表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/63

#40:彷徨する


「あなたは一体、誰なんですか? 僕の……何を知っている?」


 直球。結局、直球を放るしか、今の僕には出来なかった。どんなに記憶を掘り下げようとしても、何も出てこない。何も……出てこないんだ。


 何か思い出せないか、とひとりで思考を巡らせている時は、薄黒い水を湛えた、大きな池のような、そんなもやもやはっきりしない水底を……顔をつけなければ、両手がその底まで届かないような絶妙な深さの……そんなところを必死で手探っているような気分になる。もちろん、その汚泥のような底に溜まった物をいくら掻き回しても、得られるものは何も無いのだけれど。


 そんな中、唯一の手掛かりとも言える、「予言」と「予知夢」に、僕はすがりついた。それは、あるのかどうかもわからない「活路」を見出そうとしてのことなのかも知れない。


 そしてこの、入り口も出口も見えない、そもそもどちらが入り口だか出口だかも分からない、薄暗いトンネルの中をさまよっているような、そんな不安定で不確定な現状から、何とかして這い出そうと、四苦八苦している。もがきながら、のたうち回りながら。惨めに。


「……」


 でも、それが僕だ。今の僕だ。そしてもう、記憶を取り戻す事に、そこまで執着していない自分にも気づく。全てはさくらさんと出会えたから。今を生きるよすがを見出したから。


 必死でそれを完遂しようとしている「予言」も「予知夢」も、本当は、本質のところは、どうでもいいのかも知れない。僕の脳が見せている単なる願望から来た妄想である可能性は否定できないし。


 それよりも僕は、その独りよがりの妄想に過ぎない「未来」を、本当の事にしたいとだけ、それだけを強く、脳の底の底で思っているだけなのかも知れない。


 さくらさんといる未来。過去を持たない僕にも、描ける唯一の絵。


 目の前で柵に寄り掛かった姿勢のまま、にやにやとした笑みを浮かべながら、シンヤは煙草をふかしているだけだ。その吐き出された煙が風に乗り、僕の顔をなぶるけど、不思議と不快な臭いは感じなかった。マスクも、ノーズクリップも外しているというのに。


「……」


 僕は……いや僕の体は、シンヤに対して、不愉快さを感じてはいないかのようだ。頭ではこんなに、嫌な気持ちになっているというのに。


 ますます、わからない。でも、こいつとの間に、過去、何かがあったことは間違いないように思えた。頭蓋骨の裏辺りが、さっきからずっとぞわぞわしているし。


「ボクは僕さぁ。シンヤは真なりってね。ボクこそキミの真なる味方。だからぁ、一蓮托生、協力し合った方が、早いとこ記憶も取り返せると、そう思うんだけどねえ」


 鼻から煙を吐き出しながら、シンヤがこちらを向き、さらに気持ちの悪い笑みを深くする。


 何かはぐらかされたかのような……そして、真剣に答える気はさらさら無いようだ。


「真なる味方」? 前にも似たような事をのたまっていたけれど、信用できるかって話なわけで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