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第7話 情報戦


「ねえ、勇者ってなんなの」

「ふえ? 勇者かぁ………おとぎ話に出てくる、囚われのお姫様を助けに来るようなかっこいい人かなぁ」

「そうじゃなくて、おまえが勇者なんだろ? つよいのか?」



 俊平はイルシオにお手洗いまで案内されながら、質問を受けていた。


 勇者とはどういうものなのかを。


「うーん、どうなんだろう。僕は喧嘩も弱いし、そもしもしたことないからわかんないよ」

「ケンカもない? だったら、なんで勇者なの」


 俊平は至ってチビな高校生。

 喧嘩は極力避けるし、中肉中背の少年すら俊平にとっては巨人なのだ。

 殴られれば同じ体格から殴られるよりも数倍痛い。


 手足が短く、リーチも無い。喧嘩をするだけ無駄なのだ。


 負けることが確定している喧嘩など、バカの擦ることだ。

 痛い思いをして殴り合いをするなど、狂気の沙汰だ。なにごとも痛くないのが一番なのだから。



「僕もわかんないよ。一緒の部屋にいたってだけでその部屋にいる人みんながこの世界に来たみたいだから。」

「ふうん………じゃあみんな、勇者なんかじゃないの」


 俊平自身、なぜ自分のようなチンチクリンがこの世界に召喚されてしまったのか、まるで理解できなかった。

 だからイルシオの言葉にコクリと頷いた


「みんな、かどうかは知らないけど、少なくとも僕は勇者なんて大それたものじゃないよ。たぶんね、光彦君みたいなひとを勇者っていうんだろうね」

「あのピカピカの剣のひと?」

「そうそう。あの人はねえ、剣の腕が立つし、悪い人を見かけたら放っておけない人なんだ。それにスッごく優しいの。道端で大きな荷物を抱えたおばあさんが居たら、その荷物を持ってあげたりね」


