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37 英雄ジン

 赤風の男を殺ったと確信した。

 敵が目を見開く。すると僕の体が硬直してしまった。


「うっ」


 これは赤風の奥義の一つで殺気を対象にぶつけ、時間にして瞬くほどだが、体を硬直させる技だ。

 達人同士の戦いではコンマ1秒ほどの遅れが命取りになる。


「赤風を舐めるなッ」


 僕の頬を削る猛烈な突きを辛うじて躱して剣で受ける。


「馬鹿な!?」


 こちらも一度は確実に殺ったと思ったが、向こうも確実に殺ったと思ったらしい。

 僕は赤剣老主からこの技を見ていたのでなんとか凌ぐことが出来た。

 しかし、鍔迫り合いの最中に蹴りを喰らい後ろに僕は吹っ飛んだ。


「ジン! ぐわ!」


 加勢しようとしたマチルダ先生も蹴り飛ばされる。


「わからんが、そのキチガイ女は姫ではなかろう。こちらの女だけ貰っていくぞ」


 赤風の男はサラを背負って地下通路の向こうに走っていった。


「お前の技、覚えたぞ! 次は必ず!」




【フランシス王宮、大ホール。ロードしました】




 僕は王宮の大ホールに戻っていた。目の前にはさらわれたサラがいる。

 確か状況は……。ケルビンと踊ってみてはいいのではと僕はサラに進めたのだ。

 そして彼女はケルビンと踊ってもし気まずくなったらと逡巡している。

 僕はもう確信している。


「ケルビン王子はサラ様を愛してますよ」

「え? いや、そんな……彼はオリヴィアを……」

「かつてはそうだったかもしれない。けど王子はずっと前に貴方の気持ちに気がついてそれに答えようとしています」


 もし、今、オリヴィアが生きていたとしてもケルビンはそれを喜んだ上で、今はサラを選ぶだろう。

 サラがさらわれた時の王子の鬼気迫る様子を見た。 

 だから二人の相思相愛は間違いないと思っている。


「ありがとう。ジン様。私も頑張ってみるね」


 前回、サラはもしケルビンと気まずくなったら僕に嫁にもらってくれるかとふざけたが、今回はそれは無かった。

 ケイが目を白黒させて僕を見る。


「お、驚いたな。ジンは恋愛相談なんかするんだ。しかも大貴族相手に」

「今はそんな場合じゃない」


 僕はケルビンの従者に話す。

 ロイドに言っても信じてもらえないと思ったからだ。

 ケルビンの名前を使ってフランシスの警備にいえばなんとかなるだろう。


「わかった。フランシスの警備にも話が通じるものがいる。君はケルビン様に」

「ああ」


 ケルビンもマチルダ先生がダンスから戻ってくる。


「楽しかった~」

「マチルダ嬢に喜んで貰えてよかった」


 僕はケルビンの傍に寄って耳打ちした。


「サラ様がケルビン様と踊ってもよい……いや、踊りたいと」


 ケルビンが地球で見たホラー映画のような急角度で僕に首を向けた。


「誠か?」

「事実ですけど、より重要な話が。赤風教が来てるでしょう」

「ほう。お前も気がついたか。なにが狙いか知らんが返り討ちにしてやるぞ」

「狙いは今、王子が踊ったマチルダ先生と、これから踊るサラ様です!」

「な、なんだと。なぜ?」

「詳しいことは後ほど話しますが、とりあえずサラ様がお待ちですから」

「お、おう」


 ケルビンがロボットのような歩きでサラのほうに行く。

 ケルビンが口にする前にサラが言った。


「マチルダ様と踊ってくださったように私とも踊ってくれませんか?」


 二人のダンスは僕やマチルダ先生と踊っている時とは比べ物にならないほど優美だった。

 サラを守れと言いたかったが、狙われてると伝えればケルビンには十分だろう。


「あ~ああやって踊ればよったのか~」

「ボクも踊ってみたいなあ」


 マチルダ先生とケイが感想を漏らす。

 僕は曲が終わるまでに色々と準備しなくてはならなかった。

 

◆◆◆


 段々と会場での演奏の音が小さくなっていく。

 それに合わせてケルビンとサラがゆっくりとステップを小さくしていって止めた。


「あ、あ~ぁ」


 マチルダ先生かケイかどちらかわからないが、残念そうな声を出す。

 二人が僕らの方に戻ってくる。サラは少し汗をかいているようだった。

 ケルビンに話しかけた。


「気がついてますか?」

「ああ、気がついている。サラ俺の傍から離れるな」


 サラが不安そうに聞いた。


「ど、どうしたの? ケルビン」

 

