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7 奇跡の理由

 王都騎士団の宿営地は王宮のすぐ隣だった。

 役所用の建物と宿泊施設のような建物が並んでいる一帯がそれだ。

 一帯の入り口に詰め所を見つける。守衛さんに事情を話した。

 守衛さんは慣れた風に対応してくれた。

 女神に戦闘系スキルを授かって王都騎士団に入るのは、この国の人が憧れる出世コースの典型だ。

 守衛さんの話によれば、新入団したものに故郷から縁者が会いに来ることはよくあるらしい。


「えーとハーゴ村のイアンさんね。どちらにしろまだ見習い期間だろうから、この時刻だと後二時間は座学か実戦の稽古を受けているよ」

「そうなんですか」


 そりゃそうか。守衛さんが建物を指した。


「あそこに見えるのが王都騎士団の軍学校だよ」


 確かに学校のように見えた。

 どうも地球でもイヴァでも学校は同じ様な建物になるらしい。


「じゃあ学校で聞いてきます」

「今は授業中だからね。二時間後にここに来てくれれば、イアンさんを呼んでおいてあげるよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 二時間の空き時間ができたのでクレアと一緒に服などを買ってから、公園の刈り込まれた草の上で座って休むことにした。

 クレアは服屋でカジノの制服から着換えたが、やはり短めのスカートに黒ストッキングは変わらないらしい。彼女のトレードマークかもしれない。

 柔らかい草の上に座って、彼女は片足を放り出して伸ばし、もう片足は膝を折って両腕で抱えていた。

 つい目が行ってしまう。

 クレアと目が合うと、彼女は草の上に両足を真っ直ぐに伸ばして太腿をポンポンと叩いた。


「なにそれ?」

「枕の許可……使っていいよ」


 確かに気持ちよさそうだなとも思ったけれど、僕は荷物を枕にして草の上に身を委ねた。


「あらら。勿体無いことするね」

「かもしれないな」


 青空に雲が流れるのをボーと眺めているとクレアが突然言った。


「ジンのカジノでの連勝って、その【セーブ】と【ロード】っていうスキルを利用したんだね」

「どうしてそう思う?」

「私以外のディーラーだって素人が連勝できるほど甘くはないよ。客を勝たせて盛り上げる時もあるけどそれは常連客だけかな」


 なるほど。一見の旅行客なんかは勝たせる理由はないだろう。


「相変わらずカンがいいな」

「カンで生きてたから。さらに言えば【セーブ】と【ロード】は一つだけ持っていても完全に死にスキルでしょ。どう?」

「っ!」

「奇跡のような確率ね」


 そうなのだ。

 いわゆるゼロ能力者呼ばわりされるスキルを授かる率はそれほど高くないと聞いている。

 僕はそれを二つも授かった。スキルを二つ授かることも稀……とされている。

 さらに【セーブ&ロード】を同時に……。

 一つずつ授かったら完全な死にスキル、まさにゼロ能力者だったのだ。


「クレアの言う通りだよ。ひょっとしたら【セーブ】だけ、あるいは【ロード】だけなら授かったなんて人もいるのかもしれない。どうして僕は……?」

「ギャンブルの世界でもたまにあるわ」

「え?」

「あり得ないほど確率の低い、それだけだったら何の意味のない事が、絡み合う運命のように奇跡をおこすことが」

「そ、そうなの?」

「うん。しかもその奇跡は起こる理由が決まっているの」

「理由! その理由ってなんだ?」


 仰向けに空を眺めていた僕をクレアが覗き込んで顔を近づけてくる。

 クレアの長い髪が僕の顔を包み込み、青空の世界から遮断して僕と彼女だけの世界を作った。

 何かの秘密を隠すように。


「奇跡の理由は誰かの……情熱」

「誰かの……情熱……」


 そうかもしれない。

 ギャンブルが最後は計算でなく情熱というクレアの理論を聞いた時は本当かなと思ったけど、奇跡の理由については誰かの情熱というのはなぜか信じられた。

 僕は【セーブ&ロード】以上の奇跡を体験したことがある。

 村がモンスターと魔族に襲われて殺される瞬間、僕は誰も知らない文明の世界に飛んだのだ。

 それはきっとゼロ能力者であるレイア義姉さんが僕を守ろうとする情熱に違いなかった。

 クレアの髪が離れていく。

 彼女の髪が作った二人だけの空間に青空が戻ってきた。


「残念だけどそろそろ時間ね」

