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34 責任を取って

「だから彼女じゃないんですって」

「でもそういう趣味なんですね」


 身体から力が抜けそうになる。

 腰に当てられたサラの手に力が入る。


「冗談ですよ。男の子なんでしょう。でも男の子はオリヴィアに似てるわね」

「なんだって? オリヴィアって誰ですか?」


 流石にここまでオリヴィアと言われるとこれはもう確認せざるを得ない。

 王子はケイとオリヴィアを間違えて、今はサラがケイとオリヴィアが似ている。

 そうでなくてもケイは王家という噂がある。


「オリヴィアはフランシス王家の令嬢、つまり王女だったの……」


 なら赤風教の男がいうようにケイは王家の落胤なのだろうか。


「でも彼女は死んでしまったの」

「え? 死んだ? ケイがオリヴィアでないのでは?」


 二人で踊りながらケイを見る。


「よく似ているけど別人ですね。彼女は幼い時に死んだからね」


 サラの話によれば、オリヴィアはフランシス王国の現王の娘でケルビンと婚約していたらしい。


「ビーストランドとの政略結婚ですね。でも二人は私の目から見ても仲睦まじかったわ。ケルビンや私も幼年期にこの王宮によく来ていていたの」

「オリヴィア様はどうして亡くなられたんですか? ひょっとして……殺された?」

「まさか。ただの病気ですよ」


 サラが寂しそうな顔をする。

 ひょっとしたらオリヴィアの死を吹っ切れていないのはケルビンではなく彼女かもしれない。


「そういえば……ケルビン様がサラ様と踊りたいと」

「彼はオリヴィアがまだ好きだと思うの」

「それは否定しないけど再開したサラ様に魅力を感じたことは嘘ではないのでは」


 僕はつい自分よりも遥かに身分が高い人に思ったことを言ってしまった。


「そう……かもしれないですね。彼と踊ってみようかしら?」

「それがいいですよ」

「勇気が出たらそうしてみますね」


 サラがダンスの足を遅くしていく。

 彼女が僕の腰から手を話したと同時に僕も彼女の腰から手を話した。


「はじめまして。わたくしはメル・エルドアの四女のサラと申します。ジン様のお友達ですよね」


 サラはケイとマチルダ先生の傍により、片足を斜め後ろの内側にして、もう一方の足の膝を少し曲げ、背筋は伸ばしたまま腰を少しだけ落とす、貴族の令嬢風の挨拶をした。

 ケイとマチルダ先生はぎこちない挨拶をする。

 サラはエルドア公爵家という大貴族の令嬢なのだ。緊張しているのだろう。


「そんなに固くならないでください。私そんなに気難しくありませんから。ねっジン様」


 サラが僕の腕を掴んだ。


「えぇ……そうですね」


 僅かな時間ではあったが、確かに彼女が気さくな人柄であることはわかった。

 ただ、気さくであることはケイとマチルダ先生のジト目の解消にはならなかった。

 四人で少し話す。

 いつの間にか僕を除く三人で話していた。


「ボクはジンみたいな剣馬鹿は見たことがないですよ」

「剣聖と言われている兄さんも凄いけどジン君も負けず劣らずかも」

「うふふ。子供の頃のケルビンにそっくりなんですね」


 かしましいという言葉がピッタリだなと思う。

 もっともケイは男だけど。

 盛り上がる三人の中に一人だけ入れない僕が苦笑していると、ズカズカと大きな足音を立てて長身の男がやってきた。


「おお。来てくれたか」


 ケイがビクッとして、やや僕の身体の後ろに隠れた。


「申し訳ない。パレードの時にも無礼してしまったというのに」


 ケルビンがケイに深々と頭を下げる。

 辺りが何事かとざわついた。

 当然だろう。国賓が庶民に深々と頭を下げた構図だ。


「ちょ、ちょっと驚いただけで気にしていません」

「そうか」


 ケイは何とか獣人の怖さを抑えられているようだ。

 ケルビンにぎこちない笑顔で答えていた。


「こちらのほうこそ失礼しました」

「はっはっは。男ならもう少しビシッとしないとな」


 ケルビンも気さくさではサラに全く負けていない。

 すぐに三人の会話に溶け込んでいった。

 どうやら置いてきぼりは僕だけらしい。

 気がつくと話は僕とサラが踊った話になっていた。

 ケルビンが僕に見せる目つきが獣のようになっていることに気がつく。

 僕は身を縮めた。


「アナタも踊ってこればいいじゃない」


 サラの意見にケルビンが顔に喜色を浮かべる。


「その方と」


 サラがマチルダ先生のほうを向く。


「わ、私ですか? 私は踊ったことなんて」

「ジン様もすぐ踊れるようになりましたよ」


 僕はケルビンが肩を落としたのも見逃さなかったが、彼はすぐに紳士然とした態度を作ってマチルダを誘った。


「で、では……」

「大丈夫です。音楽に合わせて」


 ケルビンとマチルダ先生が踊り出す。

 マチルダ先生は僕の一回目(・・・)よりも遥かに上手かった。

 一応サマになっている。

 その様子を僕とサラ、ケイで眺める。


「楽しそうね。ケルビン」


