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***  寝苦しい夜に

もう一本が途中だというのに新作になります。

こちらはサブでメインの投稿は『箱庭世界の予定調和』になるはずです。


作品としては、伝承などに忠実に、それでいて和洋中などちゃんぽんで賑わしいショートストーリーを書けていければと思っています。


積極的に説明をしていく予定は無い上に、今回の投稿した話では前置き無く名前が出てきています。追々、キャラについても出会いから語られていく予定なのでお付き合いいただければと思います。

よろしくお願いします。

 季節は秋へと舵を切ったとはいえ、日中の暑さは夜になっても引くことは無く、聞こえ始めた秋の蟲たちの合唱もどこか淀んで聞こえた。

 黒沢はベッドが自身の体温でぬるくなるたびに寝返りを打っていたが、それが十に達するといい加減寝ることを諦めて身を起こした。



 喉に渇きを覚えて訪れた一階には当然誰もおらず、窓から差し込む月明かりに侘しく照らし出されるだけであった。

 その月明かりがやけに明るく、気になり窓を覗くと寄り添うように二つの月が浮かんでいた。

 こちらに来た当初は惑星が、重力がなどと悩んだことが懐かしく思われる。



 照らし出された床に、灯りが必要無いなと軽い足取りで厨房に立ち入ると、さすがに奥まった所にあるため闇が深い。

 しかし、その中をぼんやりと漂う発光体がある。発光体は黒沢が寄ると吸い寄せられるように周りを漂い始める。

 黒沢は部屋を抜け出すとき指に引っかけてきた袋から魔石の欠片を一つ取り出した。



 指先でつまむように差し出すと、発光体が近づいてきてぴたりとくっつく。

静止するとその容姿をはっきりと見ることが出来た。

 手のひらサイズの人型で、羽を生やした生き物がそこには居た。

 水を司る妖精らしく、身を飾る貝殻の服の間からは虹色に輝く鱗が見えており、羽はトビウオのそれに似ている。

 水の妖精は魔石の欠片を受け取ると、嬉しそうにそれを掲げて泳ぐように宙を舞う。



「これに水をくれ」

 ひとしきり舞ったところにコップを見せると妖精がコクコクと頷き、コップには染み出すように水が満たされていく。

「ありがとう」

 手を振る妖精に見送られながら厨房を後にする。



 気前よくぎりぎりまで水で満たされたコップを零さないようにテーブルまで運ぶと一息ついて椅子に腰かける。

 片手では魔石の入った袋を何とは無しに弄ぶ。

 毎回用意をするのは面倒ではあるが、この世界の住人と違って魔力の無い黒沢に直接魔力を渡す事は出来ないので仕方がない。



 月明かりの中、明かりも灯さずに時間だけが過ぎていく。

 こうして夜を過ごすと昔を思い出す。

 あの頃の夜といえば、暴力と喧騒、それに人工の灯りに照らし出されていたが今はではずいぶん昔の事に思える。



 上の方からかすかに物音が聞こえてくる。

 人にしては軽い音なのでアルがネズミでも追いかけているのだろう。

 もっとも、猫のくせに足音を立てている時点で明日もホノに泣きついて魚を貰う事だろう。



 ガチャリ、と静まり返っていた部屋の中に音が響く。

 音の元をたどると隅に置かれたトレーと、それを部屋の隅の闇に引き込もうとした影がちらりと見えた。

 残されたトレーの上ではちぎられたパンと、量の減ったミルクが引っ張られたせいか揺れていた。

 どうやら黒沢が来たことで食事を中断させてしまったようだ。

 長居をする黒沢に我慢が出来ずにトレーを引っ張り込もうとしたのだろう。


 邪魔をしたことを心の中で謝りながらそそくさと席を立つ。



 二階に上がる途中で猫の悲鳴が聞こえて、時折聞こえていた物音は鳴りを潜めた。きっとハク様にやられたのだろう。

 寝静まって見える館でも、夜には夜で活動しているモノたちが少なからず居るようだ。



 気が付けば窓から見える月は一つに減っており、室内には色濃い闇が鎮座していた。

 これなら少しは寝やすいか、と黒沢はベッドに戻っていくのであった。


補足


夜中に部屋に置いたパンとミルクを食べていたのは誰でしょうか?


答えはホブゴブリン


ゴブリンの進化系?みたいな扱いが多いですが、伝承によるとわずかな報酬パンやミルクと引き換えにこっそりと家事をこなしてくれるいい奴です。

けれど、捕まえようとしたり正体を暴こうとすると手痛いしっぺ返しを受けることになるのでご注意を。

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