 光彦は、剣道の腕が立つ。

 剣道の全国大会でもいつも上位に居るという。

 親が警察官ということもあり、人一倍正義感が強く、人にやさしく接することが出来るよくできた人間だった。


 完璧超人、とは彼のことを指すのかもしれない。


「しゅんぺいは」

「あはは、僕は小さいからね。自分のカバンだけでいっぱいいっぱいだよ」


 俊平も、電車に乗れば老人に席を譲るくらいはするのだが、『いいよいいよ、ぼくがすわってなさい。気持ちだけ受け取るよ』といつも逆に気を使われる始末である。

 人生ままならないものだ。


「ルミィクルダーエィス、ヴェイ………」

「ん? わかった、急ごうか」


 俊平は自分が勇者などという器ではないとイルシオに話しながらお手洗いに向かっているとイルシオの服を掴んでいた少女が忙しなく足をもじもじとさせていた。

 桜色のドレスを着た小さな女の子を見て、俊平は『自分よりも小さな女の子だぁ』とほっこりしながらイルシオの後ろに続く。


 少女は俊平には理解不能な言語で話していたが、その様子から、なにやらイルシオを急かしているということが俊平にもわかった


「彼女はイルシオくんの妹ちゃん?」

「うん。名前はネマ」

「かわいい名前だね、なんて言ってるの?」

「あ、そっか………」


 俊平はイルシオ程の洞察力は無く、ネマがトイレを我慢しているということに全く気付いていない。

 そこでようやくイルシオもネマだけが会話を置き去りにされていることに気付いた


「この指輪、しゅんぺいがつけて」

「え、いいの?」

「その方がべんり」


 言うが早く、イルシオは自信が指に着けていた赤い宝石のついた指輪を外し、俊平に渡した。


「え………」

「ウィエ」


 どうやら「早く」と催促されているらしい。

 言われるがままに右手の人差し指に指輪を嵌める。

 だが、大きさがまるで違うため、常に握りこぶしを作っていなければならない状態だ


「これでいい?」

「うん、これで、しゅんぺいはこの世界の人の言語がわかるようになったよ」

「便利な指輪だね」


 この指輪さえあれば通訳いらずだ。

 勝手に自分の知る言語に訳して聞こえてきて、さらにはこちらの話す言葉も相手に翻訳されてしまうのだから


「使い道はほとんどないんだけどね」


 続くイルシオの言葉に俊平がそれはどういう意味かを考える前に、ネマが口を開いた


「ついたのです! おにーさま、ドレスを脱がせてほしいのです!」

「ドレスを………? ぼく、やったことないよ」



 ネマの着るドレスは、コルセットの上からひもで縛るタイプのドレスで、普段は侍女たちが着脱を手伝ってくれている。

 今回は勇者たちが召喚されるというからネマは2時間以上も前からドレスを着ていたことになる。

 さすがにトイレに行きたくなってもしょうがない事と言えた。


 普段はもっと動きやすいお城用の服なのだが、勇者が来る手前普通の服で謁見の間に立つわけにはいかなかったのだ。


 さらに、そのドレスはスカートが長く、広がっているようなタイプなため、下着を脱ぐのも適さないし、座るにも向かないモノであった。


「ここは………?」

「ここがトイレなんだけど………どうしようかな、ネマももう限界だし、人を呼んでくるにも、ほとんどが玉座の間にいるし………」


 イルシオが頭を悩ませていると、ここがトイレの場所だと言われて、俊平もようやくネマもトイレに行きたかったのだということに気が付いた

 どうやらドレスが脱げずに困っているらしい。


「僕に任せて。ネマちゃん、ちょっとじっとしててね」

「はいなのです! でもいそぐのです! もれちゃうのです!」


 そんなセリフに苦笑しつつ、ネマの背中にあったドレスの結び目を解いて緩めると、ネマはドレスをスポーンと脱ぎ捨てて下着姿になった


 どうやら服をきつく縛ることによって、コルセットは付けていないようだ。

 もう一度着付けなおせるかは、結び目を解く前にどういう結び方をするのかを確認したから問題ない


 まだ羞恥心が無いのか、ネマは下着姿でも特に気にした様子がない。


「いってくるのです!」


 どうやら間に合ったようだ。

 ネマはパタパタと走りながらトイレのドアを開けて中に入って行った。


「間に合ってよかった。しゅんぺい、ありがとう」


 ネマのドレスを腕にかけてネマが出てくるのを待つ俊平に礼を述べるイルシオ。

 ネマはもう限界ギリギリだった。俊平が居なかったら、もしかしたら痴態を晒すことになっていたかもしれないとおもうと、俊平に感謝をささげたくもなるというものだ


「イルシオくんは優しいお兄ちゃんなんだね」

「心配なだけ」


 ぶっきらぼうにそういうイルシオをみて、ああ、この子はツンデレなんだな。

 と頬を緩ませた


 しばらくするとネマが戻ってくる。


「きせてほしいのです!」


 ドレスを持つ俊平の方へ、とことこと歩いてくる姿は、どことなく小型犬のような印象さえあった。

 俊平は自分よりも小さい生き物が大好きだ。

 しかも自分に懐いてくれるような猫や子犬はとくに好きだ。

