4 自分の力とスキルに賭けろ!
ちょうど日が暮れる頃、カジノは見つかった。
入場料を200ダラルもとられる。仕方ないホテルの中にある城のような建物なのだ。
イヴァ世界の文明が中世レベルというのが嘘のような世界が広がっていた。
もちろんスロットマシーンといった機械的なものはないが、トランプ、サイコロ、ルーレットなどの様々なギャンブルに多くの人が興じていた。
内装も金色が目立ち、豪華さを演出している。
シャンデリアは落ちてきたら死にそうな大きさだ。怪我はするだろう。
セーブしておこうかと馬鹿らしいことを考えてしまって自嘲する。
「それにしてもまるで別世界だな」
他の客も皆いい服を来ていた。
今日はスキルの授与があったから、持ってきた中で一番良い服を着ているが、田舎ものがという目で見られてるかもしれない。
まあいい。どうせ後からもっと目立つだろう。
「100ダラルをチップにしてください」
「かしこまりました」
黒服に銀貨を一枚渡す。
布袋の中に銀貨は一枚しかなかったから、皆と村でモンスターを狩って得たあの一枚だろう。
レイアが家計のためと没収したフリをして僕に持たせてくれた一枚でもある。
縁起もいい。そして絶対に負けられない!
黄色のチップを1枚受け取った。
向かうギャンブルはルーレットだ。
ルーレットのベット台の前に立つ。軽く周囲の安全確認をして僕は【セーブ】のスキルを発動させた。
【フランシス王都、ホテルリンダカジノ内。セーブしました】
ルーレットは色々な賭け方ができる。
一般的な賭け方のなかに赤と黒を当てるものがある。
ほとんど二分の一の確率で、色を当てることができれば、賭けたチップと同量のチップを貰え、負ければ賭けたチップを失う。
ディーラーがルーレットに球を投入した。
僕はベット台の赤を示す場所に黄色のチップを一枚置いた。
◇◆◇◆◇
「赤」
赤の場所に賭けたチップが倍になって返ってくる。
僕の勝ちぶりにギャラリーがざわめきだした。
「なんだ。あのガキは?」
「勝ったら勝った分だけ全部賭けてもう5連勝か?」
「田舎もんみたいなナリをしてるのに」
「少しは緊張しそうなもんだけな……どんな神経してやがる」
最初は緊張してたけど、もう何度もセーブとロードを繰り返している。そりゃ平然となる。
けれど予想通りというか、やはり目立ってしまった。
僕はルーレットで一枚のチップを5連勝で倍々で増やしていった。
結果32枚の黄色のチップが積まれていた。つまり3200ダラルだ。
ギースさんの店の盾は2500ダラルにしてくれるだろうからもう余裕を持って買える。
僕はカジノから出ようと、その場を背にして離れようとした。
突然、澄んだ声が聞こえる。
「お客様、最後にもう一勝負していきませんか?」
「え?」
今までディーラーが話しかけてきたことなどなかったのに。
振り向くとディーラーが初老の男性からスラリとした長身の美人に変わっていた。
レイアは美人でもかわいらしい暖かさがある。
しかし、このディーラーは美人すぎて冷たさまで感じさせた。
「いや僕はもう帰ろうとしてたところで……」
新しいディーラーに帰る意志を伝える言葉はギャラリーの歓声にかき消された。
「おい! クイーンだぞ!」
「マジでクイーンか?」
「間違いないクイーンだ!」
ギャラリーが口々にクイーンと言っている。
クイーン?
僕は近くにいた金持ちそうなオジサンとその奥さんだろう若い女性に聞く。
オジサンが教えてくれた。
「クイーンって誰ですか?」
「知らないのか坊主?」
「えぇ」
「クイーンってのは勝ちを重ねた客の前に現れる伝説のディーラーさ」
なるほど。つまり勝ちすぎた客を倒す店側からの刺客か。
「けど坊主は5連勝って言っても、最初は黄色チップ一枚からだから……えっと3200ダラルの勝ちか? クイーンが出てくるほど店側は負担になってないはずなんだけどな」
オジサンの発言に若い奥さんも同意してくれた。
「そうよ。クイーンは【ギャンブル・極】って話よ。ボウヤ止めたほうがいいわよ」
なんだって? 俄然興味が湧いてきた。
ルーレットというギャンブルでその専門スキルである【ギャンブル・極】を持つ刺客に……僕の【セーブ&ロード】は果たして通じるのか?
いや通じるかじゃない! 【セーブ&ロード】は専門分野の【極】スキル相手にも勝ちえることを証明するんだ!
――――この勝負は僕のスキルの試金石になる!
けれど一つ疑問がある。もし僕が受けないで帰ると言ったらどうするつもりなのだろうか。
それはすぐに解消された。クイーンさんと呼ばれるクールな女性がニッコリと笑顔に作る。
作った笑顔とわかっていても艶めかしい。そしてどこか妙な迫力があった。
「もしも今あるチップをもう一度賭けてお客様が勝たれましたら……私を一晩自由にできるチップもお支払いいたします」
その瞬間ギャラリーがざわめき出す。
「うおおおおおおおおお! いつものクイーンだぜ」
「坊主! こんなチャンスはねえぞ~」
「ちょっとボウヤやめときなさい。気持ちはわかるけど乗せられちゃダメよ」
なるほどね。今までのルーレットでは平然としていた僕の顔に汗が流れた。
おそらくクイーンさんの心理戦は既にはじまっているのだ。
「一晩自由にできるっていうのは言葉のアヤじゃないですよね?」
あえて生々しく言ったのはオマケが欲しいからじゃない。
心で彼女に打ち負けないためだ。
「えぇ。もちろんでございます。もしお客様が勝たれましたら、いやと言われても受け取っていただきますよ」
さきほどの妙な迫力の原因はこれか。
彼女の笑いは完全に既に戦う戦士のそれだった。
勝敗がわからずとも引けない戦いもある。
若い奥さんは僕を心底、心配したように話しかけてきた。
「やめなさいよ。あの女に丸裸にされた人もいるんだから。相手は専門分野スキルの【極】なのよ。キミのような若い子がそんな勝負を」
僕は若い奥さんの言葉を遮った。
「どんなに凄いスキルを持っていたって自分を信じることができなくちゃ勝つことは……いや戦うことすらできないんですよ」
「え?」
そうだ。僕はゼロ能力者と言われた【セーブ&ロード】でいつか魔族との戦争に勝つ!
そのために今、自分の力とスキルを信じて……賭けるんだ!