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1 スキルの神殿へ

新作はじめました。

ブクマしていただいてお暇な時にでも読んでいただけると嬉しいです。


なんじが【セーブ】と【ロード】のスキルを女神から授かったことを神殿は証明する」


 僕を見る目に映る、哀れみ、侮蔑、嘲笑。

 これが女神に祝福されざるもの『ゼロ能力者』を見る目か。

 当然だ。【セーブ】と【ロード】など、イヴァの世界の人には何に使うのかまったく分からないスキルだろう。


 しかし、僕ことジンは『日本のゲーム』を知っていた。

 間違いない、セーブとロードのスキルなら必ず最強になれる! いや、絶対になるんだ!


◇◆◇◆◇


 ――時は神殿で二つのスキルを得る二週間前に戻る。




 僕は深い森のなかでグレイボアと呼ばれる猪型のモンスターを追っていた。

 木々が密集しモンスターが真っ直ぐに走るしかない一本道になっているとこで叫ぶ。


「スネイル、イアン、行ったぞ!」


 僕の叫びで一本道を塞ぐように村の二人の少年が左右から現れた。

 グレイボアは少年達を突破しようとするが、イアンの盾に跳ね飛ばされる。


「イアンは【盾防御】使って長いもんな。そろそろ【盾防御・上】になるんじゃないのか?」


 僕はそう言いながら、イアンの盾に弾き返されたグレイボアの胸に鉄の剣を突き刺した。

 走りながらの真っ直ぐ放った一撃は心臓にまで達したらしい。

 グレイボアは即座に倒れた。


「おおお! やるなあ! ジンこそ、さすが【剣戦闘・上】だよ」


 剣の技能(スキル)レベルを褒められると鼻が高かった。【剣戦闘・上】である僕ことジンは村一番の剣士だ。

 このイヴァの世界に生まれて子供の頃から剣ばかりふるっていた。

 

