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28 獣人の王子

書籍化することになりました。

第一巻は10月10日発売予定です。

詳しくは活動報告にて。

剣伝録いわく、剣のスキルの最終段階まで到達すれば神の力を得る。

いや剣のスキルに限らず、イヴァの世界ではどのスキルも神に至るというような伝説が残されている。

伝説が真実ならば圧倒的な力で地球を滅ぼした天使も斬れるかもしれない。


「だから最強の剣士になりたい……いやなるよ」


異世界にいたなどという僕の話を二人は真面目に聞いてくれた。


「は~突拍子のない話だね。でもわかったよ!」


ケイが急に言い出した。


「わかった? なにが?」

「ジンが強くなりたいって話が」

「あ、あぁ」


そういえば、もともと強くなりたいという理由について話していたのだ。


「うん。私も少しホッとした。ただ意味もなく強くなろうとしてるんじゃないかって」

「クレアまでそんな」


まあ確かに単純に剣が好きってこともあるけど。


「心配するわよ。だって赤剣老主まで尊敬するようなこと言い出すんだもん」


そりゃ心配させるかもしれない。


「まあその天使とやらがイヴァに攻めてきても大丈夫なようにねってことだね」


ケイも腕を組ん頷く。

そんな話は科学万能の地球で言ったらとても信じてもらえないが、イヴァの世界には神の伝説はともかく、英雄伝説は数年単位の過去に残っている。

だからあっさり受け入れられるのだろう。


「とりあえずテイルのように魔法と剣の融合を目指すってことだね」

「うん。龍ぐらい倒せるかもしれないしな」


まさに魔法と剣を融合させたテイルは街を消し去ったドラゴンを討ったという伝説が残っていた。


「よし! ならいつも剣を教わってるから、ボクが魔法の先輩としてジンに色々教えてあげるからね」

「え~いいよ~」


ケイはそう言うけど、一度でもできれば僕には最強の努力チートであるセーブ&ロードを使える。


「回復魔法は使えても攻撃魔法はまだでしょ」

「まあ……そうか」


確かに攻撃魔法は感覚を覚えるためにセーブしてからもう一度くらってもいいかもしれない。

それにケイが命を狙われているという疑いもまだある。

一緒にいたほうがいいかもしれない。


「じゃあケイ頼むよ」

「いいよ。明日からね。ちゃんとケイ先生っていうんだよ」

「はいはい。ケイ先生」

「うふふ。よろしい」


僕が剣を教えた時は先生って呼ばれただろうか。


「ねえねえ。ジン、ケイさん」

「ん?」

「軍人さんは訓練することが重要なんだと思うけど明日は休まない?」


急にクレアが休まないかと提案した。

明日何かあるのだろうか。


「パン屋で聞いたんだけど明日はお祭りがあるらしいよ」

「なんのお祭り? 祝日だったっけ?」


フランシス王国でも祝日は年に何回かある。

そんな日はやはり地球と同じようにお祭りが行われることがあるのだ。

しかし、明日はなにもなかったような気がする。


「明日はビーストランドの第二王子が来るらしいよ。ビーストランドの建国祭みたい」

「あ~なるほど」

「パン屋も朝だけの営業みたい」


人類の盟主国でもあるフランシスはビーストランドという獣人の国と同盟を結んでいた。

僕は田舎での庶民でフランシス王室がどうなっているかは詳しくはわからないが、ビーストランドの王室と政略結婚をしていることぐらいは知っていた。


「国賓待遇するんだって。中央通りでは歓迎パレードなんかもあるらしい」


獣人は人間とは違い格闘スキルという戦闘に向いたスキルを誰もが持っている。

そのため戦闘能力が高い戦士が多いことで有名だ。


「面白そうだな。三人で行ってみようか」

「なんか第二王子ってのは格闘スキルの世界では有名人らしいよ。【格闘・神】レベルに近いんだとか」


それは凄い。剣戦闘でいうなら赤剣老主もそう言われている。


「増々見てみたいね。じゃあ皆で一緒に行こう」

「ボ、ボクも?」

「え? なんだよ。ケイはいかないのか?」

「実は獣人が苦手でさ」


イヴァの世界は娯楽が少ない。三人でパレードを見ようと思ったが、ケイは獣人が苦手という。


「そうなの? 理由あるの?」

「うーん。別に理由はないけどなんかちょっと怖いんだ」


獣人は同盟関係なのでここ王都ならたまに見かける。

獣のような耳とか尻尾があって瞳も少しだけ獣っぽいが、それ以外の見た目は人間だ。

まああまり聞いたことはないが、怖いという人もいるかもしれない。

実際に数百年前は戦争をしたこともあった。


「ジンとクレアさん二人で行ってきなよ。ボクはここにいるからさ」