「みたいだな」


◇◆◇◆◇


 スネイルが間抜けづらでクレアを指差す。


「おいいい! なんだその美しい人は?」

「どうも~クレアです。今のところジンの追っかけかな?」

「なんだああああ!? その追っかけって!」

「カジノで知り合ったんだけどどうしてかこうなっちゃったんだよ」


 スネイルは【全鑑定・上】スキルのおかげで入団試験が受けられることになった。

 イアンの軍学校の寮の部屋は大きくて一緒に住んでいたらしい。

 そんなこと良いのかと聞いたらスキルプレートを見せたらすぐに許可が降りたらしい。

 僕のスキルプレートでは降りない気がする。差別だ。


「ジン。盾、本当に本当にありがとうね」

「ああ、大事に……いや思いっきり使ってよ」


 イアンに友情の証を渡しているというのにスネイルがうるさい。


「なんで? どうして? なんでお前、そんな良い剣と盾を買えるほど金があんの? いやそれはいいけど、どこでこんな美人と知り合ったのさあああ?」

「だからカジノって言ったじゃないか」


 スネイルを無視してイアンと話す。


「ところでイアンはどこの騎士団に入るつもりなの?」


 王都騎士団というのは王都に存在する騎士団の総称で、正確には三つの騎士団に分かれている。

 近衛騎士団、防衛騎士団、そして辺境偵察団だ。

 近衛騎士団は王族の近衛や憲兵的な役割。防衛騎士団は人族の他国に対しての防衛戦力。辺境偵察団は魔族や他種族との戦い。

 そんな風に大まかに分類できる。


「もちろん辺境偵察団だよ」

「イアンならどこでも入れるんじゃないか? 近衛騎士団のほうが良いんじゃないか?」


 近衛騎士団は端的に言ってしまえば、もっとも危険が少なく、給料も待遇も良い。

 貴族の師弟はまず近衛騎士団に入る。

 イアンは【盾防御・極】スキルを授かったので見習い期間が終われば、騎士爵位を叙勲できる。

 下級貴族として近衛騎士団に入れる可能性はあるのだ。


 一方、辺境偵察団はその名前ほど安穏とした騎士団ではない。

 魔族やモンスターと前線で戦わされる。

 ハーゴ村のような辺境を守るためにも戦うし、時に魔族領にも踏み込む。

 正式名称は辺境偵察騎士団だが、誰もが騎士を省略した。実際に騎士爵はほとんど所属していない。


「三人と辺境偵察団に入ろうって言ったじゃないか?」

「でも給料も社会的ステータスも全然違うぜ」

「そんなの興味ないよ。ジンはどうするのさ?」

「冒険者ギルドか傭兵ギルドにでも入ろうかなと思ってるよ。【剣戦闘・上】をさらに磨いて……ハーゴ村を守れるようにってね」

「そっか。実はさ。ジンも軍学校に」

「ん?」


 イアンがそこまで話すと、一方的にクレアに話しかけて困らせていたスネイルが思い出したように叫んだ。


「そうだ! お前にこの話をしてやろうと思ってたんだよ。こいつを見てくれ」


 スネイルは僕になにかのチラシを見せつけた。


「武術大会?」

「一般公開される軍学校の生徒会主催の出し物さ。まだ学校に入れない俺に配られた」

「なんで? スネイルは入団試験もまだってことは軍学校にも入ってないだろ?」

「軍学校にはいって一ヶ月以内のルーキー同士の武術大会なんだけど。軍学校に入ってない奴も参加できるお祭りなんだよ。誰でも参加可能って書いてあるし、ステータスプレートで除かれることなんかないだろ?」

「そんなのに出てどうするのさ……」


 馬鹿馬鹿しい。

 外でモンスターでも狩ったほうがマシだよ。

 お金にもなるし剣戦闘スキルも上がりそうだ。


「ここに書いてある。外部からの参加者が優勝した場合は王都騎士団の入団を無条件で認める」


 なんだって!


「【剣戦闘・上】のお前ならひょっとして。わっ」


 僕はスネイルからチラシを奪う。


「大会はいつ? いや参加登録はいつまで?」

「大会は三日後。参加登録は実は今日までだ。だからお前を探したけどどこにいるかわからなかった」


 そりゃカジノと安宿だったからな。


「参加登録はどこで?」

「外部から参加登録も受け付けるために校庭に大会運営委員会が設置されてるらしい。参加するだろ?」

「もちろん!」

 

 ひょっとしたらハーゴ村を守る辺境偵察団に入れるかもしれない。

 イアンの案内で僕らは軍学校の校庭に急いだ。

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