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プロローグ
桜が舞う季節――
「可愛いよ、お姉ちゃん」
ククッと笑いを堪えられないのか実妹である椎名那月は顔を伏せていた。
「うるさいよ、那月」
肩にかかるほど長い銀髪を結いながら、顔を伏せて笑いを隠している彼女に噛みつく。といっても勿論物理的にでは無いが。
やたらと長い髪の手入れはわりと時間がかかる、更には多少なりともの化粧などをしているとあっという間に出なければならない時間へ達してしまう。
「はぁ〜、入学式か」
"見慣れた"ブレザーを着て、ローファーを履く、ただそれだけの作業の最中にどうしたって零れてしまう愚痴、それが耳についたのか那月は嘆息した。
「それ何回目よ、お姉ちゃん」
「何回でも言うよ、我が妹よ
何が悲しくて一度卒業した高校に通わなきゃならないのよ。
それが本当に憂鬱なのよ」
椎名氷雨――旧姓名を椎名元というれっきとした男だったのだ。