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『楽園の知恵』~~春の牧野修祭り~~:小説

 かつて読んだ本をもう一回読み直してみるか、と思って取り出したのが、この牧野修の『楽園の知恵』。副題として「あるいはヒステリーの歴史」と銘打たれている。なんかもう、よく分からんタイトルである。表紙の絵は山本ヤマトだが、こればっかりは完全に選択ミスだと思う。表紙だけ見るとちょっとディープなライトノベル系に見えるが内容は全くそうではないし、一般文芸を目当ての客からも表紙で敬遠されそう。何かよく分からん表紙である。山本ヤマト氏は素晴らしいイラストレーターだと思うし、この絵だっていい絵だと思う。ただ、内容にあってないだけだ。べクシンスキーの絵にしなさい。

 そしてあとがきの解説が平山夢明と豪華。あらすじはこの解説を読んで欲しい。ネタバレとかないし、上手いこと説明してある。平山夢明作品が好きな読者なら、間違いなく買いだと思う。

 この短編小説集も、昔に買ったときはよく意味が分からなかったが、今になって読み返してみると面白い。よくこんなもの思いつくなぁ、と思うようなぶっ飛んだ設定に独特のユーモアセンスが混ざって、なんかもう、どうしようもなく歪みまくってる。そして歪んだ状態のまま、アクセル全開で前か後ろか、右か左か分からない、どことも知れない場所へ向かって物語は失踪、じゃなくて疾走してゆく。

 まあ、正直ラストのオチとか何かよく分からないものもチラホラあるが、全体的な雰囲気が楽しめればいいんじゃね? 個人的に一番好きなのは『インキュバス言語』。完全にギャグ小説になっているし、最後は宇宙がアクメるとかどうなってるんだろう。

 あとは『踊るバビロン』。生体建造物という発想自体が面白い。長編小説の『傀儡后』でも何かよく似たような設定のものが出てきたように思う。こっちはもっとぶっ飛んでいて、生きた屋敷がそのまま暴走、島ごと飲み込んで巨大な建造物になってしまうというもの。ブラムも暴走した建造物を描いていたが、あっちは完全にサイバーパンクSFだった。こちらも設定的にはSFなのだが、どことなくファンタジーな雰囲気も感じさせる。そういう意味ではゲームの『バロック』が一番この小説の雰囲気に近いのかもしれない。

 様々な要素がごっちゃになっているにも関わらず、そのどれもがよく煮詰められて妄想の楽園やで~、あ、タイトル回収。ひょっとしたら、タイトルの「楽園の知恵」というのは腐った神の妄想のことなのかもしれない。

 とにかく踊るバビロンなのだが、これは小説本編はもとより、そこの注釈も面白い。もちろん、その注釈も小説の一部である。生体建築に取り込まれた家具人間と、その奴隷の物語は歪んだ師弟モノ。全の要素もちりばめられていて面白い。最後のオチも生体建築というのを上手いこと生かしている。是非ともこの短編は長編かして欲しいなぁ。

 もう一回読み直して再評価されたのは最後の3編だ。『或る芸人の記録』は宇宙的漫才師が『トップをねらえ!』に出てくる宇宙怪物みたいなやつと“笑い”を武器にして戦うというもの。よく考えたよ、これ。そしてよく真面目に書く気になったものだと思う。怪獣が笑うところが何気に好き。最後は芸人らしい、素晴らしい最後だった。

 お次は『憑依忌憚』。これとラストの『逃げゆく物語』は、小説でしか表現できない物語で設定もよく捻ってある。今までの読者完全突き放しぶっ飛び道中から一転、しっとりとした食感のいいデザートになっている。

 もう普通の小説じゃ感じないの……そんな淫乱読者は是非とも手に取ることをお勧めする。とんでもない暗黒の絶頂へとあなたを導いてくれるだろう。


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