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『箱根の坂』:(司馬遼太郎)

 上・中・下の全三巻構成だが、なぜか上巻だけ見つからなかったために中・下の二巻だけ読んだ。ただしそれで十分だった。ちょうど中巻から妹の縁を頼って駿河へ下っていくところだった。

 この小説の主人公は北条早雲だ。戦国時代をいち早く先駆けた武将として有名だ。戦国時代は早雲から始まり、信長で終わると言えるだろう。そんな早雲について現代人が持っているイメージは「戦国のカーネルサンダース」ではなかろうか。50歳でようやく城を持って戦国デビュー、88歳の生涯を使い切って、後の北条氏の基礎だけでなく、戦国大名というモデルケースすら確立した。

 ところが最近の研究によって、今まで早雲の生まれた年と思われてきたのが実は父親の生まれた年だったことが判明。実際の早雲の生まれた年は今までより20年後だということが濃厚になった。なぜこのようなことが起こったのかというと、当時の武士は名前をコロコロ変えていたし、官職を名乗ったりするから、同一人物かどうか見分けがつかないからだ。斎藤道三も、かつては一代で油売りから国盗りをしたと言われていたが、研究が進んで実は親子二代だったということが判明した。あれと同じだ。

 20歳も若返ると、早雲のイメージもだいぶ変わってくる。「戦国のカーネル・サンダース」というより、まさに若い改革者というイメージに近い。今まで疑問に思っていた、早雲の妹との年の差なども、これで綺麗に解消された。それに最晩年、早雲は相模の東に割拠する三浦氏を滅ぼすため、自ら刀を振りかざして馬を駆って指揮したと伝えられている。最晩年だから、80代半ばを過ぎた爺さんが刀を振り回していた、ということになって、いくら健康に気を使っていたとしてもかなり無理があった。しかし20年若返れば、そこまでありえない描写ではなくなった。

 さて、そんな最近の研究など、もちろんこの小説に反映されているわけもない。では、『箱根の坂』なんて読む価値のない時代遅れの歴史小説なのだろうか?

 いやいや、そんなことはない。むしろ早雲を知らない人こそ読むべきだ。これを読むことで、室町と戦国の時代の境目というのがよく分かるからだ。

 早雲という人物描写よりも、早雲の生きた時代描写の方に重きが置かれている。飄々とした仙人のような人間として描かれているが、やはり実際はかなり意欲を持って改革にあたったのだと思う。

 当時の経済情勢。戦国時代の経済は農業が主体だが、農業生産の向上によって収入が増え、非正規に武装した農民(地侍、国人)たち。また、次男三男で田畑を相続出来ずに、農業社会から疎外された足軽たち。農民を横に結びつける、新たに興った宗教。そしてどんどん実権を失い、有名無実と化す守護・地頭たち。この時代、民主主義というのはなかったが、結局は民衆の支持を得たものが戦国大名として発展していくことになる。そういう意味で、今の民主主義というのを見直す機会にもなるのではなかろうか。

 最近では消費税が上がった。どこかの「命がけで増税」した元首相はこの本を100回読み直すといい。いい政治とは、すなわち税が安いことだ。早雲は四公六民で民から絶大な支持を得た。そのために自らの生活水準を落とし、無駄な戦は徹底的に避けた。また、流れ着いた身一つの農民には費用を出して田畑を開墾させた。

 今の政治は全て逆だと言っていい。しかも肝心の国防に関しては全くの無知・無関心だ。室町末期の守護地頭のような政治家は、これからあっという間に滅んでいくだろう。高度経済成長からバブルを経て、完全に経済情勢は変わったのに、未だにバブル期以前の体勢では、いつか破たんするのは目に見えている。

 まあ、あまり現代の情勢を語ると脇道にそれまくるので止めるが、現代に通じるものがあるからこそ、歴史というのに学ぶ意義がある、ということだ。

 そしてその歴史を早雲という人物を通じて、分かりやすく描いた快作だった。


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