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~ 深園に 追ひ詰めらるる 手弱女の 叫ぶ心は 鬼の呼び声 ~

ドシン…


護送車みたいな堅苦しい乗り物の中にコハナは居た。既に派手な私服は煤に汚れ、ウィッグも既に失くしていた。樹脂手錠で両親指を拘束された上、両サイドのアシガルに腕を強く握り締めていた。


 コハナはついさっき、ようやく自分の今の状況を悟った。「これは逮捕されたのだ」と。自分が何もしていないのはちゃんと説明すればわかってくれるはず。自分は何も悪いことはしていない。そうだ、私は何も悪くないと、この状況は理不尽だ。ようやくそこまで思えることが出来た。


 アシガルは支援設立政府武装警察隊(AsSIsted Government’s Armed poLice)の略に、日本の歴史に存在した歩兵の意味を掛け合わせて呼ばれている。奇病が蔓延し続けているとされる日本のために米国が与えてくれた保護区・ボストン。それを総括するために建てられた日本人による組織・波士頓政庁。アメリカ合衆国にて保護された数少ない日本人を取りまとめるために生まれた組織だ。


日本人を完全保護するために立てられた組織。聞こえはいいけど、実態は抑圧的な力で市民を押さえつける、ただの強行勢力となっている。生きるために必要な土地を「貸して」貰っているという事実のためか、彼らは保護日本人に対し必要以上に謙虚な生き方を強制している。


ボストンで起きてしまう事件は日本そのものを表すことになるからか、デモ行為、プロパガンダはもちろん。必要以上の自由も時に標的とする。しつけという名前で

虐待を行っているのと同じだ。コハナは常に思っていた。


 ドン!!


 護送車の上から重い何かが降ってきた。コハナを含めた全員が訝しがる。


「何だ!?」「使い手が来たのか!?」「そんな、あれは喪失体のハズだろ…」


護送車が停止する。中のアシガル一人が扉を開け、そして驚愕した。


「うわ!!」


そのアシガルは「何か」に上に引っ張られた。コハナとアシガルたちの視界から消え去る。直後、アシガルがもといた場所に…血が滴った。


「まさか、喪失体か!?」

<総員、戦闘態勢に入れ!>


後ろを走っていたトラックから音声が轟く。護送車と装甲車からアシガルが出てくる。全員がアサルトライフルを構える。どれもセーフティーは外されていた。


<撃て!>


トラックからの命令に全員が反応、一斉に護送車上の「何か」に向けて発砲を開始した。護送車からはよく見えない。だがその時、衝撃とともに護送車が横転した。


「きゃあああ!」


座席から転げ落ちるコハナ、90度変わった室内で外を見やる。光景が瞬時に切り替わった。「何か」は、いや「何か」もロボットだった。先ほどに見た傷だらけのロボットじゃない、大きな首に手足が張り付いた鬼だ。それ以外に形容しようが

ない。


「ダメだ!きかない!」

「30分後に応援が到着する!持ちこたえろ!」


皆を励ましたアシガルが次の瞬間、姿を消した。逃げたわけじゃない、彼は鬼面ロボットの口に捕らえられていた。犬歯が腹部に突き刺さっている。


「ひるむな!なんとしてでも目標は奪われるな!」


目標?あの傷だらけのロボットのことだろうか?


護送車から出たコハナは、車体の影で様子を見ていた。今すぐにでも逃げ出したい、だけどアシガルに捕まった以上それはどうしても出来ない。事情も話さないままの逃亡は、自分があのロボットたちと関わりがあるからと思われてしまうからだ。

ひとまずは、アシガルが優勢になるまでを祈る。皮肉なものだ、嫌われ者の武装隊に捕まっているのに、その勝利を祈るなんて…その時だった。


ヴ…ヴヴヴヴヴ


向こうに見えるアシガルのトラックが震えた。後部の積荷部分から幌が投げ出される。そこから立ち上がったのは、先ほど見た傷だらけのロボットだった。自分と同じく、アシガルに捕獲されていたみたいだった。


「しまった、目標が!」

「バカな!なぜ動ける!!」


傷だらけのロボットはアシガルに目もくれず、振袖から出したマチェーテを取り出す。刃先を鬼面のロボットに向け、一気に詰め寄った。


ガァ!!


鬼面ロボは角ではじき返す。傷だらけのロボットはひるみ、懐に拳を叩き込まれ、そのまま地面に押さえつけられてしまう。


コハナの隠れている護送車にも波紋が及ぶ、地割れの衝撃が地面を揺らす。


「きゃあ!」


傷だらけのロボットに気をとられていた鬼面ロボは、アシガルに向けて歩を進める。アサルトライフルの集中砲火を浴びるものの、鬼面にはヒビも入らない。アシガルは何のために傷だらけのロボットを守っているのだろうか、


「…あ」


既に車体から身を乗り出していることに気付いた。そして、アシガルは既に全滅していた。残った一人が拳銃で応戦するも、次の瞬間には頭部が食いちぎられていた。鬼面がこっちに振り向く、気付かれてた。


「…いや…いやぁ…」


死ぬとかは、不思議と頭をよぎらない。ただ身体だけが、怯えていた。

足元を見る。傷だらけのロボットがコッチを見ていた。


「…助けて」


ロボットは何も喋らない。頭部の複眼が光っただけだ。


「…助けて、」


鬼面ロボが近づいてくる、向こうに転がっているアシガルの死体のように、自分もぐちゃぐちゃに食べられてしまう…。


「助けて!」


コハナは叫んだ。

その時、傷だらけのロボットの腹部が開いた。中から触手のようなケーブルがコハナの身体に巻きつき、そのまま体内へ身体を引きずり込む。


「な!なにこれ!」


ロボットの体内に閉じ込められた、そこでコハナの視界は一度黒に染まった。


グアァァァ!


鬼面ロボが、コハナを収容したロボットに襲い掛かる。しかしなぜか、顎がピクリとも動かない。顎間接部にマチェーテが突き刺さっている。


ガァァァァ!


 鬼面ロボは痛みに喘ぐ。


《…ここは?》


コハナの視界が回復する。目の前にはマチェーテが突き刺さった鬼面ロボがのたうちまわっていた。

《…あのロボットの…中?》


ギシャアアアア!!


鬼面が近づいてくる。無意識に手が伸び、鬼面ロボの頭部の角を押さえつける。


《…!、この!》


鬼面ロボの顎部を蹴り上げる。間接部のマチェーテが深く食い込んだ。


ギャガアア!?


鬼面ロボが仰け反る。後ろに下がり、右の振袖からもう一つマチェーテを抜く。柄部分をよく見れば、日本刀のような鍔が見えた。


《これで…!!》


鬼面ロボの咥内にマチェーテを突き刺す、奥に食い込んだ刃先が火花と共に背中から飛び出す。顎に突き刺さったままのもう一つのマチェーテの柄に左手をかける。

深く差し込んだ後に、両方とも一気に引き抜いた。内部のパーツが鬼面の口から弾け飛んだ。


ガ…ア…


鬼面の身体が火花がはじけ飛ぶ、次の瞬間。


ドオォォン!


鬼面ロボの身体は爆散した。風と熱が身を焦がした。


《…やったの、わたし…?》


そこにきて、ようやくコハナは理解した。自分があの傷だらけのロボットと一体化しているということを。


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