 マチルダ先生も少し楽しそうだった。暗黙のルールも知らないのだろう。

 ロイドも貴族の女性に話しかけられながら様子を見ていた。

 僕はサラの横顔を見ながらつい言ってしまった。


「ケルビン様と踊ってみたら?」

「え? でも……。気まずくなったら嫌だし」


 それについては大丈夫だ。


【フランシス王宮、大ホール。セーブしました】


「大丈夫。気まずくなったら僕が必ずなんとかします」

「できるの?」

「えぇ。自信ありますよ」


 僕が力強く言うとサラは笑った。


「ふふふ。できなかったら責任を取って私をお嫁に貰ってくださいますか?」

「ははは。えぇ。いいですよ」


 きっとロードは使わなくても大丈夫だろう。

 ケイが目を白黒させてから僕を睨む。

 二人のためなんだよと言ってもわからないだろう。

 ケルビンもマチルダ先生も楽しそうではあったが、すぐに戻ってきた。


「楽しかった~」

「マチルダ嬢に喜んで貰えてよかった」


 僕はケルビンの傍に寄って耳打ちした。


「サラ様がケルビン様と踊ってもよい……いや、踊りたいと」


 ケルビンが地球で見たホラー映画のような急角度で僕に首を向けた。


「誠か?」

「え、えぇ、そう言ってましたよ」


 ケルビンがロボットのような歩きでサラのほうに行く。


「サ、サラ、俺と踊ってくれまいか?」


 サラの目が僕にあう。小さく頷いた。


「喜んで」


 ケルビンとサラは二人のダンスの技量に似つかわしくない小さなステップをぎこちなく踏み始める。

 それもすぐに曲に合わせて段々と大きくスムーズになっていく。


「あ~ああやって踊ればよったのか~」

「ボクも踊ってみたいなあ」


 マチルダ先生とケイが感想を漏らす。

 二人のダンスは素人の僕から見てもさらにノッて(・・・)いた。

 

「凄い。優雅というか綺麗というか」

「うん」


 会場の別の場所でそれぞれ夜会を楽しんでいる貴族達も二人のダンスの技術に感嘆の声を上げていた。

 僕には二人の気持ちがダンスを優美に見せているような気がした。


「私と踊っていたよりもケルビン様はずっと楽しそう」


 正直なところ僕もマチルダ先生の意見に同意だ。

 だが、音楽隊はここで曲を変えるようだった。

 段々と会場での演奏の音が小さくなっていく。

 それに合わせて二人もゆっくりとステップを小さくしていって止めた。


「あ、あ~ぁ」


 マチルダ先生かケイかどちらかわからないが、残念そうな声を出す。

 これも同意だった。

 二人が僕らの方に戻ってくる。サラは少し汗をかいているようだった。

 僕が小声で話しかける。


「責任取らないで大丈夫そうですか?」

「まだ、わかりませんよ。ふふふ」


 僕らは五人でダンスのことについて楽しく会話していた。

 ところが急にケルビンが強い殺気を出して笑いはじめる。先ほどまで笑みとは違う。

 女性陣はサラやケイは震え上がったかもしれない。


「やっとおいでなすったか」

「一体何が?」

 

 僕が聞くとケルビンは斜め上を見る。

 目線を追うと高い高い大ホールの天井やシャンデリアに黒い点がポツポツとついている。

 最初は虫かと思ったが。


「まさか……」

「やっておいでなすったぞ。真似かざれる客がな」


 ケルビンがやや腰を落として両の拳を腰に構えた時には、ロイド達も気がついたようで叫んでいた。


「黒い外套! 赤風教か?」

「いかにも招待状が来なかったゆえにこのような参上失礼!」

「ジン! 剣を貸せ!」


 ロイドは王族も参加するということで丸腰で夜会に参加している。

 だから僕に剣を寄越せと言っているようだ。

 渡すべきか迷っているとケルビンが僕の肩に手をのせた。


「渡そうなんて考えてないだろうな? 二人でやるぞ」


 なんだって? 赤風教徒は8人いていずれも手練れのように見える。

 口上を述べたリーダー格らしき男は確実に僕よりも強く感じられた。


「姫を守るのが戦士、いや男の勤めだろう」


 ケルビンはそう言うと大ホールの天井にぶら下がる赤風教徒の高さまで飛び上がり、早くも一人の胸を拳でぶち抜いていた。

 死体とともにケルビンがまた地に降りる。


「招待料はお前たちの命になるが、構わんか?」


 この会場にいる戦士の多くがケルビンの強さにゾッとしたことだろう。

 いや戦士でないものは尚更か。味方である僕がそうだったのだ。

 だが赤風教のリーダーはこともなげにいった。


「私も姫と踊りたいだけなのに命をとられてはかなわん。しからば姫を貰い受けることにしよう」


 まさか会場の女性をさらう気かと思った刹那、リーダー格の手から黒い球がバラバラと複数投げられた。

書籍第一巻発売中です。

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[気になる点] 踊った後に2人が各々手を話したとありますが離したでは?手を話す
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