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#20:想起する


「柏木さんっ」


 何度聞いても、耳に心地よく、そして心揺さぶられる声色だ。


 1Fのロビー中央のエレベーターから降りてきた僕を待っていてくれたのは、紺色のワンピースに、かっちりとしたベージュのトレンチコートを羽織った姿のさくらさんだったわけで。


 変わった組み合わせだなあと思いつつも、いやいや女性のファッションなんて分からないだろ、と思い返す。それにさくらさんの、表面上はクールなものの、その内面は柔らかい、といった感じを的確に表しているかのようで……というかまあ、ものすごく似合っていた。


 一点、頭に引っかかった既視感は、以前、昏倒した時に見た正体不明の「予知夢」の中でさくらさんが着ていた紺のワンピースと、おそらく同型のものなんじゃないかということ。


 白い丸襟と、同色のベルトも「夢」で見たものと同じような……ということは、あれが本当の「予知夢」だった場合、唐揚げ云々の話が、今日行われるということにもなるのだろうか……


 「予言」プラス「予知夢」というお得なセットに見せかけて、その実、困惑と混乱を引き起こさせているそれらの相互関係に、僕は今、真偽だの正体だのを断じることは出来ていない。


 現時点では、ある程度は「予言」に沿おうとそう考えているものの、「予知夢」の方はお手上げに近い。


 頭の中にある、「予知夢」にあったビジュアルは、完璧なまま保つことは難しく、どんどん曖昧になっていっている。それに加えて、現実のビジュアルが上書きされ続けていっているという事もあるわけで。


 例えば、「予知夢」で見たさくらさんの紺のワンピース、それと今、目の当たりにしているさくらさんの紺のワンピース。これらが完全に同一なものか、僕には確信が持てない。その辺り、完全な記憶というのはあり得ないのではと思う。


 それとは対照的に、「予言」は色褪せるということが無い分、正確なのだろうけど、それが具体的に示すものが何なのか、「言葉」という制限があるので、如何とも判断しづらいという欠点がある。どっちもどっちといったところだ。


 ともかく、記憶が……頭の中があやふやな今の僕にとっては、この記憶と引き換えに得たような「予言」と「予知夢」を活用してみるしかない。例えそれが予言でも予知夢でも無かったとしても、他ならぬ僕の脳が生みだしているものだ。僕に関することであることは間違いないはず、と思いたい。


「……13時5分の開演には、余裕を持って間に合うようにこんな早くに約束しちゃいましたけど……早すぎました?」


 にこりとしながらそう話しかけてくる、さくらさんの今日のメイクは、この間、院内で会った時より、少しばっちりめに決まっているようだった。目は心なしかぱっちりと、口許にはうっすらとピンクに近い紅が。うん、すごい魅力的だ。


 僕はうっとりと、そしてぼんやりとしてしまう自分の意識を無理やりに戻すと、ちょうどいいくらいじゃないですか、と極めて当たり障りのない返しをするくらいしか出来ない。


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