 こうして自分を頼って近寄ってくるネマのプラチナブロンドの髪を優しく撫でる。

 すると、ネマは気持ちよさそうに目を細めるのだ。それを可愛いと言わずになんという


「うん、じっとしててね」


 ネマにドレスを着させてあげる。不恰好なところはないか、入念にイルシオにチェックしてもらいながらしっかりと着せて、俊平も用を済ませた


 下水管理はしっかりとしているのか、現代日本とほとんど遜色のない洋式のトイレであった。

 水を流すのはさすがに桶に入った水を自分の手で便座に流して汚水を流す形式だったが、この世界の生活環境はそれほど低くないと感じる


「ありがとう、イルシオくん。おかげで僕も漏らさずにすんだよ」

「漏らされたら困るだけ。それよりももっと聞きたいことがある。ついてきて」


 ゆっくりと離しができるペースへ、イルシオだけが知る、秘密基地・・・・へと、俊平を案内することにした



                 ☆


―――――


  個体名:北条縁子

   種族:異世界人

アビリティ:<精霊使い(エレメンツ)>

   筋力:50

   敏捷:50

 魔力障壁:150

   魔力:250

   通力:100

 魔力浸透:150

   器用:200

 魔法適性:光・闇・火・水・風・土・雷

 スキル:<精霊召喚><精霊の祝福><精霊の聖域><同化>

  称号:精霊の勇者


―――――


―――――


  個体名:百地瑠々

   種族:異世界人

アビリティ:<武神ファイター

   筋力:250

   敏捷:200

 魔力障壁:100

   魔力:50

   通力:150

 魔力浸透:100

   器用:100

 魔法適性:重力

 スキル:<瞬動><纏気><覇動拳><リミッター解除>

  称号:武神の勇者


―――――



「<精霊使い>に<武神>まで………! すごい、すごいです! 伝説級のアビリティがこんなにゴロゴロ転がっているなんて、あなたたちの世界は、どれだけ混沌としていたのでしょうか!?」


 縁子と瑠々のステータスを確認したところ、ミシェルは伝説級のアビリティばかりがはびこっている彼らの世界に旋律した。

 それはそうだろう。この世界では見ることのなかったアビリティの数々が、召喚された少年少女たちに備わっている。それが、31人もとなると、その世界を疑わざるを得ない


「い、いやあ、私達の世界にはそもそも<アビリティ>っていうのがなかったからそれほど混沌としていたわけではないよ………?」

「うむ。少なくとも国に住む国民は戦争などとは無縁の存在であったからな」


「そうなのですか………?」

「むしろ、戦争中の国の者や特殊な訓練を受けているものではなく、なぜ、普通に暮らしていたはずのわたしたちがこの世界に呼ばれてきたのか、それが理解できないのだ。」


 瑠々は、自分たちを召喚した神『サニエラ』というモノに疑念を持っていた。

 当然だ。神を自称するものなど、信用できるはずがない。

 宗教で神を信仰するのは精神の安定にも必要な時もある。


 だが、神を自称するものが自分たちを選んでこの世界に送ったと言われても、そこにはちぐはぐさしか見えなかった。


 この世界の人間たちを救おうと思うのならば、現代日本の技術の結晶や、特殊な訓練を受けたものを大量に送り込めばいい話。

 それを、なぜ自分たちのような一介の高校生にしたのか。

 戦争の経験もない自分たちよりも、戦闘の訓練を受けたものを召喚した方が、はるかに国にとっての負担も、人間族にとっての負担にもならないはずなのに、だ。



「まぁ、それは考えても仕方のない事なのだろうな。たまたま私たちが勇者の素質を持っていた、ともとれるわけなのだし」



 そういう疑念を持っても、すでにこの国に召喚されてしまった事実は変わらない。

 ならば、一刻も早く地球に帰還するために、できることをやらなければならないだろう。




「のう、そろそろ話を先に進めてもよいじゃろうか」


 まとまらない考えを思案し続けても無駄である。これ以上この場に留まる理由も思いつかなかった妙子は、そろえた情報を頭の中に叩き込みつつ状況を進展させるために口を開く。


「まだ、全員分のプレートを確認しておりませんが………」

「どうせあと5人程度じゃ。それに、まだあと20人以上もプレートを貰っておらんものもいる。一気に確認した方が良いじゃろう。儂も本当は自分の持つ能力を気になるところじゃが、何事も順序が必要じゃ。」

「は、はい………」


 今はまだ、召喚された勇者たちを置いてけぼりにして、ミシェルや王、騎士たちが舞い上がっているだけなのだ。

 こちらは家に帰れない不安で押しつぶされそうな子も居るというのに。なんとも身勝手な話である。


「仕事を斡旋してもらえるのはありがたいが、最低でも衣食住は確保してもらわないとならんのでのう。こちらも無一文で知らぬ世界に放り出されてしまえば、今を生きるにも困ってしまうからの。そこの確認をしたいのじゃ。アビリティの確認なんぞは後回しでもよい」