うーん。そうは言っても僕はケイの護衛を兼ねているのだ。

離れるのはあまりよろしくない。


「ならやめるか」

「なんで行ってきなよ。見たいんだろ? 獣人の王子」

「見たいけどケイが来ないとなあ」

「えぇっ? い、いいじゃないか別に……ボクなんかいなくたってさ。クレアさんと行ってきなよ」


そういう訳にはいかない。


「そうだ! じゃあ手を握っていてやるからさ。そうすれば獣人なんか怖くないだろ?」

「て、手ぇ? なんでジンがボクの手を握るのさ!」

「だってケイは怖いんだろ?」

「こ、怖くなんかないよ!」


ケイは顔を真赤にして今度は怖くないといい始めた。

さっきは間違いなく怖いといっていたと思う。

まあいい。


「じゃあ来るか?」

「いくよ! いけばいいんだろ」


◆◆◆


午後、レストランで昼食を取ってから僕達三人は王都の中央通りに向かった。

獣人の第二王子ケルビンはかなり有名だったらしく、昼ごはんを食べたレストランでも噂になっていた。

いわく、第一王子のルドガーよりも強い、ビーストランドの軍人から信望を集めている、身長の高いイケメンだとか。


「ジンに勝てるわけがないけどどれぐらいカッコイイか見たいわね」

「じゃー大したことないじゃん」


お昼を食べながらクレアとケイの笑いながらの会話だ。


「凄い人ね」

「いや~本当だな。王都ってこんなに人がいたんだ」


王宮に一直線に続く中央通りの沿道は獣人の王子を一目見ようとする人々に埋め尽くされていた。

それを王都防衛騎士団が押しとどめていた。

僕もひょっとしたらこの騎士団に配属されることになるかもしれない。

希望は偵察騎士団だけれども。

借家は王都といってもメインからはかなり外れているから道も結構閑散としていた。

やはり王都には人がいたんだなと思う。


「もうそろそろ獣人の王子が中央通りを通るらしいよ」


クレアが持ち前の交渉術で騎士団員から情報を得てきた。


「それなら人をかき分けて前に出るか」


そういうとケイが僕の服の腰の部分を掴んだ。

見ると震えている。


「ケイ……やめるか?」

「み、見るよ」


借りてきた猫のように大人しくなっている。

獣人が怖いというのは本当らしい。でも可哀想だが、獣人の王子を見たい。

それに警備は厳重。

ケイにはむしろ安全かもしれない。


「そうか。じゃあ折角なら前に行ってみようぜ。そろそろ通るって話だし」


人をかき分けて沿道の一番前に出る。

するとずっと遠くから馬車の集団がこちらに向かってくるのが見えた。


「あ、あれ。剣聖ロイドじゃないか?」

「本当だ。ロイドだ」


沿道の人々が噂していた。

ロイドが馬車集団の先頭を騎乗して護衛していた。

王都防衛騎士団の騎士団長なのでいてもおかしくない。

が、剣聖ロイドが守るとなれば、それは間違いなく国賓だろう。

ならば……。


「あの屋根も幌もオープンの馬車で手を降っているのがケルビン王子か」


僕と同じ考えに至った人がいたらしい。

間違いない大きな力を感じる。

赤い、しかし虎のような耳と瞳をしていた。

剣士ではないので正確な強さは読み取れないが、赤剣老主と同じ格と言われるのも納得する。

直感で剣聖ロイドとも遜色なさそうだ。

不安定に揺れる馬車上で、根を広げる大木のように体幹が安定させている。

ロイドがこちらに気づく。しかし彼も公務中だ。

マチルダとやってきた少年か? とでも思われただろうか。

あまり興味はなかったようですぐに視線を外された。

こちらも今はロイドに興味はない。

馬車はかなり足早だったので、すぐに近くまで来たケルビン王子の威風堂々とした姿を見ることができた。

ところがその時ケルビンが叫んだ。


「止めろお!」


何が起こったのだろう。

目の前でケルビンをのせた馬車が急停止する。

御者や一緒に乗っていた護衛はバランスを崩し放り投げだされそうになった。

ケルビンだけがまったくバランスを崩さないで立っている。

しかもなぜか僕を見ている?

そう思ったと同時にケルビンは視界から消えるほど跳躍して僕の前に降り立った。


「え?」


一体、一国の王子ともあろう人が僕になんのようだ。

無礼なことはした覚えはない。

だが今の跳躍を見ても実力の差は明白だ……。

ロードで逃げるしかない。


「オ、オリヴィア……」

「は?」


僕がロードで逃げようとすると、威風堂々だった獣人王子は僕の目の前で明らかに動揺し、オリヴィアという女性の名前を口にした。

更新が滞っていて申し訳ございませんでした。

週一ペースで更新したく思っているのでよろしくお願いします。

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