~ 白霧の 先見えられぬ 奥行きは わが御世に降る 厄事示さん ~
カミオ・エンハイヴは典型的日本人気質だ。規則を忘れず、礼儀を忘れず、自然の趣きを愛する彼は、自他共に認める日本人気質だ。
ブルックライン署の刑事課の新人である彼は、研修名目で今日も猟奇殺人現場へと派遣される。
「ウッ!!プス・・・」
「何についてOops(おっと!)なんだ?」
教育係で上司のエドワード・モンテグレー警部がカミオに話しかける。
「いえ・・・慣れてなくて・・・」
カミオの足元には吐瀉物がぶちまけられている。
現場の端には人の右腕らしきもの、その反対側には左腕らしきもの、
奥には人の頭頂部らしき毛髪と頭皮、人型に囲まれた白線には消化器官とすり潰された肉の塊が残されていた。
「俺は慣れているように見えるか?」
「え?ええ・・・」
「俺だって気持ち悪いぜ?けど、オメーと違って、この年でオモラシするわけにはいかねーしな・・・」
「これは漏らしたんじゃありません!」
カミオは自身の吐瀉物を指し、精一杯抗議した。
「漏らしたんだろ?お前さんの口から?『お漏らし』って、液体が漏れるから『お漏らし』なんだろ?固形物混じってはいるが、液体にはかわり無ぇだろ?それに『漏』という字は・・・」
「わかりました!もう・・・」
説明大好きな上司は、そのまま白線上の肉塊に近づく。
「カミオ、お前コレなんだと思う?」
「え?ああ、爆発物による殺人とかじゃないですか?」
「そうじゃねぇ」
「はい?」
「この肉塊が人間なのかって聞いてんだよ、」
「え・・・そんなの・・・当たり前じゃないですか?」
「ほう?なぜ断定できる?」
「なぜって・・・」
端の残りの肉塊を指差す。その瞬間、胃に違和感を覚えた。
「ヴー!ップス・・・・・」
「だらしねぇな、」
エドワード警部はこういう人間だ、サディスティックまでいかなくとも、
人に無茶をさせて楽しむ人種である。
「まぁ、お前の言うとおり人間の残骸だよな」
入り口はブルックライン署の巡査やアシガルの警備班で固められている。
彼らの隙間から物々しい装備のアシガル・調査班が顔を出す。
すぐさま肉塊にとりかかる調査班を後目に、エドワード警部はアシガルの隊長に声をかける。
「例の喪失体とやらの可能性は?」
「・・・ほぼ間違いではないかと、」
それだけを聞くと、エドワード警部は去ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
新人警部補のカミオは走り出した。
驚いたことに、ブルックライン署の全員が引き上げる支度をしていた、
手馴れた様子は、今回が始めてのケースではないことを意味していた。
「いいんですか!?我々が残らなくて?」
新人であるが故に、事情を知らない。
「あとはアシガルの管轄だ、我々公務員ができる事はない、」
「できる事はないって・・・なにも出来ないんですか?その喪失体とかって、なんですか?」
ふとエドワードが振り向いた。「カミオよ・・・」
これ見よがしに顔を近づけてくる。
中年の匂いがカミオの鼻を刺激する。
「世の中・・・下手に首突っ込むと、死ぬこともあるんだぜ?組織の陰謀でも、サイコパスでもない、得体の知れない何物かにな・・・?」
聞けば戻れない・・・
エドワードでさえ関わりたくない何かがある、
彼は正体を知っているのか?
その質問さえ受け付けてくれない、そんな気がした。
煮え切らない感情だけが、現場に残った。
はい、3話目の投稿にます!
前話が長すぎましたので、すこし短めのコントを描かせてもらいました。
感想は大歓迎ですので、どしどし送ってくださいな!