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14 卒業の課題

 軍学校の生活も残すところわずかとなっていた。

 僕は今日もマチルダ先生から最後の特別授業を受けていた。

 叩き込まれたのはサンドワームの巣だ。

 けれども砂地に足を取られるという問題以外はなんなくサンドワームの群れを倒してしまった。


「驚いたジンくんは後一歩で【剣戦闘・極】になれるまで来ていると思う」

「ほ、本当ですか?」


 【剣戦闘・極】になれば、一段回目でも愛読書の剣伝録にもきっと載る。


「強くなったっていう実感があるでしょう?」

「いや、それほど……ないんですけどね」

「オスカーをはじめジンくんと同レベルの学生もいたけどここまで急激に成長した人はいないわ」

「ありがとうございます」

「うん。こっちも教え甲斐があったわ」


 教え甲斐か。危険なモンスターの巣に放り込んで、死にそうになったら助けるというワンパターンな教え方だったような気もするけど。


「それでジンくんに一つ相談があるんだけど」

「相談? なんですか?」

「実は卒業したら見習い騎士待遇で王都防衛騎士団に配属されない?」

「見習い騎士待遇で? 王都防衛騎士団にですか?」

「えぇ」


 見習い騎士ということはゆくゆくは貴族になれるということだ。

 騎士が手柄を立てれば領地を賜ることだってある。


「僕はその……ゼロ能力者ですよ?」

「成長は私が保証出来るわ」


 死ぬ思いでモンスターから生き延びてる感じしかしないのだが。


「そ、そうですかね?」

「最終課題の学生同士での課外授業があるからそこで自分の実力を確認するのもいいかもね。で、どうする? 見習い騎士待遇として王都防衛騎士団に来ない?」

「どうして王都防衛騎士団に入れば、兵士待遇でなく騎士待遇になれるのですか?」


 基本的に僕のクラスは兵士待遇になるものが集まっていたはずだ。


「実は……」


 マチルダ先生の話はこういうことだった。

 王都防衛騎士団の団長には人間最強とも言われている剣聖ロイドが就いている。ロイド団長とマチルダ先生は究源流の剣士で師弟関係だった。

 簡単にいえば、ある程度のコネが使えるということらしい。


「大変、ありがたいお話なんですが……」

「断るの……ひょっとしてそれがズルいこととか思ってるのかもしれないけど、これはちゃんとした権限の範囲内でおこなわれる話なのよ」


 先生が僕のことを高く評価してくれているのもわかる。

 けど人間同士の戦争のための王都防衛騎士団よりも……。


「実は辺境偵察騎士団を志望しているんです」

「どうして?」

「僕はハーゴ村の出身者なんです」

「あっ! ハーゴ村っていうと偵察団のシャール小隊長の?」

「そうです」


 ハーゴ村は魔族に攻められたが、兵員不足で見捨てられた過去がある。

 それを救ったのが命令違反してまでも偵察団の小隊で村に駆けつけたシャールだった。

 結果的に魔族の指揮官と戦ってシャールは命を落としたが、代わりに多くの住人の命が助かった。

 レイアもその一人だ。


「それで魔族から国を守る辺境偵察騎士団を望んでいるのね」

「はい……申し訳ありませんが」

「それならわかったわ。ただし……」

「ただし?」


 マチルダ先生は笑った後で忠告してくれた。


「例のオスカーがあなたのことをね。軍隊ってところは味方を攻撃することも簡単なところなのよ」


 ありえそうな話だ。


「だから私と繋がりがある隊に入れば安全だと思ったんだけど男の子だもんね」

「オスカーなんかに負けませんよ」


 僕は赤剣老主セキケンロウシュよりも剣の腕をあげて、人族と魔族との戦争を終わらせようとしているんだ。

 オスカーなんかに苦戦してられない。


「まあ、そのオスカーも近衛騎士団に入ったから大丈夫かな」

「そうですか」

「じゃあ、もう少し強くなったら、私が剣をとって直接指導してあげるから軍学校も卒業することだし一旦卒業ね」

「ありがとうございます!」


 剣をとったマチルダ先生に指導されるのはできれば避けたいけど本当にお世話になった。


◇◆◇◆◇


 僕の希望はアッサリ通って辺境偵察騎士団に入団が決まった。

 ケイとスネイルもアッサリと通っていた。

 つまりそれだけ不人気だということだろう。


「近衛騎士団を希望したのに」

「私なんか近衛騎士団は競争率が高そうだから王都防衛騎士団にしたのに……」


 【剣戦闘】が後一歩で【上】になるマリンと【槍戦闘】のアンナは、やはり偵察団に配属されたことをぼやいていた。

 僕達は今この五人で班を組んで王都の外を歩いている。

 フランシス軍の最小単位は五人の班だった。

 誰かが軍規違反や重過失を犯せば、連座して罪に問われることになる。

 軍学校の最後の課外授業の課題は同じ騎士団に配属された五人で班を組んでモンスターを狩ることだった。

 この課題が成されるまで卒業できない。

 アンナはやる気がないようだ。


「ううう……楽をして生きたかったのに。でもジンくんが入れば課題は楽勝か」

「え? そうかなあ」


 なんで楽勝になるんだろうか。

 僕はまだどんなモンスターを狩るかも聞いてない。

 前を行く、もう騎士団に入団している二人の先輩についていっているだけだ。

 僕らは歩きだが先輩たちは馬だ。他の班の先輩も馬だっただろうか?


