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12 見えない奥義と二重人格

 既に僕が軍学校に入学して二ヶ月が過ぎようとしていた。

 このころになってやっとケイの【剣戦闘・非表示】スキルが【表示】スキルになった。

 ケイの剣の教官役が放免となる。

 僕は今まで同じ学生の指導役をやっていたことを理由に学内の【剣戦闘】スキルが高い人に剣を教えてもらえないか交渉していた。

 入学二日で辺境偵察騎士団は危険だから入らないほうがいいと教えてくれた座学の指導教官がジンに話しかけてきた。


「マチルダ先生がお前に教えてくれるそうだ」

「マチルダ先生? ああ、あの……オスカー……先輩との決闘に仲裁に入ってくれた?」


 ちなみにオスカーはもう卒業して騎士団に入団したようだ。

 三ヶ月の学校なので入れ替わりは激しい。


「なんでもお前の戦いぶりに感心したそうだ」


 強いんだろうか? 女の先生だし、それほど強そうに見えなかったけど。


「あ、お前。マチルダ先生が本当に強いか疑っているだろう?」

「いや、そんなことは……」

地斬ぢぎりのマチルダって聞いたことないか?」


 まさか。マチルダなんて名前は何処にでもいるけど、あの地斬りのマチルダだったのか。

 地斬りのマチルダって言ったら究源流の有名人だ。

 究源流といえば正当剣技の一大流派で門弟も多い。

 そしてなにより【極】の二段階目といえば奥義が使える。


「ありますよ……奥義の衝撃波で大地を斬ったとか」

「そうそう。お前も見せてもらうといいよ」

「見せてくれるんですか!?」

「そりゃ剣を教えてくれるって言うんだから見せてくれるんじゃないかな? ま、俺は見たくないけどな」

「?」


 この教官はなにを言ってるんだろう。

 戦闘系スキルの奥義なんて見ようとしたってなかなか見れるものじゃないんだぞ。

 ともかく僕は午後の実践訓練の時間をマチルダ先生から剣を教えてもらうことになった。


「あ~ジンくんね。お久しぶり」


 食事を追えて校舎の玄関でマチルダ先生に会う。


「よろしくお願いしますっ!」

「ふふ。そんなに固くならなくていいから。こちらこそよろしくねっ」


 マチルダ先生は優しかった。

 一応、ここは軍学校なのでハキハキしていないと殴ってくる体育会系の教官もいる。

 優しいだけでなく胸も大きい。ボブカットで左耳を出しておりワンポイントのイヤリングをしていた。

 こんな先生からマンツーマンで剣を教えてもらえるのはありがたい。


「とりあえず山に行きましょう。直帰の許可は貰ってるからね」


 軍学校を出て、王都を出て、山に向かう。

 その間は二人で黙々と走った。

 イヴァ世界では戦闘系のスキルが上がれば、身体能力が上がる。僕ですら短距離走のようなスピードでマラソンの距離を走ることが出来るが、先生にはまったくついていけなかった。


「ほらほら。ジンくん! 頑張って!」


 山を走りながら背中から押される。

 ううう。強くて優しい、良い先生だなあ。イアンが決闘の仲裁につれてきたこともわかる。

 先生が連れてきた山は険しい山だったが山頂が平らで広くなっていた。

 リングのようになっていると言っても良いかもしれない。


「じゃあ訓練をはじめましょうか?」

「せ、先生、その前に!」

「なーに? ジンくん」

「お、奥義を見せてもらえないでしょうか?」


 マイナーな流派や我流で奥義を練り上げた人は基本的に奥義を隠す。なぜなら見られると対策を打たれてしまう可能性があるからだ。

 一方、先生の究源流は奥義が出来る人もそこそこいるし、さらに汎用性の高い技だ。

 見せてくれるのではないだろうか?


