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35 赤風強襲

 まずい爆薬か!?

 そう思った時には黒い球が地面に触れるか触れないかまで落ちていた。

 ケルビンは既に自分の身体を盾にサラを守っている。

 僕もケイとマチルダ先生の前に立ちはだかった。


――チュドッ


 やはり眩しい閃光が走る。

 ところがその後に来たのは衝撃波でも爆風でも無かった。

 灰色の煙だった。

 悲鳴に混じって斜め前方から冷静な声が聞こえた。


「煙玉!?」


 ケルビンの声だ。

 不味い!

 複数の男が失われた視界をものともせずに高速で蠢いている気配がする。

 視界が全く失われている状況で剣を抜き、ケルビンの方向に刺突をした。

 ズッという手応えを感じる。

 煙が少しづつ晴れていく。

 僕の剣は黒衣の男の左胸を深々と貫いている。

 この刺突は老手から伝授された血風教の奥義なのだ。視界を確保できない時に真価を発揮する。

 殺気を持つ標的の心臓の音を感じて(老主に言わせれば命の音を感じて)刺突を繰り出す剣技なのだ。

 左右、後ろからの攻撃でも、闇夜でも関係なく、敵の命を断つ奥義〝血風心殺剣〟。

 ケルビンもタキシードの胸部を避けさせて、厚い胸板と胸毛を見せていたから無事だったようだ。

 それどころか彼も新たに血風教徒を一人転がしていた。


「無事でしたか?」


 僕がケルビンに駆け寄り、声をかける。

 ケルビンの護衛なので当然だった。


「無事ではない」

「はい」

「サラがいない」


 あっ。と思う。

 赤風教の狙いははじめから姫だったのだ。

 姫と言われて気になった人がいた。僕はケイのほうに慌てて振り向く。

 いた! しかしケイは震えていた。


「ジ、ジン……マチルダ先生は?」


 マチルダ先生? そういえばいない。

 しかし、サラならわかるが、なぜマチルダ先生が?


「くそっ! パーシヴァルがやられた! 誰か回復魔法士を!」


 ロイドの叫びが聞こえる。

 ケルビンがロイドに近寄って冷静に語りかけた。


「ロイド卿、赤風の一部は煙に紛れてツワモノを狙ったようだな。だが一部は俺の……〝俺の姫〟を連れ去った」

「姫だと?」


 なるほど。僕はケルビンの話を聞いて事情が見えてきた。

 おそらく赤風教徒はケルビン王子と踊った女性をさらったのだ。


「サラとマチルダ嬢がさらわれた」

「な、なんだと!? マチルダがなぜ!?」


 ケルビンはロイドの疑問に答えずに言った。


「黒衣の連中を追わせろ。街の壁は閉鎖しているか?」

「既に追わせている。もちろん閉鎖している」

「私も追おう!」

「ケルビン殿下! なにをいってるっ!」


 ロイドが怒鳴った。当たり前だ。

 同盟国の王子の命を守ることが、ロイドにとって目下最大の仕事だ。

 そんな理屈がケルビンに通じるわけがない。

 僕だってそうだ。


「フランシスの戦士を一人借りていくぞ」


 ケルビンが走り出した。

 僕もそれに全力でついていく。


「王子殿下っ!」


 ロイドの叫びが後ろで聞こえる。

 ケルビンがロイドに冷静に語っていたように見せていたのは怒りを隠すためだったようだ。

 走りながらケルビンに聞く。


「追えるのですか?」

「追える!」

「どうやって?」

「俺の鼻とビーストランドの馬がある」


 なんとなくは分かったが、よくはわからない。

 細かく説明してくれた。


「俺の嗅覚は人間の数千倍。他人の匂いは追えなくても、嗅ぎ馴れた俺の血の匂いのついた剣を持つものはわかる」


 ケルビンは走りながら自分の胸の血を拭って舐めた。凶暴な笑いをする。


「しかし、敵がバラバラに逃げていたら?」

「俺の胸を傷つけたのはリーダー格のあの男で間違いない。あわよくば俺の命を狙っていた」


 なるほど。しかし、ビーストランドの馬というのはわからない。


「不埒者が俺を遠くから監視していたのは昼間遠乗りをしていた時から気がついていた」


 やはりそうか。それで夜会にも剣を持っていけと言ったんだな。


「散られたら逃げられるゆえに仕掛けなかったが、あの時に仕掛けていればよかった。俺のミスだ」


 王宮の廊下を走って勝手口から外を出た。

 目の前に厩舎がある。


「ビーストランドの馬を繋いである。お前が昼間乗った馬もあるはずだ」

「なるほど。しかし……」

「ビーストランドの馬は夜も乗れる。夜も走らせているからな」


 そういうことか。

 僕は昼間乗った葦毛の馬に乗った。


「俺について来い」

「はい!」

「はっ」


 ケルビンが馬を走らす。


「一人は手練だ。他の奴らもお前と同格だ。気をつけろよ」 

「そうは言ってもサラとマチルダ先生が心配です。急がないと」


 なにせ相手は奪い、犯し、殺すを教義にしている赤風教だ。


「うむ。まだ逃げているはずだ。手は出せてないだろう」


 セーブもしているのでロードをしても良いが、ロードしたところで会場に赤風が入られていることには違いない。

 ここは状況を〝見ておく〟ことにした。

 ケルビンと馬で闇夜の街を疾走して郊外の方に向かう。

 だが、知る限りこちらのほうには王都の壁から出る門はないのではないかと思う。

 軍学校で都市防衛の授業もあってそこで学んでいた。

 登って抜けるつもりだろうか?

 赤風のリーダーだけなら警備兵も斬って登ることもできるかもしれないが、サラとマチルダを担いでは難しそうだ。


「こちらであってますか?」

「間違いない。もう足音も聞こえる」

「足音?」

「獣人は人間より耳も良い。1、2、3、4……5人だ。そのうち2人は重いものを担いでいる足音だ」



 ケルビンの言うことは間違い無さそうだった。

書籍第一巻が発売中です。

よろしくお願いします!

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