こんな夢を観た「新しくできたパン屋」

　近所にパン工房がオープンしたので、さっそく行ってみた。

　フランスパンや食パンなど、どこにでもあるようなパンと並んで、珍しいパンが置いてある。

「スルメパン？」わたしは思わず、口に出してそう言った。ナンのように平べったいパンだった。

「よろしかったら、試食をどうぞ」店員がスルメパンを少しちぎってくれた。

「あ、いただきます……」

　スルメパンは、紛れもなくスルメの味がした。それどころか、本物のスメルのように、なかなか噛みきれない。

「お客様、スルメパンは噛んで味わうものではないんですよ」店員が丁寧に説明してくれた。「ちゅうちゅうとしゃぶってお召しあがりください」

　なるほど、それでこそスルメパンだ、とわたしは納得した。しゃぶればしゃぶるほど、味が染みてくる。

　店員は別の棚のパンも勧めた。

「こちらのパンも、今たいへんに評判をいただいています」

　玄武岩がごろごろと置かれているようにしか見えなかった。その名も「岩石パン」。

「これ、本当に食べられるんですか？」わたしは疑った。

「もちろんです。少々お待ちください……」そう言い置くと、店員は店の奥へと入っていった。

　しばらくして戻ってくると、手にはのみとハンマーが握られている。

「ささ、これでパンを削り取ってお召し上がりください」

　わたしは言われた通り、岩石パンにのみをあてがい、ガンガンとハンマーで叩いた。石片そっくりな欠けらがぽろぽろとこぼれる。

　適当な大きさの欠けらを１つつまんで、口に入れてみた。やはり、小石のように固い。なんとか噛みくだいてみたけれど、奥歯でじゃりじゃりとして、ひどくいやな食感がした。

「歯が丈夫な人にはいいかもしれませんね」わたしは、当たり障りのない感想を述べた。しかし、内心では（好評って、いったい誰が）などと首を傾げる。

　さらに店内を歩いて回ると、他にも聞いたことのないパンが続々と見つかった。

「この『ジャ・パン』って、もしかすると、日本地図の形をしているからですか？」こんがり焦げ目のついたパンは、九州、四国、本州、北海道の全てが陸続きになっていた。ただし、北方領土の部分はすっぽりと抜けている。

「ええ、まあ、そんなところです。北の四島につきましては、現在、材料切れのため欠けてしまっていますが」

「ロシアの風当たりが関係しているんじゃないんですか？」とわたし。

「いえいえ、決してそのようなことは……」なんとも歯切れが悪い。

　「アンマンパン」というパンは、一見すると普通のあんぱんだった。

「これって、ただのあんぱん……ですよねっ」わたしが尋ねると、店員はぱあっと目を輝かせて、

「いいえ、お客様。これぞ、当店自慢のオリジナル・パンなんですよ。いいですか、ご覧下さい」そう言うと、アンマンパンを取って、ポクッと半分に割ってみせる。

　中は２層になっていて、中華まんがまるごと１個入っていた。

　そんなものが売れるとはとうてい思えなかった。けれど、店員があまり嬉しそうに話すものだから、そうとは言えず、

「あ、えーと……。他にもニクマンパンとかピザマンパンなんていうのも、いいかもしれませんね」と同調してみせた。もちろん、本心などではない。

「ニクマンパン！　ピザマンパン！」店員が叫んだ。今にも踊り出さんばかりのテンションだ。「あります、ありますっ！　ほら、あちらの棚にどっさりと！」

「うわ、あるんですかっ？！」提案した以上、買わないわけにもいかない。「すいません、じゃあ、それを５個ずつ下さい……」