぶり動作をしたのが後ろ手に見えた。
「ここ…まで……なのか」
レイジが諦めかけた その時だった。
ヒュッと何かが悪魔に向かって投げつけられた。
『!?』
悪魔は自分に飛んできた投擲物に反応し、視線をそちらの方へ向ける
視線の先には大きな崖 その上に小さな人影があった。
「姉ちゃん……」
崖の上にいた人影はレイジの姉 千秋の姿だった。
レイジは今度は一瞬にして人影の正体を理解したと同時に悪魔の動きが止まったことを把握して駆け出した。
「避難区域B地区!そこにみんないるから死ぬんじゃないわよ!」
千秋がそう叫びながら崖の上から石を悪魔に向かって投げつけて注意を惹いていた、悪魔は崖の上の千秋に標的を切り替えるがその崖を登りきれずに右往左往していた。
『ありがとう!姉ちゃん』
レイジは内心で姉にお礼をいいながら、悪魔に気付かれないようにその場を離れていった。
避難区域、それは俺たちが暮らす地区が悪魔に襲われた時に避難する為の場所でいかなる場合にも備えてA~Hまでの計8つのエリアの事だ。基本的に人は暮らしておらず各エリアを交代制で整備したりする程度だ、備えあれば憂いなしとはよく言ったものである。
「ハァ…なんとか、助かったぜ。」
避難区域につくなりレイジは地面に座り込み息も絶え絶えにそう言った。
「ここは高台に合って狭い洞窟に入って上らないと来れないからね。悪魔たちもこの高さは登ってこれないし。」
千秋が地面に座り込んだレイジを覗き込むように立っていた。
「マジで死ぬかと思ったぜ。サンキューな姉ちゃん!」