アカツキレイジ
人は生まれた時点で「価値」が決まる。持つ者は生まれた時から重宝され、持たざる者は生まれた時からゴミ扱い。「悪魔」が現れるまでは平等な世界があったらしいが今はそんな世界は存在がしない。生まれた時から区別されるのが今の世の中なのだ。
俺、暁レイジは16年前に持たざる者として生まれ「無能者」通称「V」としてゴミの烙印を押された。この世界で国が援助するのは持つ者「異能者」のみで他の「V」達は家畜のように都市の外へと放りだされる。「V」の中でも「異能者」が生まれれば、その第一血統までの親族が都市への移住を許可され、国からの援助を受けられるのだ。しかし「異能者」が生まれる確率は全体で僅か1%。現在の日本にも「異能者」の数は100人にも満たないであろう。
しかし、「V」の人々は「異能者」を生み出し豊かな暮らしをしたいが為に子供を作った。しかし全体の出生した子供の99%が「V」つまり「無能者」である、「V」として生まれた子供は貧しい暮らしをする大人達のとって重荷でしかない。その結果、都市の外では「捨てられた子供達」通称「ロスト・チルドレン」が増えていた。
俺、暁レイジもそんな「ロスト・チルドレン」の一人である。俺が7歳になる頃に俺は親に捨てられた。それからこの都市の外で一人で生きてきた。あいつ等に会うまでは……。
「お兄ちゃーん!」
遠くから大きな声で俺を呼ぶ声がする。
「おぉーこっちだ!こっち!」
その声の主に向かって俺は手を降って返事する。
「もおーー!どこに行ったのかと思ったよ!お姉ちゃんも心配してるんだからね!」
小さな少々が大きな声をあげて駆け寄ってくる。
「わりぃわりぃ。つーかお前一人で来たのか?カナデ。」
「そうだよー。もうお兄ちゃんが帰って来なくてお姉ちゃんが心配してたからずっと探してたんだからね!」
俺を叱るこの子は、「カナデ」 俺と同じ「ロスト・チルドレン」だが生まれてすぐに捨てられた為に名字も親の名前もわからない。「カナデ」という名前は俺とこいつが「お姉ちゃん」といってる奴とでつけた名前だ。
「そう怒んなって今日はいいもん手に入れて来たからよ。」
俺はそういうと懐に隠していた物をカナデに差し出した。
「これ……もしかしてお菓子?」
「おぉよ。こんな豪勢な食いもん滅多にくえねぇぞ!」
「やったー!ありがとうお兄ちゃん!」
カナデはさっきまでの怒りはどこへ目の前のお菓子に大喜びではしゃいでいる。
「んじゃ、帰るとするか我が家に」
「うんうん。早く帰ろう!」
「ちなみにカナデさん。お菓子の礼ってわけじゃねぇけどお姉様への俺のフォローなんかをお願いできたらと……」
「大丈夫だよ!肋三本で許す。ってお姉ちゃん言ってたから」
10歳にも満たないであろう少女からとても物騒な俺の帰宅後の待遇を聞かされたのであった。
家に帰るなり俺は床に正座させられていた。そして俺の目の前には俺にとってのまさに「悪魔」が目の前に立っていた。
「さぁ~てレイジ君。今、あなたが何故床に正座してるかわかるかな?」
目の前の「悪魔」が床で正座している俺に質問を飛ばしてくる。長い黒神を後ろで縛ってポニーテールにしている目の前の女性、名前は稲葉千秋我が家の主にしてカナデのお義姉ちゃんである。彼女は見た目の美しさもさることながら凛とした立ち振舞いはまさに日本の伝統、大和撫子そのものであると言えよう。しかし今の俺にとって目の前の彼女は「大和撫子」ではなく「悪魔」に見えてならない。
「俺が家の仕事サボって放浪していたからです。」
俺が正直にそう答えると……。
「なるほどなるほど。ちゃんと理由はわかっているのね。お姉ちゃん安心しました。もしも、それすら理解していない脳みそをしているのなら明日の畑の肥料はレイジ君になっていたところよ。」
とても物騒な事を言い出したのである。
「けど今回は反省もしてるようだし今回は出血大サービス!腎臓か右腕一本で許してあげるわ。」
文字通りの出血大サービスであった。って言うかカナデの言ってた事によると肋骨三本で許していただけるはずが何でこんな事になっているんだよーーー!
「あのー千秋さん。カナデの言うところによれば俺は肋骨三本で許していただけると聞いたのですが」
「うん。だから出血大サービスで上乗せして右腕か腎臓なんだよ。」
「そんなサービス嬉しくねぇし、いらねぇーーーよ!」
ちなみに結果的に俺はカナデのフォローもあり、家の雑用当番3ヶ月で許された。ありがとう!カナデ様!
それから千秋様にこき使われた俺は今こうして隣の地区に買い物に来ていた。
国の援助を受けられない都市の外でも一応通貨は出回っている。しかしほとんどの地区では暴力による略奪などで意味をなさない。この地区は都市の外では治安のいい地域であり人々が安全に暮らせる数少ない場所となっている。
「おぉ、レイジ!どうしたんだ?ボロボロじゃねぇーか。」
突然、声をかけられ振り向くとそこには巨体で筋肉質のおっさんが立っていた。
「あぁ?何だ野菜売りのおっさんか。わりぃけど今日は野菜買いに来たんじゃねーからアンタに用はねぇよ。」
「おいおい!えらく冷てぇじゃねーかよ!何だ?また千秋の姉さんにボコられたのか?」
「うっせぇーな!アンタにゃ関係ねぇだろ!」
「もう立派な一人前の男になってきたってのにまだ女にも勝てねぇとは情けねぇー」
「んじゃ聞くがアンタは千秋に勝てんのかよ。」
「馬鹿言うな!俺はお前と違って立派な一人前の男だぞ!嫁と娘を守る一家の大黒柱だ。そんな俺が千秋の姉さんに……勝てるわけないだろう。」
「だろうな。」
こんなガタイのいいおっさんがなに弱気な事言ってんだ?と思うかも知れねーが無理もない。
何せ元々は荒くれ者の溜まり場だったこの地区をたった一人でシメあげて今の治安を築いのがうちの千秋さんなのである。
あの見た目からは想像もつかないくらい彼女は強いのだ。俺も含めこの辺り一帯で彼女に逆らえる者はいない。文字通りひねり潰されてしまうからだ!
「おっと行けね!早く買い物してかえらねーと、その千秋様に殺されちまう。」
そういうと俺は目的の店めがけて走りだした。
「じゃあな!おっさん強く生きろよ!」
「おぉ!お前も明日の朝日が拝めるよう頑張れよー!」
「マジで物騒な事言うんじゃねーーーよ!」
そう言っておっさんは笑っていたが俺としてはマジでおこりうる事なので笑えない。
買い物を終えて帰る頃には辺りは真っ暗になっていた。