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#18:同意する


 やるべきことは全てやった。たぶん。


 後はさくらさんがこの提案に乗ってくれるかどうか。さっきは「同行します」と言ってはくれたけど、やはり医師の立場からはGOサインは出しにくいのでは……? そしてそもそも外出許可が出るのかもわからない。


 断られたらどうしよう、とままならない身体を、それでも車椅子の上で強張らせていた僕だったが、


-『ピネカ』なら、私も何度か行ったことあります。


 さくらさんの返答は、少し弾んだ、何か楽し気な感じだった。おお、と僕はその好感触に心の中で拳を握る。やはり「予言」は持っている。強大な、求心力を。


-小さめの場内で、スクリーンもコンパクトなんですけど、その分、没入感は大きな箱より上かな、なんて思ってるんですよね。


 これが「予言」の為せるわざなのか。恋愛ゲームで最適解を選んだ時のような、ぐいぐい感じる手ごたえに僕は内心、快哉を叫んでいた。


-小さい頃、お父さんに連れて行ってもらったな……私は『セーラームーン』の映画が観たかったんですけど、その当時『ピネカ』では新作はあまりやってなくて、リバイバル上映していた『スターウォーズ』の『ジェダイの復讐』を何故か一緒に観たことを覚えています。いきなりシリーズものの『3』で、しかも大して興味も無かったので、かなり序盤で寝ちゃいましたけど。そうだ、帰りにうな重を食べさせてもらったことも覚えてます。ふふ、ごめんなさい、私の思い出はどうでもいいですよね。


 どうでもよくはない。すごく心に響くエピソードだ、と僕は思った。


 そして「予言2」が、実現に向けて確実に突き進んでいるのを感じ、何というか怖さも含めた高揚感が胸の奥に沸き上がってきていた。


-来週の水曜日はいかがでしょう。私はお休みなんですけど、柏木さんに付き添って映画に出かけることは可能だと思います。『ピネカ』は車椅子でも観賞できるスペースがありましたし、ここからでしたら一時間もかかりませんですものね。何というか、最適かと思います。


 さくらさんはそう言ってくれるが、おいおい、まるでやらせが如く物事が進むじゃないかと、突っ込みを入れそうになるところを、僕は何とか押しとどめる。


 来週の水曜日はつまり「9がつ30にち」、予言が示したその日なわけで。予言って本当に……何なんだ。


「ぜ、ぜひお願いしますっ! も、もちろん、においに関しては充分注意しますので」


 上ずった声でそう勢い込んでしまった。もっと余裕を持てないのか、僕は。


 けど、その一方で僕は当日に行うべき「偽装工作」について思いを巡らせている。


 聴覚による記憶想起……本当は起こらないそれを、あたかも起きたかに思わせるトリックを、これから詰めていかなくてはならない。


 さくらさんを騙すことを、これからは、決意を持って行わなければいけない。それがどう運ぶのかは、今のところ全く読めはしないけれど。

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