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15 路地裏の死神

「いや~本当にジンくんがいてくれて助かったわ~」


 僕は腰が抜けて動けなくなったアンナをおぶっていた。


「俺は俺は?」

「あんたは逃げ惑ってただけじゃない!」

「矢を撃ってたし!」


 普段のアンナとスネイルの掛け合いを見るのは楽しいけど背中でやられるのは勘弁して欲しかった。


「それにしても真っ先に逃げるなんてひどすぎるよ」


 ケイが先輩達にプリプリと怒っていた。

 確かに試験の監督ということもあれば後輩の身の安全を守るためでもあるのに真っ先に逃げるのはな。

 マリンが深刻そうに言った。


「まるでビッグアントの群れに私達を投げ込んだみたい」

「まさか。さすがにそれはないよ」


 ケイはマリンの考えをすぐに否定する。けれど僕はマリンの言うとおりではないかと疑っていた。実はあの場所の先にあるという自然洞窟とやらも無かったのだ。

 しかし一点わからないことがあった。


「ビッグアントって弱いよなあ?」

「「「「強いよ!!!」」」」


 皆から反論されてしまう。

 アンナが言う。


「毎年何百人も被害者が出ているしっ!」


 まあ聞いたことはある。

 スネイルがお金のことを言った。


「一匹狩ったら200ダラル出るんだよ! 何の素材にもならないのに」


 そうなんか。

 ケイが握りこぶしを両手で上下させながら主張する。


「外骨格に守られてて簡単には刃が通らないし」


 節を狙えば一発だったぞ。

 マリンはモンスター感知スキルを持っていたからモンスターに詳しいのかもしれない。


「ブラッドバットで卒業できるならビッグアントなら確実に卒業検定通るよ」


 どうやら皆の感覚ではアリは強敵のようだ。

 やはり罠だったんだろうか。

 マチルダ先生がいうようにフランシス国の軍に影響力の強いオスカーが僕を恨んで……?

 でもあんなアリの罠はオスカーだったら余裕だったと思う。

 そのオスカーに曲りなりにも勝った僕に仕掛けてくる罠だろうか?


「どうしたの?」

「あ、いや別に」


 ケイが僕の顔を覗き込んでいた。


「深刻そうな顔していたから」

「いやなんでもないよ」

「ならいいんだけど……」


 ケイに愛想笑いをする。


「アンナ! もう大丈夫だろ! ジンの背から降りなよ!」

「やーだー! まだジンにおぶさりたい~」

「ジンも戦闘で疲れてるってさ」


 ケイが僕の背からアンナを降ろそうとする。


「アンナ俺が背負ってやろうか?」

「はい! 私歩けます!」


 スネイルがアンナを背負おうとするとアンナは僕の背から降りて歩き始めた。


「もう!」


 ケイが不満の声を上げてから僕を覗き込んだ。


「ジン、ホントにホントにありがとね」

「ああ、こっちこそありがとね。背中が軽くなったよ。ケイ」

「うん。アンナは甘え過ぎだからジンも甘やかし過ぎちゃダメだよっ!」


 結局、わからないまま、僕は王都に帰った。


◇◆◇◆◇


「先輩ひどいじゃないですか!」


 アンナの詰め寄りに二人の先輩は平謝りだった。


「いや本当にすまん……すまん! だけど俺達じゃどうにもできないから応援を呼びに行ったんだぞ」

「う~ん」


 そう言われるとアンナも反論もし難かった。実際この情けなさを見ると僕でも余裕のビッグアントを倒せそうだとは思えない。


「代わりにアリで卒業できるようにはしといたから。なっ」


 どうやらそのあまりに情けない姿勢に皆も責める気を失ったようだ。

 けれど僕だけはそういう訳にはいかなかった。

 これがオスカーの仕込んだことだとしたらこれから周りの人まで迷惑かけてしまうかもしれない。


「先輩……」

「なんだ?」

「オスカーって知ってますか?」

「オスカー?」


 し、知らないのか?

 もう一人の先輩が「オスカー?」と言った先輩に教えた。


「オスカーってアレだろ? 軍事貴族の家でなんでも軍学校に入学希望のゼロ能力者に負けて目を失ったとかいう?」

「ああ、あのオスカーか! 確かジンとかいう奴に負けたんだよな? あれ? ジンってひょっとして……お前?」

「えぇ。俺ですけど」

「ひっひいいいいぃ。嘘? お前? 許してこの通り!」

「マ、マジかよ。じゃ、じゃあさ。ビッグアントなんて……楽勝だったんじゃないの? そんなに怒るなよ」


 こいつらオスカーに依頼されて俺を罠に嵌めようとしたんじゃないのか?

