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百年ひとり

作者: ナガツキ




おい少年

お前は私が怖いか?



いえ



ならば

お前は鬼を知らぬのか?



いえ



‥なぜ私を怖がらぬ?

お前は村の大人たちに

生贄として差し出されたのだぞ?



あなたが鬼ではないからです

私はあなたが怖いとは思いませぬ



何を言う?

人間にはないこの尖った角も

狼にも負けぬ鋭い歯と

よく切れる長い爪も

地獄の炎のような真っ赤な色をしたこの瞳も

私が鬼であることを証明しているのだぞ?




それは違います

そんなものはあなたが鬼と証明するものでも

なんでもこざいませぬ

あなたには人として一番大事な

心というものがあります



心だと?

何を根拠に

お前に私のことなどわからないはずだ



いいえ

私はわかります



なに?



十年前

この山奥へ私がひとりで迷い込んだときのことでございます

美しい紅葉をみに母と2人できたはずが

私はひとり母のもとをはぐれ

迷子になってしまったのです

当然食べるものもなく

もうこのまま死ぬのかと

私は暗闇の中意識を手放しました

暗闇の中はとても居心地が良くて

死というものはこんなものなのかと

思い始めたときでした

私はどこか遠くで母の声を聞きました

私の名前を呼んでいる

そう気づき目を覚ましたときには

私はいつもの布団の上へと寝かされていて

目の前には心配そうな母の顔がありました

幼い私がなぜ山奥へ迷い込んだのに

村へ続く道の途中に倒れていたのか

村の誰もわかりませんでした

‥でも私は確信していました

山奥に住む

鬼と呼ばれるあなたに助けられたのだと

鬼と呼ばれ

恐れられてきたあなたが

恐れてきた人間である私を助けてくれたのだと

‥いつか

いつか恩返しがしたいと思いながら

私はあの時のことを忘れることなく過ごしてきました

そしてついにその機会は与えられました

百年に一度行われるという生贄の儀式です

数年前あなたの住処である

あの山奥へ迷い込んだ無礼者として

私は真っ先に名前を挙げられました

自分が生贄にはなりたくない

村の者全員の目が

そう言っていると私は思いました

心が鬼のような村の者たちと

姿だけで鬼と恐れられているあなた

どちらが本当に恐ろしいものか‥

もちろん私は拒むことなく従いました

あなたに御礼を申したい

その一心で

私はひとりで再びこの山奥へと歩いてきました



ーーおまえがあの時の‥



これからは私が側におります

私が生けるその日まで

あなたの側にいさせてください



‥‥シラン



え?



シランと呼べ



‥‥シラン、ですか?



あぁ

何百年も前に

私を慕い

命尽きるその日まで

私と共に過ごした女がつけた

最初で最後の私の名だ



‥シランさん



なんだ?



私が側におります

‥ずっと側におります



あぁ

少年‥‥いやキセルだったか



はい



長く生きろ

私の側に少しでも長く‥

生きてくれ



はい、

シランさん






最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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