表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/63

#30:自問する


 今回の「予言」の語尾が中途半端なところで切られていたのは、どうやら左手で握ったペン先が、メモパッドの外にはみ出してしまったからのようだ。


「……」


 しながわ水族館、さくらさんが略すところの「しなすい」に到着し、チケットを買いに行って貰っている時に、その辺りの事を確認した。メモパッドからずれたと思われるペンで何か書かれた筆跡……というよりはインクの汚れのようなものが、車椅子のシートに残っていたわけで。もちろん、何て書いてあるかは、つるつるのビニール地なのでわからない。


「……」


 何てこった。二回目の「自動書記」の時は、特に何も意識しなくてもうまい事書けていたから、すっかり安心していた。油断していたよ。迂闊すぎる。


 現状は、「予言」は完璧に書かれたけれど、受け手の僕がそれを完全には把握できていない状態……これが何を引き起こすのか、それはわからないけど。


 ふと思ってしまった、馬鹿げた話かも知れないけど、「予言」に意思みたいなものがあったとしたら、そこに齟齬が生じないとも限らない。あ、いや、そこまで「予言」を神格化するつもりは無いけれど。だけど、この「予言」に沿って行動を起こした今回の結果として、さくらさんとの仲がより親密になったであろうことは否定できないわけで。


「……」


 待てよ。これを好機と見て、「予言に逆らうことをわざとやってみる」というのはどうだろう? 例えば、「10がつ14か」は、外に出ず、ずっと院内で過ごす、とか。そんな「予言」の意に反することをやった時、一体どんな事が起こるのか、確認したい気持ちは以前から抱えている。


 でも……でも、だ。「予言」を無視した、あるいは意図的に避けた結果、何か取り返しのつかないことが起こったら、まずいどころの騒ぎじゃない。


 記憶の多くを失った僕を、この「世界」にかろうじて繋ぎ留めているのは、まぎれもなく、さくらさんとの関係に他ならない。他の諸々はともかく、それだけは、はっきりと言い切ることが出来る。それがもし断ち切られてしまったら……? いや、考えたくもないけど、大袈裟に聞こえてしまうかも知れないけど、生きる目的、それそのものが失われてしまうのでは、ないだろうか……。

 

 先ほどの「予知夢」でいやというほど見せられた、僕とさくらさんとの充実した未来……そんなエサのようなものを、ちらつかせられているのだから、なおさらだ。


 僕はやはり、「予言」やら「予知夢」といった、尋常じゃないもの達の手によって、少しづつ、行動やら判断基準に、何らかのバイアスをかけられているのではないだろうか……


 何となく懐かしさを感じさせる佇まいの「しながわ水族館」の外観を眺めながら、考えても答えの出ない問題を前に、僕は、もやもやした気持ちのままで思考の狭間に佇んでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