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#32:推察する


<10がつ14 か さく らさんと うみまでド ライブわ りとあたた かくてなみう ちぎわで ゆうひをずっとな がめていた そのあとのこ> 


 明けて10月。朝からの苦痛を伴うリハビリを何とか凌いで終えた僕は、自室へと戻り、ベッドに横たわりながら、昨日もたらされた「予言」について思いを馳せていた。


 開け放たれた窓からは、心地よい涼しさの風がゆるやかに流れ込んできている。僕は昨日、外で思い切り感じたそれを、名残りのように感じて、さくらさんとの外出を思い出したりもしていた。さて。


……「予言3」は今日から二週間後の日付を指し示しているものの、「実現困難さ」と言うべき指標があったのなら、多分、最高難易度であろうと思われる。


 「うみまでドライブ」。ドライブっていうことはクルマで行くってことなんだろうけど、他ならぬ僕は、未だ体を動かすことままならない状態であり、さらにその状態に陥った原因というものが、己の運転ミスによる事故であるがゆえに、もう、これは諦めた方が手っ取り早そうな感じがする。


 例えあと二週間で必死でリハビリをして、手足が動かせるようになったとしよう。でもこんな脳に如何ともしがたいダメージを負っている人間に、誰が運転を許可する? 鋼鉄の凶器を振り回しながら社会に出ていくようなものだ。絶対に無理。


「……」


 まあ、「予言に逆らう」という行動を取るのも、今後の事を考えると、少し試しておきたいことかも知れない、と、僕は半ば負け惜しみのような感情を持ったまま、そんな考えに想いを馳せたりなんかして、でも「予言2」に従ったからこそ、さくらさんとの映画館+水族館デートが出来たんだし、出来ることなら「予言」通りに遂行したいよなあ、と、楽しかった昨日を思い出しては、しばし不気味な笑みを浮かべたりと、不安定な心の針がゆっさゆっさと揺れ動いたままなのであった。


「そのあとのこ」……この意味が特定できないままなのも、何かむずむずするような気持ち悪さを感じさせているわけで。


 「その後の事」? 「その後、残って」? まあどちらにしろ、その先に続く言葉のヒントが皆無なのだから、推察のしようもないのだけれど。


 かえすがえす、「自動書記」をきちんと見守っていなかった自分が悔やまれる。でもさくらさんの目もそばにあったことだし、あれがあの時点でのベストだったと思いたい。


 例えばメモパッドからペン先がもっと外れていた可能性だってあるはずだ。「10がつ14か」とか、「うみまでドライブ」のところが読み取れなかったとしたら……そもそも予言云々じゃあ無かったはずだ。


 という事は、と、僕の思考はまたしても堂々巡りのように舞い戻ってしまう。今のこの現状は、僕にまだ予言に沿うか沿わないか、それを選択させる余地があるということに他ならないのではないだろうか。


 もちろん、困難は伴う。でもそれを覆すほどの覚悟を持って成し遂げた時、僕には予想もつかないような、素晴らしい出来事が待っているのでないだろうか、と、楽観にもほどがある思考に、僕は翻弄されている。


―柏木さん……起きてらっしゃいますか?


 そんな、ぐるぐる廻らされている僕の頭に、心地の良い涼風が。さくらさん……今もこの「対話」は続けられている。何というか、会っていて散々喋ってはいても、その後、電話でまた話し込みたくなる衝動……あるよね。


 さくらさんの方は、この心が落ち着く「対話」を今まで通り続けてくれるようだし、僕にそれを拒む理由はないわけで。軽やかな響きを伴ったその声に、僕はしばし心を委ねる。


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