2 謎のスキルを授かる
翌日、早朝。
乗合馬車に乗って王都に向かう。僕の村があるフランシス王国では若者にスキルをもたらすのは国益になるということで16歳になったものを神殿に呼んでスキルを与えていた。
ただ案内をしてくれるだけで旅費は自前だ。だから馬車の役人は途中の村の宿に止まるが、僕は野宿をしようと考えていた。
ところが旅立つ前にレイアから布袋が渡される。
「はい、これ旅費。余ったら王都で剣を買ってもいいからね。ふふふ」
レイアはこの日のためにヘソクリを貯めていてくれたのだ。
昨日、家計に没収されたと思っていた100ダラル銀貨もあった。
両親もいない中、畑仕事の手伝いだけでこれだけ貯めるのは本当に苦労しただろう。
不覚にも涙が出そうになる。
「ありがとう……」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん。いってきます」
同行者はやはり同村で同い年のスネイルとイアンだ。
期待と不安を胸に片道一週間はかかる馬車に揺られていた。
僕はお昼時にレイアが作ってくれた弁当を取り出した。
「レイアのお弁当、二人の分もって」
「お、マジかよ」
「ありがとう」
痩せのスネイルもちょっと太っているイアンも気持ちは同じだった。
強いスキルを貰って、できれば騎士団に入り、村人やレイアを守る。
言わずとも三人共そういう気持ちだった。
一週間後、ついに馬車は王都に着いた。
大通りに人がごった返している。
スネイルとイアンはこれほど人がいる場所は初めてだろう。
「珍しい気持ちはわかるが、まずはスキルを貰おうな。観光はその後だ」
馬車を御してくれた案内役の役人が笑いながら僕達を神殿に連れて行った。
僕達を待ち受けていたのは白亜の大神殿だった。
神代にあったという自然岩で出来た女神像へは、若者で長蛇の列が出来ていた。そこでスキルを授かるからだろう。
案内役の役人は言った。
「さあ、三人でここに並んでスキルを貰ってきなさい。私は神殿の外で待っているから」
並んだ順番はスネイル、イアン、そして僕だった。
「やっぱ、石像のレイア様、ジンの姉ちゃんに似てるな」
「そうかなあ~」
「似てる似てる」
そんな会話をしているとやっとスネイルの順番が来る。
スネイルが女神像の前で祈りを捧げる。
女神像から光が降り注ぐ。
傍らにいた神官が話しかけた。
「うむ。終わりじゃ。今からワシが【人物鑑定・極】をお前に使うから抵抗しないように」
女神の神殿にいる神官は若者がどのようなスキルを得たか教えるのが仕事だ。
ゆえに【人物鑑定】を持っている。抵抗するなとはスキルを防いでしまうスキルもあるからだ。
もっとも【人物鑑定・極】のステータスチェックを防ぐスキルは非常にレアだが。
「お前が得た新しいスキルは……おお! 【全鑑定・上】じゃぞ! よかったな!」
神官は普通スキルの説明をしてくれる。
だが【全鑑定】はそれが必要が無いほどの有名スキルだった。早い話、人物だろうが、アイテムだろうが、モンスターだろうがなんでも鑑定できる。
しかも【全鑑定】のなかでも『上』だ。
神官はプレートに書きながら神殿に就職しないかとスネイルを勧誘していた。
「やったな!」
「おめでとう!」
「ありがとう……直接戦闘スキルじゃなかったけど、戦闘のサポートもできるし、商人や神官にも引っ張りダコだよ」
三人で話してしまうと神官が笑いながら喜ぶのは後にして交代しろと促す。
イアンが勢い良く女神像の前にひざまずいて祈りを捧げる。
「うむ。終わりじゃ。今から鑑定するからお前も抵抗しないようにな……ん? おお。なんと……お前のスキルは超レアの【盾防御・極】じゃ」
「え?」
僕達三人は全員が呆けてしまう。
逆に後ろに並んでいる若者からはどよめきが聞こえてきた。
それはそうだ。【盾防御・極】は防御スキルだけれども戦闘系の【極】なのだ。王都騎士団に無条件で入れる。
入団して見習い期間が終われば、晴れて騎士爵位を得ることができる。つまり、ほとんど無条件で貴族にもなれる。
イアンは大きな身体に似合わず泣き出してしまった。
「これこれ。仕方ないな」
神官もこれには少し時間をくれたようだ。
僕達は少しの間、手を取り合って喜んだ。
「そろそろ君の番じゃ」
「はい!」
ついに僕の番だ。勇んで女神の前にひざまずいた。二人は本当にレアで有用なスキルを授かった。
僕もきっと素晴らしいスキルが手に入るはずだ。
それを願って強く祈る。
ただ僕は女神レイアではなく義姉のレイアを思ってしまった。
「よし……いいぞ」
神官が教えてくれた。僕にはなんらかのスキルが備わったのだ。
後ろで並ぶ若者が次もきっと凄いスキルだとつぶやいているのが聞こえた。
「お前が新たに得たスキルは……二つじゃ……」
やった! やったぞ! スキルは複数得られることもある。
だが二つ得られるだけでも千人に一人ほどと言われている。
会場のどよめきはさらに大きくなった。
「そ、それで二つのスキルは?」
「あぁ。あまり落胆せずに聞くとよい」
「え?」
「【セーブ】というスキルと【ロード】というスキルだ」
【セーブ】と【ロード】?
え? 【セーブ】と【ロード】って、まさか……。
神官が哀れんだように僕に言った。
「私のスキルは人物がどのようなスキルを持っているかしかわからん。ただ、私ですら知らないスキルだ。先ほどの友人の【全鑑定・上】ならスキル自体を鑑定できるから……効果を聞いてみると良い。あまり期待はできぬがな……」
スネイルが平静を装ったように言った。
「えっと……【セーブ】っていうのは『それまでを保存する』ってスキルみたいだ。【ロード】っていうのは『保存した地点に戻れる』ってスキルらしい……わけわからねえな……」
誰かが吐き捨てた。
「二つもスキルを得たのに……ゼロ能力者かよ……ケッ」
その言葉にイアンがキレた。
「テ、テメー! もう一度言ってみろっ!!!」
「わ、悪い。騎士団に入るだろうアンタのツレだとは思わなかったんだ」
「謝れ!」
スネイルも乱入して謝罪を要求している。
僕は喧嘩を慌てて止める。
「いいっ! いいんだ!」
「だってよ……」
「ごめん」
スネイルの言い訳とイアンの謝罪を聞く。
神官が僕の肩にポンと手を乗せてからと載せてからプレートを手渡してきた。
プレートにはこう書かれていた。
――汝が【セーブ】と【ロード】のスキルを女神から授かったことを神殿は証明する