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~ 目に見えぬ 軌跡伺う 白兎 蛇口の影の 矛先知らぬ ~

「へっくしゅ!!」


 女子校に似つかないクシャミを放つ。

 自分はどちらかとガサツな方だ。彼女は常日頃そう思っている。肩までの長い髪とスカート、凛とした顔立ちが彼女にとっての唯一の雌性の証だ。仮に髪を短くしてズボンを履いたならば男と間違えられても仕方が無い。それだけ彼女からは、品行方正という言葉は伺えない。

 いやむしろ、ここのクラスの殆どはそうなのかもしれない。表面上の女だけを取り繕って、心の奥底ではもっと自由に振舞うことを望んでいる。そういった自己主張は「校則をやぶる」という不思議な伝統に乗っかり、やがて「遊び女」としての肩書きを手にする。


「真昼間から凄いクシャミしてるね」


いつのまにか側にナツミがいる。


「おはよう、ナツミも無事だったみたいね」


 私はそっけなく流したつもりだった。


「昨日、何かあった?」


…今思えば、あれは現実の事柄とは思えなかった。

あの日、キキョウに助けられた後、その場で意識を失った。それがキキョウと合体したものによるものなのかはわからない。全身の重力がフッ…と消えるような、ほんの一瞬の出来事だった。


「アシガルに補導された」


それは本当の話だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 一面の暗闇から目覚めた直後、目の前にいた人間に動揺した。


「大丈夫ですか?名前わかりますか?」


 白いカーテンに囲まれたベッドに私は居た。直ぐ右側、女性看護士が目の前にいた。その奥にはアシガル、見慣れたガスマスクがついた顔が近い。


「?!!」

「路上で倒れてたんですよ、爆発事故の近くの」

「…え…?」


 体全体が軋むように痛い。よく見れば頭に包帯、体のあちこちにはガーゼがあてられ、着ているものも患者用と思われるパジャマだったた。身を起こしたところで奥のアシガルが歩いてくる。手には調査票みたいなモノを握っている。ご丁寧に私の前で敬礼をする。


「カツヤ・フレデリック一等巡士です。爆発事故の通報があったんで駆けつけたのですが、現場のそばでお嬢さんが倒れておりました」


「……」


 このアシガルはやけに丁寧だ。本来のアシガルは抑圧的な態度で接してくるのが殆どだったハズ。病院であることと自分が巻き込まれた被害者だから優しくしてくるのだろうか、

まぁもっとも、そんな行動をとったところでも私の中のアシガルの評価なんて変わりはしない。逆らえば捕まる、それだけだ。


「軽症も殆ど無かったので、特に入院の必要もなさそうですよ」


 看護師さんがそっと告げる。それは良かった話だが、一つ気になることがあった。


「…ロボット、」

「はい?」

「ロボットを見たんです」


 もちろんキキョウのことだ、襲い掛かってきた鬼面ロボットを含めての総称なのかはわからないいけど、一回り大きい…SFに出てくるパワードスーツみたいなサイズのロボットが確かに居たんだ。それに襲われ、殺されそうになった。


「……」

 看護士はアシガルの方を見る。当のアシガルも同じようなそぶりで看護士を見ている。「なんの話だ?」という会話を体で表現しているみたいなやり取りだった。


「あ!」


 今思えば口を滑らしてしまったようなものだった。当の自分がアシガルに逮捕されていたのを失念していた。喋れば当然疑いがかかる、もう遅かった。


「…アシガルなんておりませんでしたが?」

「…え?」


カツヤと言ったアシガルが口を開いた。


「調査は続いていますが、地下配管の爆発事故以外なにもありませんが?」

「でも、沢山のアシガルもロボットに殺されて」

「ですからアシガルなんて最初からいなかったですが?」

「そんな…」


 目の前で沢山のアシガルが死んだのに、なぜこのアシガルには何も伝わっていないのか?組織に対する知識なんて噂ぐらいにしか聞いたことないけど、自分なら直ぐに身内に連絡ぐらいはする。確保した容疑者とか襲われた状況とか。


「人は事故のショックで記憶の混濁や幻覚を見ることがあります、」


 看護士が割って入ってくる。


「事故直後なので不安になっているとは思いますが、今はゆっくり休んでいて下さい」


この人は何をわかっているつもりなのか、苛立ちが私の体を駆け巡る。


「でも!本当に!!」

「その話は参考意見としてもらっておきます、ではこれで」


 勝手にアシガルが部屋から去っていく


「現実に起きたことを仰りたい気持ちもわかりますが、よく落ち着いてからお話を伺いますので…」

看護士が話を終わらせようとしてくる、身も蓋もない話であれば話をそらしたいのはわかる。でも信用されてないこと自体が問題だ。証拠が無いのであれば、もう何も出来ない。


「そんな…」

「とりあえず、ご両親に連絡して迎えに来てもらうように手配しますので、電話番号を教えていただけませんか?」

「え?」


 それも考えていなかった、搬送された以上、実家に連絡しなければさらに不審がられてしまう。


「えっと…ケータイが無いと…わからない」

「ちょっと待っててくださいね、今倉庫から貴方の持ち物取ってきますから、」


 そういって看護士は部屋を出て行った。


「……」


 私は今の家の電話番号を知らない。忘れたというわけじゃない、ただ単純にかける必要が殆どなかったからだ。今の両親とは、話すことはそんなにない。いやむしろ、話すことそのものが嫌だった。当たり前のように食事をし、当たり前のように接しているだけで、本当に自分を可愛がっているかどうかさえ怪しかった。


 日米文化交換政策。日米の国交が弐百年経ったことを記念して、当時の日本政府とホワイトハウスが提案した「日米両方の都市ごと文化を交換」するという前例の無い試みの計画、その政策によって京都がKyoto-Cityとして欧米文化をとりこみ、Bostonが京都風の街並みのようになり、波士頓と漢字を当てられ、多くの日本人がそこ迎え入れられた。6年前の政策開始の時に、私は実の父親とこの街に越してきた。ジャパネスクに彩られたボストンの生活は心地よかった。なによりも、米国との貿易関係で何度も本土の家から離れていた父親と一緒に暮らせることが嬉しかった。だけど幸せは長くは続かなかった。二年後、日本本土が閉鎖され、その一年後には愛する父親も、事故で死んだ。


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