「で、ですが………」


 なおも食い下がろうとするミシェルに対し、冷えた目で見下ろす妙子。


「なんじゃ、ずいぶんと強欲な『人攫い』じゃのう。」

「なっ!?」


「其方の都合で勝手に住処を奪われ、親元を離され、そして自分の支配下に閉じ込められ、戦いに投じられる。まるで奴隷じゃな。」

「おい、それは言い過ぎだぞ葉隠! 彼らは本当に困っているから、俺達を呼んだんじゃないか!」


 あまりの物言いに眼を見開いて妙子に近づく光彦。

 しかし、どこか切なさと怒気を含んだ妙子の瞳に押されて怯む



「誠意を見せると言うのなら、こちらにも譲歩していただかねばならぬものがあると、なぜそれがわからんのじゃ」


 やれやれと肩をすくめて光彦に一歩だけ近づくと、光彦を押しのけて王に目を向ける。


「王よ、お主は自分が言語も分からぬ土地に、金も地位も持たずに降り立てばどういう気分じゃろうか」


「む、ぅ………」


「しかも、こちらは無理やり“世界”から切り離されたのじゃ。元の国どころか、元の世界にも帰れないと来た。儂は正直、ハラワタが煮えくり返っておるのじゃよ」

「おい、それはさっき王様が頭を下げただろう!」


 光彦が妙子に詰め寄るが、妙子は光彦に一瞥もくれずに王を見据える。


 妙子は確信していた。

 この国は、勇者というモノに対して最大限の敬意を払っていると。

 宗教と同じで、勇者は神の使徒という枠組み。場合によっては“王”よりも上の立場にあるということを。


 上の立場にあるということは、情報戦に置いて、これほど優位なことは無い。

 できるだけの情報を引き出した上で、相手にこちらが優位になるような条件を飲んでもらえてこその、情報屋である。


 こちらの立場が上ならば、多少強引に迫っても、相手には拒否権は無いのだ


「頭を下げたなら許されるような問題ではないぞい。儂らは無理やりこの世界に連れてこられたのじゃからな。人攫いとなんらかわらんよ。」


 光彦を見ることなく、光彦を諭すように事実を述べる。

 好き好んで戦争に行こうとするものの気がしれないのだ。正義を振りかざして悪人を切れば、そいつはもう日常には戻れないことになぜ気が付かないのだと妙子は光彦の評価を下げた。


「そして王よ。お主は儂らにできることは何でもすると言った。ならば早急に手配してもらいたいのじゃが、儂らはこの世界の言語をまったく知らぬ。ここは魔法といった不可思議な現象が支配する世界じゃ。お主の指に嵌っておるそれはおそらく言語を理解させてくれる魔導具といったところじゃろう? ならばすでにこの地の言語を熟知しておるお主よりも、儂ら全員に寄越してもらえると助かるのう。多少時間がかかっても構わんが、できるだけ早急にのう。」


「わ、わかった。」


「最低でも5つ。これだけは今日中にそろえていただきたい。此方の世界の言語をわかるものが居た方が何かと便利なものじゃからのう」


「善処しよう。おい、今すぐ翻訳の指輪を手配するのだ!」


 王に命令され、急いで指輪を手配するために騎士たちは動き出した



「す、すげぇっぜぃ」

「絶対に妙子ちゃんには弱みを握られたくないにゃん」

「俺は誰だ!?」

「拙者のプライベートは誰にもわからないはずでござる。忍忍」

「葉隠に掛かればワイの手品のタネも見破られちまいそうや! 商売あがったりやで!」



 その情報戦に勝利して、王様から衣食住と指輪を勝ち取った妙子に戦慄するクラスメイト達。


「心配せずとも、儂はクラス全員分の弱味などすでに握っておるぞい」


「「「ひぃぃ~~~~~!」」」


 振り返りながら不敵に微笑む妙子に、一同は全身の震えが止まらなかったとか。



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