 どういうことだ?


「お前偉そうにすんなよ。謝れっ」

「ああ、すまんすまん」


 この二人を剣で脅して事情を聞きたかったが、軍学校のなかだ。

 それも出来なかった。


◇◆◇◆◇


「卒業おめでとおおおおおおおおお!」


 スネイルが宿営地の近くにある酒場で自分を祝っていた。

 僕はついツッコミたくなった。


「いやまだ卒業していないからね。卒業の課題が通っただけだからね」

「確実に卒業できるじゃないか?」

「そりゃ、まあそうだけど」


 スネイルと僕の他にもクレアとイアンがいた。


「まあいつもはジンの言うことのほうが正しいけど今日はスネイルのほうが正しいかな」


 既に軍学校を卒業して辺境偵察騎士団に入団しているイアンが言った。


「ジンはね。少し固いからね」

「そうですよね。さすがクレアさんはよくわかっている」


 クレアまでスネイルの味方をする。

 さすがに卒業の課題が通った時ぐらいはしゃいだほうが良いか。

 どうせスネイルは卒業しても入団してもはしゃごうとするんだろうけど。


「ジンは固いぞっ!」

「まあそれが良いんだけど」

「そんな~クレアさん~」

「ハハハ。即裏切られたね。スネイル」

「うっせーぞ。イアン!」

「あ、僕はスネイルの上官になるかもしれないんだぞ」


 僕は皆のやり取りを見ながらこそこそと店を出ようとする二人に気がついた。


「先輩達じゃないか……」


 どうやら向こうはこちらに気がついてたようで軽く目があう。

 すぐに目を離して出ていった。


「スネイル、イアン! クレアを頼む!」

「はっ?」

「どうしたの?」

「なに?」


 こまかく説明してる暇はない。


「例の先輩達がここで飲んでたんだ」


 スネイルだけが少し真面目な顔になる。クレアとイアンはチンプンカンプンだ。


「マジか?」

「後を追う。頼んだからね」


 鋼の剣を取って店を出た。先輩達を追う。

 既に街には夜の帳が下りていた。

 先輩達は別になんの警戒もしないように千鳥足で歩いている。

 ただ飲んでいただけなのか?

 そう思ったが段々と夜の店も少なく、人気が少ない方に向かっていった。


「それにしてもなんだよ。こんなスラムのほうで待ち合わせなんてよ」

「まあ金をくれるんだからいいじゃねえか。後金で5千ダラルだぜ」


 誰かと待ち合わせしてるのか。

 しかも後5千ダラルとか言ってるぞ。大人一人なら3ヶ月余裕で暮らせる額だ。

 二人は路地裏に入っていった。

 僕は二人のランプを追う。

 おっと。路地裏に入ろうとするとすぐ袋小路になっていたようだ。

 そして二人を待っている黒衣の人物が既にいた。

 そいつを見た瞬間、ヤバイと直感した。


【フランシス王国王都、路地裏入り口。セーブしました】


「あ、もういたんですか?」

「例の依頼は終わらせてきましたよ。アリの生息地にガキどもを案内しました」


 僕は既に剣の柄に手を添えている。このまま去ったほうが良い気もする。

 だが先輩二人と黒衣の人物との会話も気になる。

 なにより僕は既に【セーブ】しているのだ。

 逃げることができるかどうか(・・・・・・・)は後でいくらでも試せる。


「おかしいではないか。アイツは死んでいないぞ」

「えっと……その……ジンっていう強いのがいて」

「そ、そうですよ。でも俺達はあそこにガキどもを誘導しろって言われてただですし、後金を払ってくださいよ」


 黒衣の人物が薄く笑う。ゾッとした。


「そうだな……受け取ると良い!」


 無意識に身を隠している建物の影から飛び出た。


「せっ先輩!!! 逃げっ!」


 僕の叫びと同時に先輩は切り刻んだ野菜のようにバラバラと崩れ落ちた。

 ロードをしようかとも思った。けれど意味はないだろう。

 ここでコイツに会った時点で、既に二人は鬼籍に入っていたのだ。

 【セーブ】したのは二人がコイツに会った後だ。


「客人を連れてきてくれたとはこのクズ共も最後に少しは役に立ったな」


 そしてやはり黒衣の人物は僕がいたことにも気がついていた。

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