25 人の話は正座で聞こう
「おどろいたわ~これって私の商売あがったりじゃない」
「う、嘘だろ。神殿で魔法のスキルを貰えなかったものは一生魔法が出来ないって言うのが人間の常識なのに。ジンは実は魔族なんじゃないか?」
回復魔法屋の女主人ミラに商売の心配をされて、ケイからは人間か疑問を持たれていた。
自分を傷つけ、そして回復魔法でそれを直す。
さらにそれを【セーブ&ロード】で繰り返した。
魔力で傷が直っていく感覚は魔力を感じるのに持って来いだったらしい。
【セーブ&ロード】を数千回繰り返したところで、回復魔法をためしたところ傷が治っていく感覚をわずかに感じることが出来た。
「確かに間違いないわ~。ほんのわずかな効果だけど~」
「こ、これ世紀の大発見だよ!?」
一度でも魔法が出来たなら後はここからスキルを伸ばしていけばいい。
魔法は剣のように0から1を身につけるのが不可能とされていたが、もう発動させたのだ。後は繰り返すだけだ。
幸いここには教師も【セーブ&ロード】による無限の時間もある。
「魔力の流れを感じることに集中しなさーい」
「はい!」
女主人ミラが回復魔法のレクチャーをしてくれる。
ケイが不満気に言った。
「商売上がったりじゃないんですか?」
「もう私は一生分稼いでるし~それにここまで若い子が熱心に努力してると協力したくなっちゃうじゃない~」
「ジンは少し度が過ぎてると思いますけどね」
二人が僕についてなにか言っていることに気がついた。
集中力が途切れた証拠だ。
「くそっダメだっ!」
魔法というものをやってみてわかったが、発動にものすごい集中力と精神疲労をともなう。
これではとても……。
僕が急に声を荒げて魔法を中止したので二人は顔を見合わす。
「全然ダメじゃないわよ~私の店でアシスタントを頼みたいぐらい~」
「さっきまではボクにはわからないぐらいの効果だったけど……もう見てわかるぐらいの効果になってるじゃないか」
それは普通の場所でこうやって傷を直すなら良いだろう。
「発動するだけでこれほど集中力が必要で疲れるなら戦場では使い物にならない」
ましてや老主クラスのバケモノに魔法を使うなんて。
魔法を発動しようとした瞬間にバラバラにされてしまうだろう。
剣だけで戦ったほうがはるかにマシだ。
「バイネンは一体どうやって剣と魔法を融合させたんだ?」
ミラが僕を指差してケイに言った。
「本当にアナタが言うように剣馬鹿なのね~」
「はい。お恥ずかしい」
ケイと二人で回復魔法屋を出た。
同じ家に帰るケイに話しかけた。
「これじゃあ飛躍的に強くなったとは言えないな。回復の魔法が使えるようになったことで継続戦闘能力は上がったけど」
今の状況を伝えて魔法の先達であるケイに意見を求めたかったのだ。
「魔法は出来るようになった。魔法さえできれば他の系統の魔法も出来るようになった人の話は聞くから攻撃魔法もできると思うけど剣と魔法の融合ってどうやるんだろうなあ?」
ところがケイは魔法のこととは関係ないことを言った。
「ジン……回復魔法が出来るようになっただけでも世間には例が知られていないほどの大発見なんだよ」
そうかも知れないが、強くなれなかったら意味はない。
「でも強くなれないとなあ」
「なんでさ。なんでそこまで強さにこだわるの?」
「理由はあるんだけど……」
他人から見たらそう思えるのだろうか。もちろん理由はある。
「理由があるなら教えてよ」
「笑われるからな。教えられないよ」
このことはクレアにすら話したことはない。レイアとスネイルとイアンには話したことがある。
だが、誰も信じていない。
ケイが真剣な顔をする。
「笑わないよ!」
「笑う」
「笑わない!」
「笑うよ」
ケイがコブシを握って上下に振って王都の往来で叫ぶ。
「笑わない笑わない笑わなーい!」
僕が話をする前に往来の女性達に笑われてしまった。
「なにアレ可愛いわね」
「彼氏と喧嘩してるのかしら」
〝コレ〟男なんですけど。
「わかった。わかったよ。まだクレアもパン屋で働いてるだろうし、家に帰ったら話そうな」
「ホント? やったあ」
家に帰る。
「ただいま」
「ただいま~」
やはりクレアは居なかった。
ケイは微妙に揃えた足を斜めにして座った。そして太ももの上に握った手を乗せる。
これが男の座り方なのか?
「さっ。話してもらうよ」
「えーい話してもらうよじゃない」
僕はケイの腕を掴んで立たせて背中を押す。
「え? えっ?」
寝室に連れて行ってベッドに突き倒した。
「ちょっちょっと、なんなの? やめてジン……」
やめてじゃない。こっちは人生の秘密を話すんだ。
聞くリスクは負ってもらう。
ベッドの上でアレぐらいはしてもらわないとな。
◆◆◆
「痛いっ! やめてっ! 許して……お願い」
「ダメだ」
ケイが哀れを誘う声で許しを請う。
しかし、僕は絶対に許さない
「ちゃんと正座しろっ!!!」
「なんなの。この痛い座り方は」
イヴァの人にとって正座は苦痛だろう。
だが、これは僕がかつていた世界で住んでいた国の正式な話を聞くスタイルなのだ。
「わかった。わかったよ。ボク頑張るから話してよ」
ケイは目に涙を浮かべて正座をしている。
僕も正面に正座する。
話すか。僕の身に起きた不思議な出来事を。
「実は……僕は地球という異世界に……」
転移したことがあると言おうとした時だった。
何かがドサッと落ちた音がした。
かごからパンがコロコロと転がっている。
扉のほうを見るとクレアが立っていた。
こちらもケイも必死だったので気配に気が付かなかったのだ。
「あんっ」
ケイが一筋の涙を流してベッドに横たわる。
足のしびれに耐えきれなかったのだろう。
「ち、違う。クレア違うぞ」
「う、ううん。いいの……」
「わかってくれてるのか?」
「うんわかってる」
驚いた顔はしていたが、頷いている。
「男×女だったら困るけど、男×男でしょ? ジンは両方できるんでしょ? なら私……いいから……」
「ちょっと待て。全然わかってないから」
日本のことを話すのはまずはクレアの誤解をといてから話さなければならなくなった。
けれど丁度いい機会かもしれない。
クレアにもいつかは話そうと思っていたことだった。