「いいわよ」


 やった! 究源流の奥義は上段に剣を構えて振り下ろすという剣の基本動作を極限まで突き詰めたものだ。

 ただしその威力は通常の打ち下ろしの比ではない。

 先端からは衝撃波が発生し、離れた敵をも攻撃する。

 もちろん剣が直撃すれば、威力は何倍にもなる。

 僕はほくそ笑んだ。


【フランシス王国、コレル山山頂。セーブしました】


 よっし! これで先生の技を何百回でも見れる。


「よく見とけよ! コゾー!!!」

「えっ?」


 ほとんどセーブをしたと同時に先生の怒声が聞こえた。

 振り向くと目は釣り上がり、歯を肉食獣のように見せながら食いしばっている。

 瞬間、衝撃波でふっ飛ばされた。そんな馬鹿な正面にいたわけでもないのに。

 僕の身体は山頂のリングの外に浮いていた。


「あ、ごめんね。でも元々突き落とすつもりだったから」


 先生の剣は既に腰の鞘に戻っていて、さっきの悪鬼の顔から女神の顔に戻っていた。

 だが僕は重力に引き込まれて山の崖を転がり落ちて行く。


「ぐわあああああああああ! いででででぇ!」

「直帰していいからねぇ~」

「ロード!」


【フランシス王国、コレル山山頂。ロードしました】


 先生の剣なんか見てる暇はない。

 ともかくどこかに隠れなっ……。


「よく見とけよ! コゾー!!!」


 ぐわっ。

 ロードしてすぐに衝撃波で山頂から弾き飛ばれた。


「直帰していいからねぇ~」

「ロード!」


【フランシス王国、コレル山山頂。ロードしました】


「よく見とけよ! コゾー!!!」


 剣の正面でなくてもふっ飛ばされるほどの威力があるとは。

 どうやら僕は先生の奥義の衝撃波から絶対に逃れられないタイミングで【セーブ】してしまったようだ。

 あれだけ『詰みセーブ』には気をつけていたのに奥義見たさについやってしまった。

 しかも肝心の奥義はレベル差があり過ぎて見ることもできずふっ飛ばされるだけ。あのやる気のない教官が見たくないと言っていたのを思い出す。

 どうやら山頂から転がり落ちることは覚悟するしかなさそうだ。


「直帰していいからねぇ~」


 崖とはいえ辛うじて斜面と言える。

 ただし岩や木が無数にある。

 それを剣で受け止めながら転がり落ちていく。

 そのことだけに必死だったから分からなかったが、どうやらコレル山の裾野は森になっているようだ。


「ぎゃふっ」


 最後に枝と葉のベッドに激突した後に、森の地面に落ちる。


「どうやら死んじゃいないようだ」


 しかし、信じられない。もし【剣戦闘】スキルが後少しでも低かったら死んでたかもしれないぞ……。


「うっ」


 左の足首が捻挫したか、あるいはヒビでも入ったのかもしれない。

 左足に体重をかけると猛烈に痛む。


「くそっ。なんて教師だ。直帰しろとか言ってたな。家に帰ってクレアに治療してもらおう……え?」


 ふと周りを見回すと自分がモンスターの群れに囲まれていることに気がついた。


「イビル……ウルフかよ……」


 集団で人間を襲うモンスターだ。

 何十頭といる。今の自分だと万全の体制でも逃げ切れるかどうか。

 ど、どうする? ロードするか?