 この世界には技能(スキル)レベルというものが存在する。

 例えば、僕が得意とする【剣戦闘】は【剣戦闘】→【剣戦闘・上】→【剣戦闘・極】→【剣戦闘・神】のように強くなる。


 これに特にスキルとしてなにも注目されることのない【剣戦闘・非表示】もあるから五段階ある。

 実際には僕のような【剣戦闘・上】の中でも実力や技に差があるからさらに細く分別することもある。



-----------------------------------------------------------------

【剣戦闘・非表示】

1:剣を使うと怪我をして逆にダメージを受けるレベル。

2:使い方がわからないレベル。

3:はじめて剣を手に取ったレベル。

4:剣の構え方を知ったレベル

5:剣の振り方を知ったレベル。


【剣戦闘】

1:熟練者から基本を教わったレベル。

2:数ヶ月は訓練したレベル。

3:実戦でも使えるようになる。

4:激しい訓練を1年間したレベル。

5:命がかかった実戦を何度も経験する。←イアンの【盾防御】レベル


【剣戦闘・上】

1:数年以上の訓練。←ジンの【剣戦闘】レベル

2:一人前と言われる。

3:多くの人から剣の腕を褒められる。

4:剣のプロとして生きる人も現れはじめる。

5:剣の手練れとして認識されたり、噂されはじめる。


【剣戦闘・極】

1:山のように魔物や人を斬らないと到達しないと言われる。冒険者ギルドや傭兵ギルドで剣士として確実に噂される。

2:多くのものが剣の奥義を開眼する。

3:自分の流派を開くものが現れだすレベル。

4:非常に才能に優れている剣士が老齢になって運良く達することができるかどうかというレベル。

5:基本的に人類の限界


【剣戦闘・神】

1:全ての種族を入れても世界に2、3人しかいないと言われるレベル。

2:伝説級の剣士。歴史にも名が残っている。バランスブレイカー。

3:歴史上、勇者ローレアだけが到達した。

4:到達したものは誰もない。

5:本当の神のレベルと言われる。

-----------------------------------------------------------------



「毎日、五年間も剣を振れば、誰だって『上』にはなるよ」

「それが大変なんじゃねえか。でもスキルの神殿もあるからお前より一瞬で上にいっちゃうかもしれないぜ。へへへ」


 村の友達であるスネイルとイアンに剣の努力をしろと言ったが、スネイルは聞く気はないようだった。

 そりゃ努力しなくてももうすぐ剣スキルが手に入るかもしれないけどさ。

 この世界では努力してスキルを手に入れる他に、一生に一度女神からスキルを授かることもできるのだ。

 三人でグレイボアを村の解体屋に運び帰るともうほとんど夕食の時間になってしまった。


「久々に大物だったな。毛皮と肉で300ダラルになるなんて」


 スネイルは嬉しそうに言った。もちろん僕もホクホクだ。

 300ダラルを100ダラルずつ分け合う。100ダラルはちょうど銀貨で一枚になる。

 二人と別れて銀貨を指でちゅうに弾きながら帰路に着いた。


「ただいま~」

「おかえりなさい」


 村外れの小さなあばら家で僕を出迎えてくれたのはレイアだ。

 彼女と僕は血が繋がっていないけど、親代わりでもあり姉でもある。


「今日は100ダラル稼げたんだ」

「ホント~? 家計が助かるわ」

「え~レイア姉さん。もっと貯めて新しい剣が欲しいんだよ」


 普段はレイアと呼んでいるけどなにかお願いしたい時は姉さんをつけることにしている。

 でもあまり効果はないだろう。両親がいないウチの家計が大変なことは事実だ。


「ジン! 女神様のいうことが聞けないの?」


 この世界の『人の神』は女神レイアという。目の前とレイアと同じ名前だ。

 死んだ両親が養子として迎え入れたレイアは自分のことを女神だとよく主張している。

 たわいないのない冗談だ。この世界ではレイアという名前はよくある名前だしね。

 けれどもレイアは本当に女神なのかもしれないと思うことがあった。

 6歳の僕と出会った頃、森に倒れていたレイアは16歳だった。

 だから僕が16歳になった今、彼女はもう26歳のはずだ。だけどあの頃からちっとも年をとっているように見えない。

 実は長命種のエルフだったりして。でも別に耳は尖っていない。


「はいはい」


 僕は素直に100ダラル銀貨を渡す。

 レイアが頬を膨らました顔に弱いのだ。


「よし!」


 今度は笑顔になった。笑顔にも弱い。

 村の友達はレイアの美しさは女神だという。

 そこまでかなあとは思う。


「明日はいよいよジンも王都の女神の神殿に向かうのね」

「あぁ。良いスキルが貰えるといいんだけど」


 このイヴァの世界では16歳で成人を迎える。数え年で成人を迎えた人間は神殿で祈ることで女神レイアからスキルを貰えるのだ。

 女神レイアは人族にスキルを与えるので人の神と言われている。

 どんなスキルを授かるかはわからない。

 例えば、僕のように既に自分で鍛えて得た【剣戦闘】を授かる場合もある。

 その場合技能レベルが一気に上昇する。無数のスキルがあるので天文学的に低い確率だけど、【剣戦闘・上】が一気に【剣戦闘・極】までいった例すらある。


「【剣戦闘】だといいな」

「案外、生活系かもね」

「それはないでしょ。ないと思いたい」


 今、人族は魔族との戦争のさなかだ。

 だからなのか女神レイアは人々に戦闘系スキルを授けることが多くなっているらしい。

 女神は人の願いをかなえる。


「でもゼロ能力者もいるよね?」

「う……」


 女神はたまに運命のいたずらをすることもある。

 なにに使うのかまったく不明なスキルを授かる人もいた。

 そういった人は女神に祝福されざるもの『ゼロ能力者』と呼ばれる。

 神殿は女神に授かったスキルを証明するプレートも発行している。

 ゆえにゼロ能力者になったものはそれまでの努力も否定され、差別を受ける傾向にあるのだ。

 少なくともスキルの証明プレートを要求される公的機関は入れなくなる。

 つまり僕が入団を希望している騎士団には入れなくなるだろう。


「僕がなるわけないだろ? モンスター狩りをしている奴は大体戦闘系スキルをもらえているしさ」

「そっか。そうだよね。余計なことを言ってごめんね」


 レイアがしょんぼりする。

 やり過ぎた。僕が騎士団に入る目的はレイアを守るためだ。

 昔、村が魔族に襲われた時、僕の命を救ってくれたレイアのために。


「い、いや。いいんだよ。僕はきっと騎士団に入ってレイア姉を楽させるよ」

「期待して待ってるね」

「それでレイアを……」

「うん?」

「いやなんでもないよ。明日は早いからもう寝ないとね」

「そうね」


◇◆◇◆◇


 両親が死んで、一時この村を離れた僕が帰ってきてレイアと二人で暮らすようになってからは、いつも同じベッドで寝ている。

 魔物に壊されて建て直した家が狭いので、ベッドを大きくして二人で寝たほうがスペースを有効活用できるとレイアが主張したからだ。

 レイアとは明日からしばらく会えない。騎士団に入団できるようなスキルを得ることができれば、もっと長いこと会えなくなるだろう。

 月明かりでスヤスヤと眠るレイアの顔を見る。

 長い睫毛と僅かに開いて濡れている口唇がなまめかしい。


「レイア……もう僕も大人なんだぞ」


 レイアに小声で話しかける。


「そうなんだ」


 レイアの大きな瞳がパチッとひらく。


「お、起きてたの?」

「ジンが明日から旅立っちゃうんだもん……寝れないよ……」

「すぐに帰ってくるさ」

「あれ? すぐに帰ってくるってことはジンは騎士団に入らないの?」

「は、入るさ……」


 と、いいつつ寝る前にゼロ能力者の話題をしたことが不安になる。


「けど騎士団に入れるほどのスキルを得れるなんて滅多にないんだよな……それと比べたら役に立たないスキルになることのほうが多いらしいし」


 期待と同じぐらい不安も大きい。もし……ゼロ能力者と蔑まされるようなダメなスキルだったら。

 考えないようにしていたことが僕の頭を支配しはじめると、顔にふわっとするものが触れる。


「レ、レイア」


 視界は押しつぶされたが、香りでレイアの胸とわかった。

 こんなに大きかったのか。見る大きさと触れる大きさではボリューム感が違うようだ。


「大丈夫、大丈夫だよ……」

「ぼ、僕は子供じゃないって言ってるじゃないか」

「ジンは絶対に良いスキルが貰えるから……女神の私が言ってるんだよ……」

「女神って。名前が同じだけじゃないか」

「えへへ」


 僕は不満を言いながらも暖かいものに包まれた安心感で微睡んでいく。

 騎士団に入りたいのは生活を楽させるためだけじゃない。

 強く、どこまでも強くなって、人族を滅ぼそうとする魔族からレイアやこの村の人を今度こそ守るんだ。

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