#26:告白する
「……びっくりしちゃった。恵一があんな必死な顔でお父さんに食ってかかるなんてっ」
「予知夢」だ。そのことの認識は出来る。しかし……その内容がいきなり度肝を抜かれるものであったわけで。
【……言ったことは本当だよ】
おいおい、随分余裕で喋れるようになってるじゃあないか。僕の声。いつも聞いている僕の声だ。でも、その口調やらそれに込められた感情やらは、何かやたらと真摯だ。や、やれるじゃないか、僕も。
住宅街、だろうか、街灯が照らす狭い路地を、僕はさくらさんと共に歩いているのだろうか。その姿が僕の視界の右側に見え隠れするところから、おそらく隣同士で、そして……手を繋いでいるのだと思う。
「……」
僕の目を、はにかんだような魅力的な微笑で、さくらさんは無言のまま、覗き込んでくる。今回着ているのは、ベージュというよりは、クリーム色のピーコート。首には緑色と黄色の線状の模様がある……何というかはわからないけど、長めのマフラーをぐるぐると巻いている。
季節は冬? ……いや、それよりも僕に向けられたその口調……そして「恵一」と自然に呼びかけていたよね? し、進展していると言っていい。僕とさくらさんの距離感は、この間の「予知夢」よりも確実に縮まっている……!!
【……僕はまだ一人前になれてはいないのかも知れないけれど、それでも君を想う気持ちは本当だよ。お父さんにも、必ずわかってもらえるはず】
うーん、これはもう結婚とか、その辺りの雰囲気感だよね……そして僕のこのイケメン感も相当なものがあるな……何か気恥ずかしい。自分に酔ってるとしか思えないよ。大丈夫かな、自分の事ながら。
「……私、恵一と出会えて良かった。ふふ、あんな出会い、そうは無いと思うけど」
紡ぎ出される言葉から、さくらさんの熱が伝わってくるようだ、僕の「意識」は、一歩引いたところから俯瞰しているかのような、ふわふわとした感じだけど。
【好きだ。ずっと。ずっと好きだ。これからも多分】
言った! 自分の事ながら、傍観者としての「僕」の胸にも、何か説明出来ないような熱いものが込み上げて来ていた。
「多分?」
いたずらっぽく、そう小首を傾げた、さくらさんの両肩を掴む僕の両手。
【……絶対に】
目を閉じつつ、にこりと微笑む、さくらさんの顔が間近に迫ってくる。しかし、その絶妙な瞬間に、無粋なキュルキュル音が訪れてきたわけで。
もう少し待って欲しかったな……と、幾ばくかの残念感の余韻を残しながらも、僕はこの「予知夢」の内容には満足しつつ、暗転の時を待つ。