 でも崖から落ちることは避けられない。死ぬ確率は低いと思うけどもっと重症の可能性もある。

 やるしかないか。


「来い!」


 イビルウルフが一斉に襲い掛かってきた。

 わずかな襲いかかる順番を利用して先に間合いに入ってきたウルフから斬り殺していく。

 それでも真後ろから来るウルフはどうにもならない。

 右足首に噛みつかれてしまった。


「ぐっ……くそっ!」

「キャンッ」


 右足首に噛み付いたウルフを斬り払う。

 噛まれたあとはかなりの出血だ。

 そこからはウルフの群れは近づきもせず、離れもせず、攻撃をしてこなくなった。


「ありがたい。怖気づいたみたいだな。休ませてくれるのか……?」


 しかし、その考えは間違いだった。

 いまや目を開けていることもつらい。

 どうやらウルフ達は僕が出血で弱るのを待っていたようだ。

 噛まれた段階で逆にこっちから斬り込んでいかないといけなかったようだ。


「くそっ!」


 左足の捻挫、右足の出血と怪我の痛みを堪えながら、こちらからウルフの群れに斬り込んでいく。二、三匹殺ったところでついに僕は痛みで倒れてしまった。


「ロードがあるから、いいものの……」


 ウルフが僕ににじり寄ってくるのを見ながら、マチルダはとんでもない教師だなと思っていた。

 ウルフが僕の首筋に迫る。ロードを使おうとした時だった。

 天から稲妻のようにそれは振ってきてウルフの頭を串刺して地面に突き刺さった。


「剣っ!?」


 そのコンマ数秒後には剣の隣に若い女性が落ちてくる。


「大丈夫? ジンくん」

「マチルダ先生?」

「あのね。もうね。ジンくんのぐらいの技能レベルになるとギリギリの戦いのなかでモンスターを山のように斬らないと中々レベルがあがらないの」


 それでこれか……。

 でも一応、山頂から僕を見守ってくれていたらしい。


「それと先生、剣を手に取ると性格が変わっちゃうの」

「へ?」


 先生がウルフの頭を串刺しにして大地に刺さった剣を持った。

 その瞬間ウルフがバラバラになる。


「おい! 糞犬ども! 私の可愛い生徒によくもやってくれたなあ、ゴラ!」


 ウルフの群れがジリジリと下がる。僕のように弱るのを待つ作戦ではないだろう。

 明らかに本能的な恐怖を感じたんだと思う。

 安全マージンを確保されている修行なら、どんなに厳しくてもセーブ&ロードに持って来いだ。

 先生が鬼のような顔でウルフの群れを蹴散らしている時、そういうことならと僕は安心してロードした。


◇◆◇◆◇


 結局、54回目で先生の力を一切借りずに森を抜けることができた。

 イビルウルフを20頭ぐらいしとめると向こうのほうから去っていったのだ。

 森を抜けると先生がいて平謝りに謝ってきた。

 さらにロードすれば修行になるのかもしれないけど、先生にお詫びのしるしに平地で奥義を見せてあげると言われたことで僕の精神力のほうが尽きてしまった。

 早く家に帰りたい。


「ただいま~」

「おかえりなさ~って、どうしたの? その傷?」

「軍学校の訓練で」

「買ってあるポーション使うわね」

「ありがとう」


 クレアは心配そうにしてくれるが、今回は打撲や擦り傷しかない。

 53回目までと比べたら笑っちゃうような傷だ。

 最後だけ急に崖から落ちる時の岩や木、ウルフの動きが見えるようになった。

 だから怪我もそれほど負わずに済んだ。


「あ、あれ?」

「どうした?」


 頭にポーションをふりかけていたクレアが急に驚く。

 

「ジンの【剣戦闘】五段階になっているよ」

「え?」


 クレアの人物鑑定を信じられないわけではなかったが、買い置きしていた【人物鑑定の水晶】を使ってしまう。


「もったいない~」

「いいんだよっ」


 かなり高い上に100%成功するわけではない、一回失敗して二回目に水晶が僕の【剣戦闘】が五段階になっていることを映した。


「よおっし! そろそろ次はついに【極】だ!」

「ううう。私の【ギャンブル・極】が追いつかれる~……もっとゆっくり強くなっていいのにぃ」


 どうやらマチルダ先生の教え方はセーブ&ロードを持つ僕には最高のようだった。

 あの二重人格だけはなんとかしてほしいけど。

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【剣戦闘・上】

4:剣のプロとして生きる人も現れはじめる。  ←今までのジン

5:剣の手練れとして認識されたり、噂されはじめる。 ←NEWジン


【剣戦闘・極】

1:山のように魔物や人を斬らないと到達しないと言われる。冒険者ギルドや傭兵ギルドで剣士として確実に噂される。

2:多くのものが剣の奥義を開眼する。 ←マチルダ

3:自分の流派を開くものが現れだすレベル。

4:非常に才能に優れている剣士が老齢になって運良く達することができるかどうかというレベル。

5:基本的に人類の限界


【剣戦闘・神】

1:全ての種族を入れても世界に2、3人しかいないと言われるレベル。

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