 僕とケルビンは斜め上を見る。

 目線は高い高い大ホールの天井の大きなシャンデリアだった。

 黒い点がポツポツとついている。

 虫ではない。赤風教徒だ。

 ロイド達も気がついたようだ。


「貴様ら赤風教か?」

「いかにも招待状が来なかったゆえにこのような参上失礼!」


 だが、今のロイドは剣を求めてこない。

 ケルビンの従者に言って帯剣させたのだ。

 ロード前はロイドは王族も参加するということで丸腰で夜会に参加した。

 その不利を突かれて、ライトニングスピアのパーシヴァルも殺られてしまった。

 口上を述べたリーダー格らしき男はやはり僕が地下道で相対した男だった。

 ケルビンはそう言うと大ホールの天井にぶら下がる赤風教徒の高さまで飛び上がり、早くも一人の胸を拳でぶち抜いていた。

 死体とともにケルビンがまた地に降りる。


「招待料はお前たちの命になるが、構わんか?」


 だが赤風教のリーダーはこともなげにいった。


「私も姫と踊りたいだけなのに命をとられてはかなわん。しからば姫を貰い受けることにしよう」


 まさか会場の女性をさらう気かと思った刹那、リーダー格の手から黒い球がバラバラと複数投げられた。 


――チュドッ


 眩しい閃光が走った後に灰色の煙が広がる。

 だが落ち着いたロイドの声が響き渡った。


「風魔法部隊!」


 そこ声と同時に会場に風魔法が吹き抜ける。

 視界を奪った煙はあっという間に流され、ホールの地に赤風教徒が降りていた。

 ロイドの剣、パーシヴァルの槍が唸る。

 だが、それより激しかったのが、サラの周りにいた赤風教徒に襲いかかったケルビンの拳だ。

 一瞬にして数人の胸板をぶち抜く。

 そしてマチルダ先生を守る僕の前にはリーダー格の男が来た。

 殺気を当てて硬直の隙を突く技。

 この技の弱点。それが来ると知って待ち構える相手には効果がないことだ。

 僕はカウンターで相手の心臓を突く。


「ぐわっ!」


 力量さ故か狙いは少し外れたが、間違いなく肺腑を貫いた。


「だから言ったろう? 技を覚えたって」

「小僧なにを言っている……?」


 赤風の男は胸に僕の剣を立てて絶命した。

 夜会の会場は騒然となって、貴人を守れと、赤風の残党がいないかと、兵士で大混乱になった。


◆◆◆


 5日後、王子はビーストランドに帰る日になった。

 ケルビンは、一度帰ってから正式にサラを貰うと言っていた。

 そしてフランシス王家が主催する国賓の王子を送るための様々な式典とともに僕も式を受けることになった。

 先日の赤風強襲を完璧に防いだ功労者として勲章を授与することになったのだ。

 どうやらケルビンとサラの実家であるエルドア公爵が働きかけてくれたらしい。

 僕はその式で自国の国王の顔をはじめてみた。

 神経質そうな人だったが、尚武の心があるのか僕に勲章を渡す時は微笑んでくれた。


「ジンか。このような若い英雄がいるとは我がフランシスは明るい!」

「え、英雄? 勿体無いお言葉です」

「なにを言う。同盟国の王子の会を立派に不届き者から守った。英雄と言わずになんという」


 列席した武官や大臣も口々に僕を英雄と言った。

 ロイドを除いて。

 式典が終わった後、これから帰るケルビンの部屋に行く。

 サラもいた。


「おお! 英雄ジンよ!」

「やめてくださいよ。それ」

「はっはっは! しかし、友がいなくなると寂しくなるな」

「どうせ、すぐサラさんを迎えに来るんでしょう?」


 ケルビンとサラが赤くなる。

 サラも僕に挨拶した。


「ふふふ。なにもかも英雄のジン様のおかげです」

「サラ様まで。邪魔しちゃ悪いんで僕はこれで!」

「うむ。また会おう。ビーストランドに遊びに来いよ。なんでも一つ願いを聞くっていうのも忘れていないぞ」

「はい!」


 ケルビンは帰っていった。

 僕は彼の護衛をしたことで、一部の貴族や軍人から注目を集めることになった。

新作『娘達をS級に育てたから引退するおっさん、伝説の聖剣を抜いてしまう』もよろしくお願いします。

次回の更新は来週末かと思います。

間に一回ぐらい更新するかも。

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