「楽しいねジン」


 歩きながらケイが話しかけてきた。


「ピクニックじゃないんだよ」

「そっか……ごめんね。僕、久し振りにジンと一緒に課外授業ができるから嬉しくてさ。遊びじゃないよね」


 ケイには剣を教えていたからどれぐらい成長したか楽しみだ。

 でもケイは本当に男なのか。

 僕が少し注意すると顔を赤くして恥じ入ってしまった。


「学校の卒業生は軍に入っても同じ隊に配属されることが多いって聞くし、これからもよろしくねジンくーん」

「う、うん」


 これからもなにもアンナとはあまり話したこともない。

 スネイルは結構アンナと話してる気がする。

 そんなことを考えているとスネイルがアンナに言った。


「アンナ。ジンはクレアっていう凄い美人と一緒に住んでるんだぜ。お前も卒業したら俺と一緒に……」

「嘘っ!? 本当なのジンくん」


 アンナにとっては本当だろうと嘘だろうとどっちでもいいと思って無視をする。

 けれどケイがなぜか僕の背中をつねってきた。


「本当なのジン?」

「え? 本当だけど」

「そんなのダメだよっ!」

「いた? いたたた! やめろよ」


 ケイは顔を真赤にして僕の背中をつねってくる。

 その時だった。


「せ、先輩!!!」


 マリンが悲鳴に近い声をあげる。

 皆がどうしたのかとマリンの方をみる。


「モ、モンスターに囲まれてませんか?」


 二人の先輩が顔を見合わせるた。


「こ、今回の課題はこの先にある自然洞窟のブラッドバットだぞ。まだ先だ」

「気のせいじゃないか」


 アンナが声を張り上げる。


「気のせいなんかじゃないはずです。この娘は【モンスター感知・上】ですよ」

「な、なに?」

「そ、そうなのか?」

「逃げるべきですよ」


 マリンとアンナ、二人の先輩でモンスターに囲まれている囲まれていないで揉めている。


「た、大変だよジン。僕……怖いな」

「俺も戻ったほうがいいんじゃないかと思う。マリンがそう言うなら」

「う、うん」


 ケイとスネイルがそういうならモンスターはいるんだろう。

 二人はマリンと課外授業をしているし、なによりスネイルは【人物鑑定・上】を持っているのだ。

 だとするならばマリンが【モンスター感知】を持っていることは嘘ではない。

 でも焦るような状況じゃない。


「まあモンスターが出てきたら返り討ちにすればいいだけじゃないの?」


 先輩二人の顔が明るくなる。


「そうだ! そうだよ! よく言ったなジン」

「え? 僕の名前を知ってるんですか?」

「あ、いや。お前達名前を呼び合ってるじゃないか」

「そうでしたっけ?」


 実はこの課外授業に来る前にちゃんとセーブしてあるのだ。

 最悪の事態になったらロードすればいい。

 まあ最悪の事態になんかならないけど。


「ちょっちょっと何言ってるの! この辺は王都の外だしかなり離れてるからどんな魔物が出るか。いくらジンくんだって」


 アンナは心配のようだが僕はマチルダ先生との課外授業でこの辺にどんなモンスターが出るかは知っていた。


「所詮は通り道のモンスターなんだよなあ」

「え?」


 この辺にはビッグアントというモンスターがよく出る。

 僕にとってはイビルウルフなどより強力なモンスターと戦える場所に行く間に現れるモンスターでしかないのだ。

 そんなことを考えているとガサガサと音がなって巨大なアリが数体現れる。

 先輩達はさっさと馬を走らせて逃げてしまった。


「卒業生って学生の身を守ることも仕事のウチで付けられてるんじゃないのかよ? まったくもう」

「そ、そんな悠長な……」


 この先に自然洞窟なんてあった覚えもないんだけど、ブラッドバットとかいうモンスターを狩るという用事が残っている。

 アリは早く片付けよう。

 とりあえず一番近いアリの頭に剣を振り下ろす。

 メロン大のアリの頭がコロコロと転がった。


「ひっひいぃーーーー」


 アンナが座り込む。

 ありがたい。余計な動きをされたほうが怪我をする可能性が高まる。

 マリンの襟首を掴んでアンナが座り込んだ方に投げながら、また一匹のアリの頭を割った。

 スネイルは村で戦い慣れている。弓で距離をとりながら戦っている。倒せないまでも後で助けても大丈夫そうだった。

 問題はケイだ。ケイは【火魔法】らしい詠唱に入っていた。二匹のアリがケイを狙っていた。

 僕は一体のアリに剣を投げつけ、ケイの腰の剣を使ってもう一体のアリを両断する。


「ジ、ジン。ありがと」

「こんな接近されている状況で詠唱しても無防備になるだけだぞ」

「……う、うん」

「後は残り一匹だな」


 スネイルが逃げ回りながらアリに矢を放っていた。


「おーい。どうする? 助けるか?」

「バ、バカ。は、早く……助けろ……」


 まだ元気そうだ。

 アンナとマリンに駆け寄る。


「大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」


 マリンは大丈夫のようだが、アンナは腰が抜けてしまったようだ。


「た、立てない」

「しょうがないな。後でおぶってあげるから待ってて」


 僕はスネイルを追いかけ、アリを斬り倒す。

 走り疲れたのかスネイルは大の字になってしまった。


「参ったな。スネイルもアンナもこれじゃあブラッドバット狩りにいけないじゃないか……」

「はぁっはぁっ。何言ってんだお前?」

「何言ってるんだって?」

「ブ、ブラッドバットなんて倒さなくても、ビッグアントの頭一匹持っていけば課題は通るぞ」

「え? そうなの?」

「団の先輩が卒業だったらこれぐらいってモンスターを適当に決めてるだけなんだからよ」


 そういやブラッドバット狩りを見守ってくれるはずの先輩が逃げ出しているんだ。

 アリのほうが強いのかもしれない。


「ジンがいなきゃ確実に全滅してたよ。ありがとね」


 ケイがやや大げさなお礼を言ってくれた。

 ひょっとすると大げさでもないのか。

 僕だってかつては同じ【剣戦闘・上】のオスカーの攻撃を受けることも躱すことも出来なかったのだ。

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